私、カモになる。
どうも。
マーリンさんだけは普通人だと思っていたら、思わぬところで彼女の性癖が暴露されてしまい、ちょっと困惑気味のイトーです。
うーん。
まさか、私の下着姿に興奮して鼻血ぶっぱするとは思わなんだ……。
これは流石に予想できなかった。
これじゃあ、下着脱いで裸になったら気絶モノなんじゃないのか?
そう思い試しに聞いてみると、彼女はこう答えた。
「それはないかしら」
「即答……」
私はキャミソールを脱いで上半身を晒すと、服を畳んでロッカーの中に入れる。
なんで下着姿はアウトなのに、裸はオーケーなのか。
刺激が強いのはどう考えても裸の方だと思うんだけど……。
と、思いきや
「だって、女の子の裸なんて見慣れてるじゃない。
私がなんのためにランジェリーショップに通いつめているかわからないのかしら?」
「通いつめてたんだ……」
そう堂々と答えられてもなぁ……。
そんなよくわからない感情になりながら、私は苦笑を彼女に向けて――今度はこちらが顔をそらす番だった。
「ゃッ!?」
「あら、どうかしたのかしら、イトーちゃん?」
怪訝そうな声が上から降ってくる。
「い、いえ、なんでもないです……よ?」
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!
いや、知ってたよ?
わかってたよ?
だってマーリンさんの服装、いつも過激だから!
でも、これは反則でしょうが!
こんな不意打ちって普通あるか?
いや、ない。
男時代でも記憶にある限り――といっても、俺にはほとんど前世の記憶はないわけだが――そんな経験したことねぇし聞いたこともねぇし!
頭の中に、たわわに実った巨乳が、一糸隠さぬ巨乳が、形のいい巨乳が、ツンと立った桜色の先っちょが鮮明に再生される。
俺……私が男なら、危うく息子が起立していたところだった……。
危ない危ない……。
……とはいえ、デカい。
サイズどれくらいあるんだってくらいデカい。
しかも割と形がいい。
垂れてないし、母性的な曲線美あふれるいいスイカだった。
……いや、ひょっとするとそれ以上かもしれないが。
……よし。
まずは一旦落ち着こう。
私は今は女。
うら若き女の子だ。
だからマーリンさんの巨乳を見ても咎められることはないし、こちらも嬉しい。
まさにwin-winってやつだ。
そうだよ。
マーリンさんだって私の下着を見て興奮したんだから、私だってマーリンさんのパイオツを眺めて興奮するくらいイーブンってもんだろ!
「ふんす」
私は鼻息1つ気を入れ直すと、堂々とマーリンさんの方を振り返った。
「あら、まだ脱いでないのかしら?
脱げないなら脱がしてあげるのだけれど」
「あ……いえ、だいひょうぶれす……///」
すると、そこには一糸纏わぬ巨乳の麗人の姿があったのだが、そこで私の意識は途絶えてしまった。
どうやら女湯に浸かるのは、まだまだ先になりそうだった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
「……知らない天井だ」
気がつくと、私は見覚えのない天井を見上げていた。
木の梁が剥き出しになっていて、そこからランプが吊るされている。
目だけを動かしてみれば、どうやらここはログハウスと和室の中間のような造りの部屋らしいことがわかった。
いつか言いたいセリフ第4位。
まさか、このセリフを言える日が来ようとは。
ちょっと的はずれな感動を懐きながら、私は肘をついて起き上がった。
と、同時に鈍い頭痛が私を襲う。
「っつつ……」
頭がクラクラする。
なんだ、これ?
何でこんなことになってるんだっけ?
そんなことを考えていると、奥の襖が開いて、そこから浴衣姿のマーリンさんが現れてきた。
途端、つい先程目にした、たわわに実った母性の果実の記憶が、脳裏をよぎった。
「あら、お目覚めかしら?」
マーリンさんが、どこかホッとした顔をして私のそばに膝をつく。
ああ、だめだだめだ!
そんな、そんな角度で膝をつかれると、マーリンさんのきょにゅーが先っぽまでコンニチワしてしまうじゃないか!
「あ、は、はい……っ///」
私は、必死にそのパイオツから目をそらしながら、彼女からの質問に答えた。
「も……もしかして、マーリンさんが運んでくれたんですか?」
まだ赤い顔を必死に胸からそらしながら、意識しまいとして彼女を上目遣いに見上げる。
私は彼女が差し出してくれたコップを受け取ると、その中身をグイと呷った。
味は……麦茶に似てるけど、麦茶よりちょっと甘いな。
でも美味しい。
「ええ、そうよ。
ところで、頭は大丈夫かしら?
結構強く売ったみたいだけれど」
え、マジで?
そんな強く打ってたの私?
