私、カマキリになる。
どうも、イトーです。
武器屋に教材用の棍を買いに行ったら、なんとなんと日本刀に遭遇してしまうという奇跡が起きたので、奮発して買っちゃいました!
「んふふ〜♪
この手触り、この滑らかさ、この曲線美……!
あはぁ〜///
帰ったら早速抜いてみよぉっと!」
日本人ならば、刀に憧れても致し方なしだよ。
憧れなければ日本人失格とまで言えるね!
……とはいえ。
私の知識や経験の中には、刀を扱ったという情報が1つもない。
なんかこう、円を描くように斬る?とか、たたっ斬るんじゃなくて引くように斬る?とか、そういう情報は頭の中にあるんだけど、イマイチよくわからない。
これは、あとでじっくり触ってから堪能して覚えていくしかあるまい……!
ぅふふ。
帰ってからが楽しみになってきた!
私はスキップを踏みながら、果ては鼻歌まで歌いながら宿泊先である『夕焼け亭』へと向かった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
日はまだ高く、お昼には少し早いという時間。
私は宿の裏にある庭を借りて、早速刀を抜いてみることにした。
「おおぉ……!」
魔物の革でできた柄の布地が、私の手にしっかりと握られている感触を堪能する。
正直なところ今の私では重すぎて、刀を両手で持つのが精一杯だったが、そこは気合いでなんとかした。
スラァ、と鞘から刀身が抜け、日光が反射しキラリと光る。
「おほほおぉ……!」
興奮!
これが興奮というものだよ諸君!
クリーパーの腹を切るために抜いたナイフとは違う!
本物の武器としての凶的なまでの存在感が、今私の手の中にある……!
そう考えると、もう何でもいいから刀を振り回したくて仕方がなくなってしまう。
「……ゴクリ」
私はツバを飲み込むと、刀を鞘に戻して、邪魔なケープをポーチの中に突っ込んだ。
……よし。
準備は整った。
あとは見様見真似で抜刀して、架空の敵をバッサバッサと斬り倒すだけ!
こんなこと、前世の世界じゃちょっと恥ずかしくてできなかったけど、ここでは違う。
この世界にはリアルに魔物がいて、魔法があって、剣がある。
身近に命を狙う危険があるのだから、こうして剣や刀を振るうことは、別におかしい事では無いからな。
「すぅ……はぁ……」
深呼吸を1つ。
私は、漆塗りの黒い鞘を腰に佩いて、時代劇で見た殺陣の真似をするかのように、抜刀の構えをとった。
意識が研ぎ澄まされる。
体の内側から何かが流れ出し、腕を伝って刀に注がれていく。
――ハラリ。
目の前を木の葉が舞った。
「――ッ!!」
その次の瞬間、私は声にならない気合を乗せて、白銀色の軌跡が迸らせた。
シュッ!と、短い風切り音が鼓膜に届く。
……が、しかし。
「う、うぉ、あれ?」
ここでカッコよく決めて納刀のつもりが、どうやら私の筋力か体幹がなっていなかったせいか。
私の体は、振り抜いた日本刀の勢いにつられて転倒してしまった。
「っつつ……」
虚しい土煙だけが庭を舞い、取り落とした刀の立てる悲しい金属音だけが、昼前の庭に響いた。
「あーくっそぉ……。
なんかイケると思ったのになぁ」
あの感覚は何だったんだよ?
まさかとは思うけど、ただの幻覚とかじゃないだろうな?
だとしたら私めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。
私は立ち上がると、パッパッと服についた土埃を落として、取り落とした鞘を納刀する。
「やっぱりあれかな。
基本がちゃんとできてないからこうなるのかもしれない。
やっぱりはじめは素振りから始めるべきだったか」
調子に乗って架空敵と戦う〜なんてしようとするからこうなったんだな、きっと。
「あー、でもそうだな。
やっぱり刀を振るえたってのは感動したな、うん!」
よし。
これからは毎朝日課として素振りをすることにしよう。
何、息子がまだ存命していた頃、毎朝可愛がってあげていたじゃないか。
それが女になってからは、この素晴らしき日本刀『桜吹雪』を愛でる時間に変わっただけのこと。
……うん。
何も寂しくなんかないんだぜ。
……本当に、寂しくなんか、ないんだからな?
