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私、囚人になる。

 どうも、イトーです。

 教科書買った帰りにイベントが発生した結果、ロリコン変態ミラレンジャー……じゃない、ロリコン野郎のミラに助けられました。


 正直、どこから現れたのか全くわからなかったけど、まあ助かったんなら助かったで良しとしよう。


 ……うん、ちょっと癪だけど、助けてもらったことに変わりないし。


「お、覚えてろーッ!」


 陳腐な捨て台詞を吐いて、アニキとやらを担いで逃げていく3人組を、少し可哀想な目で見送りながら、私はため息をついた。


「あ、あの!」


 すると、彼らが去って安心したのか。

 襲われていたエルフの少女が、ミラさんに声を掛けた。


「ん?」


「あの、助けてくれたことは……その、感謝するわ」


 頬を赤く染めながら、エルフは彼にちょっと高圧的な口調で礼を述べた。


 すると、ミラはニコリと笑みを浮かべて、エルフの少女に視線の高さを合わせ、定型句で返す。


「気にすることないよ、エルフのお嬢ちゃん。

 これはボクが好きでやってることだからさ」


 ボッ、とエルフ娘の顔が更に赤くなる。


 ……あ、これアレだ。

 吊橋効果ってやつだ。完全に落ちてる。

 なんていうか……うん。ちょろイン確定だな、この娘。


「か、かか勘違いしないでくれる!?

 べ、別に私は、貴方になんか助けられなくても、魔法でパーッとやっつけられたんだからね!?」


 そして、プラス要素でツンデレキャラか。

 エルフでツンデレでちょろイン……。なんだろ、どこかで見た気がするんだけど、何だっけ?


 まあ、これもテンプレルートってことでとりあえず処理しておきますか。


 ――と思いきや。


「え?

 でも君、今ほとんど魔力残ってないよね?

 どうやって魔法使うつもりだったの?」


「〜〜っ///」


 加えて見栄っ張りですか。

 何これ、キャラ盛りすぎじゃね?


 まあ、別に気にしないけど。


 と、そんなことを考えていると、ミラは私の方に振り返って、目をキラキラさせながら私に抱きついてきた。


「ヒッ!?」「あっ!?」


 私の悲鳴と、エルフっ娘の悲鳴が重なる。

 多分、彼女の方の悲鳴は意味が違うんだろうけど。


 あと、ミラさん。

 ドサクサに紛れて私の銀髪に頬ずりしないでくれますかね。正直気持ち悪いです。


「すぅ〜、はぁ〜」


「匂い嗅ぐな変態……ッ!」


 なんだよこいつ!

 生粋の変態か!

 セクハラで訴えるぞ!


「やだなぁ、イトーちゃん。

 そんなに褒めても何も出ないよ?」


「褒めてねぇよ!?」


 はぁ……全くコイツは……。

 つい先日のマダムの気持ちがよくわかったよ……。


 マダム、毎日こんなやつの相手してたのか。

 ちょっと尊敬するわ。


「そんなことよりイトーちゃん!

 無事だった?

 怪我してない?

 あのガキに何か嫌なことされなかった!?」


 尚もくっついてくる彼の頭を、両手で思いっきり押し返そうとする。

 しかし出どころのわからない怪力で、私は彼の抱擁から抜け出せない。


(うぜぇ!

 コイツホントうぜぇ!)


 私はこめかみに青筋を立てながら、力いっぱい変態を押し返す。


「大丈夫ッ!

 大丈夫ですから心配しないでください、鬱陶しいから!」


「酷いッ!?」


 そう言うと、やっとのことで離れてくれた。


 ったく……。

 酷いのはどっちだよ……。


 あ〜ぁ〜。

 ホント疲れるなコイツの相手は。


 もしやとは思うが、あのマダムが食事に誘ってきたのって、自分に対するミラさん被害を私になすり付けるためとかじゃないよな?


 もしそうだったらちょっと後で抗議に行かないと気がすまねぇぞこれ……。


「はぁ……」


 私は、やっとのことで離れてくれた変態的疫病神にため息をつくと、泡立つ肌を治めるように、腕をこすった。


 うぇ……。

 男に抱擁されるとか、どんな刑罰だよ……。


 おまけにお前の金髪なんか変に良い匂いするから二重で腹立つんだけど。


「それで、どうしてこんな事に?」


 そんな私の心境なんてつゆとも知らないのか、それとも知ろうとしないのか。

 彼はケロっとした表情で、エルフに事情の説明を求めた。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 エルフの彼女の名前はサエルミアという。

 父は人間、母がエルフなので、厳密にはハーフエルフと呼ばれる。


 彼女は小さい頃から、冒険者に憧れていた。

 この安全な『はじまりの街』を出て、色んな絶景をこの目で見て旅をするのが、彼女の夢なのだとか。


 ある日、彼女は両親に冒険者になりたいと告げた。

 無論、はじめは猛反対されたのだが、それを突っ切って、冒険者登録しなくても受けられる薬草採取のクエストを頑張り、自力で冒険者資金を貯め始めたのを見ると、両親は反対するにできなくなり、今日。ようやく彼女は冒険者手帳を手に入れることができた。