「あ、ありがとうございます。
頭は……そうですね、まだ痛みます」
「どんな感じ?」
「鈍い頭痛、ですね」
「その痛みは内から?それとも外から?」
「どちらかといえば……内側からです」
「軽い脳震盪かしらね……。
貴女の宿泊先には連絡を入れておいたから、今日はゆっくり休みなさい」
彼女はそう笑顔で言うと、やる事があるからとその場をあとにした。
ぬーん、助けてもらってばかりで申し訳ねぇなぁ。
またいつかお礼でもしに行こう。
……お昼時以外で。
私はそう心に決めると、もう一度布団の中に潜り込むのだった。
……あ、夕飯堪能するの忘れてた。
ちくせう。
⚪⚫○●⚪⚫○●
翌日。
入学式まで今日を含めあと4日。
明日は水着を取りに行って、明後日は制服を取りに行く予定だ。
そして、その翌日の12時に入学式。
うーん、ちょっと興奮してきた。
冒険者学校、どんなところなんだろう?
パンフレットよく読んでおかないとだなぁ。
めんどくさいけど
それはさておき。
昨日お風呂に入れなかったので、今朝、朝風呂という形でこの部屋についていたお風呂に入ることにした。
流石に昨日の今日であの大浴場に行く気は起きなかったので仕方ない。
ヘタレと言いたければ言えばいいさ。
私は気にしないぜ!
……え?
童貞?
は、なんのことだか。
今の私はうら若き乙女!関係ないな!
……うん。
関係ないんだよ……。
閑話休題。
私は、いつの間にか着替えさせられていた浴衣の帯を解くと、肩から浴衣を落とし、キャミソールとパンツの下着姿になった。
「……」
キャミソールを落とす。
歳の割には膨らんだ柔らかな胸が顕になり、桜色より少し薄いピンクのポッチが視界に映る。
別にロリコンというわけではないが、これはこれで風情があると思ってしまう。
同じ水色のパンツ(こっちは青い飾りリボンがされているだけで特に装飾はなかった)を脱ぐと、私はそそくさと浴室へと向かった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
乾いた煉瓦タイルの床を、小さな白い足がぺたぺたと歩く。
部屋に付属している浴室は狭く、4畳ほどの広さしかなかった。
そのうち2畳は浴槽に取られているので、実質洗い場は2畳分しかない。
浴室の壁には蛇口やシャワーのようなものが取り付けられ、丸い石4つが嵌められており、内2つは赤と青に塗られている。
それを見て、私はピンときた。
「もしかして、これが噂の魔道具ってやつか?」
赤いのは、たぶんお湯だな。
んで、青いのは水で……こっちの隣の灰色のやつ2つは……たぶん、上がシャワーで下が蛇口か。
試しにシャワーの下に立って、上下に並んだ石のうちの上の石と赤い石に魔力を注いでみる。
すると、案の定上に取り付けられたシャワーの蛇口からお湯が出てきた。
「んー、ぬるいな」
30度くらいか?
もう少し赤い方に魔力を注いでみる。
「ぬぬぬ……」
しかし、どうやら水温は変わらないらしい。
仕方ない。
ぬるま湯しか出ないのなら諦めるしかないか。
私は諦念すると、そのままシャワーの水をかぶり続けた。
なお、このあとめちゃくちゃ髪の毛が絡まって解くのが大変だったのは、また別の話。
長い髪もいいけど、やっぱり面倒くさいね。
……え?
シャワーする前に髪を梳かないとだめなの?
あ、そうなんだ、ふーん。
次からは気をつけよう。
髪の毛洗うのめちゃくちゃしんどかったし。
髪を洗い終わると、今度は体を洗う。
ポーチから持ってきたタオルで髪を縛って(体洗うときめちゃくちゃ邪魔だと思ったから)、別のタオルにボディソープをつけて体を洗う。
タオルが水を吸ってゴワゴワになったから、ちょっと肌が痛かったので、途中から手洗いに変更した。
……なんか、アレだな。
自分の体なのに、前世と性別が違うからか、変な気分になってくる。
……え?
ナニは済ませたのかって?
……ああ、うん。
表面だけね。
まだ指を挿入れるのは――って何言わせとんじゃいこの野郎!
まあ、そんなこんな紆余曲折ありまして、異世界初のお風呂タイムは終了しました。
イッツ、賢者タイムですわ。
風呂から戻ってくると、すでに布団は片付けられており、机には置き手紙が1枚残されていた。
「何何〜?