⚪⚫○●⚪⚫○●
昼食後。
私は宿屋に借りている部屋のベッドの上でゴロゴロしていた。
まだ夜までかなり時間が余ってしまったため、非常に暇なのだ。
暇だから暇ついでに、とりあえず読めていなかった冒険者学校のパンフレットを覗いていたのだが、それにももう飽きた。
『桜吹雪』の手入れも取説通りにやって終わっちゃったし、もう何もやることがないのだ。
……え?
木の棍は振り回したりしないのかって?
……あー、うん。
まあ、これ以上汚れるのも嫌だしなぁと思ってさ。
あ、ちなみに服が汚れてしまったので、今は下着姿でゴロゴロしてます。
流石に砂がついたままベッドに入るのは不衛生だと思ったので。
……え?
替えの服とかはないのかって?
あー、うん。
あれ一張羅だし。
ゴブリンから剥ぎ取ってきたボロボロの服はもう捨てたし、あったとしても着る気が起きないし。
「あー、暇だぁ。
暇だし、とりあえず自分のステータスチェックでもしてみるかぁ」
ステータス、といっても所有スキルがわかる程度のものなんだけどな。
ということで、私はベッドの下に放置していた黒いポーチを引っ張り上げると、中身をゴソゴソと漁って『スキル判定紙』を取り出した。
「さぁて。
私のスキルはどれだけ成長してくれたかなぁ?」
外を出歩くときはほぼ毎回隠蔽スキルを使っている。
となれば、それなりにレベルが上がっているだろうということを期待してもいいだろう。
私はわくわくと心を踊らせながら、紙に手を置いて魔力を流し込んだ。
強奪Lv.2
通常攻撃時に泥棒スキルを付与する。
このスキルによって対象の生命を奪い取った場合、ランダムで対象の保有するスキルを1つ獲得する。
逃走Lv.2
逃走時にAGIを少し強化する。
泥棒Lv.2
ランダムで相手の持ち物を奪取することができる。
また、逆に相手から泥棒されにくくなる。
隠蔽Lv.3
任意の対象を見つかりにくくする。
詐欺Lv.1←new!
嘘を見破られにくくなる。
また、嘘を見破りやすくなる。
受け身Lv.1←new!
投げ技の被ダメージを少し軽減する。
交渉Lv.1←new!
交渉事がちょっとだけ上手くなる。
トリモチLv.3←new!
粘着性のクリーパーゴムを生成・射出する。
短刀術Lv.1←new!
武器カテゴリ:ナイフでの攻撃力に少しボーナスがある。
武器鑑定Lv.2←new!
武器を鑑定する。
抜刀術Lv.1←new!
抜刀時、AGIとDEXを少しだけ補正する。
おおう……。
何ということだ、強盗スキルのレベルが上がっちゃってるよ……。
これでもし所有スキルがバレたら、絶対に即檻の中にぶち込まれるぞ……。
しかもなぜか知らんが詐欺スキルまで増えてるし。
加えて詐欺スキルの下には交渉スキルだなんてものまであるぞ……。
これバレたときどうやって言い訳すりゃいいんだよ……。
「まあ、弁明スキルじゃないだけまだマシか……」
トホホ……。
さてさて、他には……受け身スキル?
あー、そっか。これ多分エルフちゃん助けたときのやつだな、きっと。
んで、トリモチスキル……はアレだな。チャラ男倒したときのやつだ。
あと……短刀術……はクリーパー切ったときかな?