 と、その帰り道だった。

 さっきの3人組に出会った。


 彼らと会うのは、どうやら初めてではないらしく、薬草採取をしている頃も、何かとちょっかいを掛けてきては邪魔をしてくる連中だったのだとか。


 そんな3人組とばったりであってしまった。


 サエルミアの手には、貰ったばかりの赤い冒険者手帳。


 奴らは、それに目をつけた――。


 それから紆余曲折あり、彼女は3人組に手帳を奪われ、取り返そうと躍起になっていたら、いつの間にか袋小路に追い詰められ、私が通りかかった時のような状態に陥ってしまったのだとか。


「……後は、ご覧の有様よ。

 ホント、情けないわよね、私……」


 サエルミアはぎゅっと拳を握り込むと、なぜかキリッと鋭い視線を私に向けた。


 ……え?

 私何か悪いことしたっけ?


 全く思い当たるフシが……あ。


 私は、そういえばあのガキ大将から彼女の冒険者手帳を取り返したまま彼女に返していなかったことを思い出すと、急いでポケットの中から彼女の手帳を取り出した。


 ちなみに、自分の手帳はポーチの中に入れているので、取り間違いなどというイベントは発生しないはずだ。


「……ありがと」


 少し納得がいかない、とでも言うかのように頬を膨らませながら、彼女は手帳を受け取って中身を確認した。


「うん、間違いないわ」


 ほらね?

 イベントは起きない。


 そのことに若干の安心感を覚えながら、私は胸をなで下ろした。


「そっか、それは大変だったね」


 ミラはそう言うと、笑顔のまま彼女の頭にポンと手を置いた。


「……っ///」


 途端、彼女は顔を真っ赤に染めた。

 心なしか、頭頂部から湯気が上がっているようにさえ感じる。


 フフッw

 やっぱりこの娘ちょろインだわ。


 ミラさんの方はと気になって見てみれば、どうやら彼は彼女の様子の変化には気づいていないらしい。

 鈍感系ってやつか?

 サエルミアちゃんも可哀想に。


 と、そこまで考えて、ふとあることに思い至る。


 ……もし、ミラさんがサエルミアさんの心情に気づいたら、どうなるかな。

 うまく行けば、私から興味がそれるかもしれない。


 私から興味がそれると、彼は私のそばに現れなくなるかも。


 ……うん。

 サエルミア、ファイト!


 私はお前の恋路を応援してるぞ!


 閑話休題。


 と、そうこうしているうちに日は傾き、路地裏に影が差し始める。


 空を見てみれば、薄く雲のかかった合間に、キラキラとキレイな星が瞬いていた。


 ――ゴォーーン……。

 ――ゴォーーン……。


 夕刻を告げる鐘が鳴る。


 私達は再度ミラさんにお礼を言うと、そのまま解散となり、私は家路ならぬ宿路についた。


 ちなみに、宿まで送っていくというミラさんの申し出には丁重に断りを入れた。

 それでも後ろを振り返ればまたついてこようとして、まるで“だるまさんがころんだ”なんて懐かしい遊びを思い出してしまった。


 正直、ちょっと……いやかなりウザかった。


「私は大丈夫ですから、サエルミアさんの方を送ってあげてはどうですか?

 またあの3人組が彼女を襲わないとも限らないですし」


 そしてあわよくば彼女との距離を縮めてもらいたい。


 そんな私の意図が伝わったのかそうでないのか。


 彼は非常に残念な顔をしつつも、『確かに、女の子が夜道を一人で歩くのは危ないよね』と言って――


「じゃあ、彼女の方を先に送るから、イトーちゃんついてきてね」


「何でそうなった!?」


 これでやっと1人で帰れると思いきや、なぜか私とミラとの3人でサエルミアさんの護送をする流れに持っていかれてしまった。


 ぐぅ……。

 こいつに私が泊まっている宿を知られるのは絶対嫌だ。


 ここはなんとしてでも1人で宿に帰りたい。


「さ、行こっか。イトーちゃん。」


「さらば!」


 ――というわけで、私は逃走スキルをフルに活用して、走ってその場から逃げるのであった。


「だめだよ、女の子が夜中に一人で出歩いちゃ」


「なっ!?」


 が、次の瞬間。

 私の目の前に紫色の魔法陣が出現して、サエルミアさんを脇に担いだミラさんが現れた。


 こうして、結局私はミラさんとともに、サエルミアさんを護送する事になり、ついでに泊まっている宿まで突き止められてしまうのだった。







 くぅ……ッ!

 転移魔法、超絶うぜぇッ!

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