『宿代は代わりに払っておいたわよ。別に取り立てに行ったりとかはしないから安心してちょうだい。マーリンより』……」
マーリンさん。
マジありがとうございます。
……いつか絶対お返ししよう。
そう心に決める私であったが、このときはまだ、私は本当の彼女の姿を知らなかった。故に、これから起こる悲劇も、今の私には想像すらできていなかったのだった……。
⚪⚫○●⚪⚫○●
さて。
温泉宿で朝食を済ませた私は、残る準備物を揃えに向かうことにした。
今日揃えるのは訓練用の木の棍で、日本では杖と呼ばれていた代物だ。
木の棍は突けば槍になるし振れば剣になる。
剣の扱いは斧にも通じるところがあるし、使い方次第では様々な武器を模して訓練をすることができるため、これが選ばれたそうだ。
あと、安いというのも理由の1つにあるらしい。
「いらっしゃいませ。
……おや、見ない顔ですね?」
ギルド提携の武器屋『クライム・ロックス』に入ると、黒髪眼鏡の、少し中国人に似た面立ちをした美青年が出迎えてくれた。
「あ、はい。
冒険者学校に今度入学するイトーと申します」
「ああ。となると、お探しは木の棍かな?」
「はい」
男性は爽やかな笑顔を浮かべると、『ちょっと待っててね』と言い残して奥へと消えていった。
……それにしても。
私は、奥へと引っ込んでいった店主を見送ると、武器屋の中をざっと見回した。
陳列棚に並ぶ武器の数々。
剣に槍、斧、ハルバードや弓、弩まで置いてある。
様々な種類の武器がカテゴリ別に陳列されるそのさまは、まさに圧巻の一言。
ザ・異世界ロマン。
「素晴らしい……!」
私は思わず、ほぅとため息をついた。
見よ、この艶!輝き!そして機能性とデザイン性を有した優美なフォルム!
そこの樽の中に雑多に詰め込まれている量産型の武器でさえ、まるで1つの芸術品のように見える……!
「なっ!?
あ、あれは……!」
と、ふと私の視界に、キラリと輝く一筋の光が差し込んだ。
私は、自分のセンサーに導かれるままに足を向ける。
戦槌、戦斧、大剣といった大型のロマン武器に囲まれた道を奥に奥にと進めば、少し開けた空間に出た。
そして、その中央にはまるで私を呼んでいるかのように鎮座坐している、1振りの刀剣があった。
その刀剣は、機能性と芸術性の双方を併せ持ち、私のよく知る特徴的なフォルムをしていた。
そう、これは――。
「これは……日本刀!?」
マジかよすげぇよ!
大剣とか戦槌とかだけでもすごいのに、本物の日本刀まで置かれているなんて……!
……感動した!
いや、本当に感動した……!
私は、思わずその場で涙を流し、良くわからない祈りのポーズをその日本刀に捧げていた。
――と、そんな時だった。
背後から、私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おや、こんなところにいましたかお客さん。
困りますよ、勝手に動かれては」
ハッ!?
私は今何を!?
突然の呼びかけに我に戻った私は、少しだけ肩をビクつかせて後ろを振り向いた。
「す、すみません……。
つい、興奮しちゃって」
だって武器屋だぜ?
興奮しないわけがない。
しなければソイツはEDみたいなもんさ。
私は、羞恥で顔を赤くしながら、テレテレと頭を掻いた。
すると彼は、どこか神妙な顔つきで独り言をつぶやいた。
「……ふむ。
武器が使い手を選ぶ、とはよく聞きますが、実際目にしたのは初めてですね」
……武器が、使い手を選ぶ?
なにそれ、めちゃくちゃカッコいいんですけど。
え、なに?
その話の流れで行くと、私この子に選ばれたってこと?
彼の独り言を聞いて、どんどん目が輝いていく私に、店員さんは笑顔で話を続けた。
「その刀の銘は『サクラフブキ』。
シュノークローゼンの幻の刀匠、コガミ・カナヤさんの作です。
……どうです、お嬢さん。
この際ですし、木の棍と一緒に買っていきませんか?」
「はい、買います!」
即答!
はい、即答です!
え?
高いんじゃないのかって?
いやいや、何言ってるんだい諸君。
私には今お金があるんだよ?
めちゃくたゃ大金持ってるんだよ?
どんな値段言われたって、一括で買えちゃうんだから!
買わない方が損ってもんだよね!
というわけで、私はその日本刀『桜吹雪』を二つ返事で一括購入することにした。
今日の私、超ツイてる!
……しかし、このときはまだ、私はこの店員さんが透明な眼鏡の奥でどんなことを考えているのかに気づくことはできていなかった。
そう。彼が心の中で『素晴らしい鴨を見つけた』と考えている事に、私は一切気がついていなかったのだった。
クライム・ロックス店員
「更に手入れセット全種詰め合わせをおつけして、通常価格金貨2枚のところ、なんと!半額の金貨1枚でどうでしょう!」
イトー
「な、何!?半額だと!?よし、買った!」
クライム・ロックス店員
「ありがとうございました、またのご来店をお待ちしております(営業スマイル」
クライム・ロックス店員
(ふっ、良い鴨ですねまったく。今度来たら次は何を売りつけましょうかグフフフフ……。次の来店が楽しみですねぇ!)」