お、武器鑑定スキルなんてのもある。
これは……武器限定の鑑定スキルか。
何に使うのかはよくわからんが、持っていて損ということはないだろう。
少なくとも、今後冒険者学校で習う予定の『武器知識』の授業ではカンニングし放題で役立ちそうだしな。
んで、最後に抜刀術スキル。
これは間違いなく、さっき庭でやってたモノマネの影響だろう。
「……ん?」
と、そこで私はあることに思い至った。
「それにしても、スキルってこんなに早くホイホイと獲得できるものなんだろうか?」
ラノベとかだと、一般キャラ……つまり原住民のスキルの獲得速度は遅いことが多い。
それに対して私のスキル獲得速度はといえば、何かをした途端に新しいスキルが増えている……ような気がする。
「……もしかして、これがこの境での私のチート能力?」
いや、単に偶然スキルを獲得しやすい時期だった〜とか、物覚えがいい体質だった〜とか、そういうことも考えられる。
一概にこれをチート扱いするのもどうかと思うのだが……。
「……試すか」
私はポツリとつぶやくと、先日大量に購入した紙とインク、ペンを引っ張り出して、取り付けられていた机に向かった。
「さて、まずは計算から試してみるか」
もしかしたら演算スキルとかそんな感じの物を獲得できるかもしれない。
私はインク壺の蓋を開けると、ペン先を浸して紙に数式を書き出す。
書いた計算式は、簡単に『1+1=2』。
「……我ながら書いててちょっと幼稚な気がしてきたな。うん」
どうせなら、もっと難しい式にしてみよう。
というわけで、次に書いたのは『E=mc^2』。
かの有名な物理学の公式である。
「うん。これならイケるだろう」
そう言いながら、持ってきた判定紙に手を置いて魔力を流す。
しかし、そこに表示されたスキル欄にはなんの変化もなかった。
……。
……ですよね〜。
「う〜ん、何か一定の条件をクリアするとか、なんかそういう法則がある……のか?」
わかんねぇな……。
私はため息をつくと、う〜ん……と悩ましげな声を上げた。
「う〜ん、紙無駄にしたくないし、まだ何か、紙に書いて獲得できそうなことって無いかな……」
そんな感じでいろいろ考えながら紙に色々書いたりして実験を試みる。
以下、試したこと。
英語や漢語で文を書く→予想:翻訳系のスキル→何も起こらなかった。
図形を書く→予想:幾何学者とかなんかそういうの→何も起こらなかった。
絵を書く→予想:画家→描写スキルゲット。
筆算してみる→予想:数学者→何も起こらなかった。
証明問題を解いてみる→予想:演算→演算スキルゲット。
人工言語を作る→予想:解読→暗号化スキルゲット。
ナゾナゾを書いて解く→予想:解読→何も起こらなかった。
折り紙にする→予想:造形とかものづくりとかなんかそういうの→何も起こらなかった。
ビリビリに破いてみる→予想:攻撃系のスキル→何も起こらなかった。
「うーん……。
別に何かをしたからといって必ずしもスキルを獲得できるわけではないみたいだなぁ」
私は細切れになった紙をゴミ箱に捨てると、判定紙を片手にベッドまで戻る。
さっきの実験結果から考察すると、たぶんスキルの獲得には何らかの条件があるのだろう。
そして、その条件を満たせば、その条件にあったスキルを獲得できる。
その条件とやらはなんだかよくわからないが、ざっとこんな感じだろうなぁ。
「……これ、チート能力って言えるのか?」
私はため息を付きながら天井を仰いだ。
この世界の住人のスキル獲得率がよくわからない以上、考えても無駄だろう。
だったら、考えない方が楽でいい。
私は結局そんな結論を導き出すと、今日はもう疲れたのでさっさとご飯食べて寝ることにした。
描写Lv.1←new!
絵を書くのが少し上手になる。
演算Lv.1←new!
思考演算効率に少しボーナスがある。
暗号化Lv.1←new!
対象の情報を暗号化して認識を妨害する。
隠蔽スキルと詐欺スキルの発動時に少しボーナスがある。




