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私、泥棒になる。

 どうも、イトーです。

 何か叫び声が聞こえたので見に来たら、エルフっぽい女の子が、ガキ大将っぽい少年3人組に追い詰められているのを発見して、『あー、ほんとに異世界に来たんだなぁ』とちょっと感慨深い気分になっています。


 うん。

 やっぱりこれもテンプレなのかね。


 異世界と言えばどんなテンプレ展開が思いつくかと聞かれれば、多分上位10位以内には確実に入るだろうシーンだ。


 これでこそテンプレ。

 これぞ異世界って感じ?


 ……とはいえ。


 私は物陰から、チラリと少年たちの方を覗き見る。


 助けなければ漢が廃ると、半ば勢いでここまでやってきたわけだが、考えても見れば、私があそこに入っても大して状況が変わるとは思えないんだよなぁ。


 だって、私今幼女だし。

 腕力ないし。

 体力もないし。

 チビだし。

 魔法もなんにも使えない。

 チートスキルがあるわけでも、戦闘能力があるわけでもない。


 そんな私に、どうしろと言うんですかねぇ?


「まぁ、何とか頑張っては見るけど」


 私は、どうすれば少女を助ける事ができるのかと、頭をフル回転させて考える。


 聞こえてきた感じだと、エルフちゃんは何かモノを盗られて、それを取り返そうと奮闘している……んだと思う。


 だが、その結果何だかよくわからないうちに路地裏に追い詰められて、グヘヘな感じに陥っている……と予想できるわけだが。


 だから、もし仮にその盗られたアイテムを奪取する事ができたとしても、少年たちからエルフを開放させるのは難しい……ん?


「……これならどうだ?」


 私は、ふと脳裏に浮かんだ作戦を、頭の中で咀嚼する。

 何回も何回も、イメージの中でその作戦を決行し、相手の動きを予想しつつ、作戦の精度を昇華させる。


「……うん。

 これなら行けるかも」


 私は、うんと頷くと、隠蔽スキルを行使したまま不良少年の後ろへと近づいていった。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 私は、興奮して口喧嘩を続けている4人の動向に細心の注意を払いながら、気配を殺して彼らの背後に立った。


 真後ろに立っているというのに、全く気づく様子の見えない4人の様子にちょっと吹き出しそうになるのを感じながら、私はガキ大将の持つ、おそらくそこのエルフのモノと思われる冒険者手帳に手を伸ばし、泥棒スキルに意識を集中させる。


 まだ1回も使ったことのないスキルだが、難なくスキルは発動、成功した。


 泥棒スキルは、相手の所有物をランダムで盗むことができるスキルだ。

 しかし、このランダムというのは、モノの形状や大きさ、自分との相対距離や相手との技量の差などといった、諸々の見えない変数によって左右される、という意味らしく、万全の状態で完璧な位置からであれば、狙ったものをほぼ100%盗むことができるらしいのだ。


 そういうわけで、私は隠蔽スキルを使ったまま相手の背後に忍び寄り、全く気づかれない状態で、超至近距離からスキルを発動させたのである。


 結果、問題なくスティールは成功。

 私の手には、エルフのものだろう冒険者手帳が握られていた。


(よしっ)


 私は心の中でガッツポーズを決める。


 若干罪悪感のようなものがこみ上げてくるが、これも必要な行為。

 私は年のためにと手帳を開くと、それがエルフの少女のものであることを確認した。


 まずは勝利条件1つクリア。

 あとは彼らをどうやって少女から遠ざけるかだが……これはもう考えてある。


 作戦はこうだ。


 まず、もう一度泥棒スキルを発動して、3人から適当になんか盗む。

 んで、隠蔽スキルを解いて不良少年らに「何やってるんだ?」みたいなことを聞く。


 そしたら多分3人はこっちに振り向くだろう。


 振り向いた矢先に、彼らから奪ったものを見せて、注意をこちらに反らす。


 あとは逃走スキルで逃げまくって、いい感じに距離を離したら、奪ったものを地面に置いてここに戻ってくる。


 戻ってきたらエルフちゃんに冒険者手帳を返して一件落着って流れだ。


 うん。

 これはうまく行くでしょ。


 私はニヤリと笑みを浮かべながら、もう一度泥棒スキルを発動しようと手を伸ばして――ガシリ、とその腕を掴まれた。


「あれ?」


 掴まれた手から、恐る恐る視線を上に上げる。

 するとそこには、怒ったような表情を浮かべるガキ大将とその愉快な仲間たちの姿があった。


「お前、見かけない顔だな?」


 愉快な仲間その1が、私を見下ろして行った。

 ちなみに、愉快な仲間その1は虎の獣人だった。


 ギラリと覗く立派な犬歯がちょっと怖い。


「俺から盗ったモン返せ。

 そしたら見なかったことにしてやる」


「嫌だね。

 だってこれはもともと、そこのエルフの娘が持ってたものだし」


 ドスの効いた声、とでも言うのか。

 ガキ大将の少年は、私の手をさらに強く握りながら勧告する。


 だがしかし、私は半ば空元気になりながら、不敵な笑みを浮かべて対抗した。


 肝が潰れるとはこのことか。

 かっこつけてそう言い返してやったけど、実際心の中はめちゃくちゃ恐怖で震えてる。


 こういうときは大声を出せばいいんだろうけど、さっきまで誰も助けなかったところを見るに、ここはかなり人通りが少なく、助けを読んでも聞こえないという可能性がある。


 無駄に体力を消耗するのは、今は得策ではないかもしれない。


 そうやって対抗したことにキレたのか。


 短気なガキ大将サマは、幼女相手に怒りをさらけ出して、私をエルフちゃんのところへと放り投げた。


「わっ!?」


 体が宙を飛んでいる。

 なんて馬鹿力だよ!?と思いつつも、私は高校の体育で習ったとおりに受け身をとって、何とか脳震盪だけは逃れる。


「どうします、アニキ?」


 愉快な仲間その2が、拳をポキポキと鳴らしながらこちらを睨みつける。

 その目はどこか、睨むというよりは別のところを眺めているような……舐めるような視線というのだろうか?そんな気配が漂っている。


 ……まさかとは思うけど、性的な視線……じゃないよな?


 ……んなわけないか。

 だって私幼女だし。

 性的な対象にされるにはまだ幼すぎるし。


 そんな事を考えているうちに、少年たちは次々と話を勧めていく。


「そうだな。

 この俺に楯突いたってことがどういうことかわかるように、ちょっといたぶってやろうか。デネブ」


 ガキ大将がそう言うと、デネブと呼ばれた獣人が、『うぃーっス』とニヤニヤ笑みを浮かべながら、こちらに手を向けながら何かを空中に指で書き記した。


「《拘束》」


 すると、次の瞬間。

 何か見えないロープのようなものが現れて、私の手足を縛り上げた。


「え、ちょっと!?

 何これ!?」


 急に身動きができなくなったぞ!?

 え、何だこれ!?


 例えるなら……そうだ、かなしばりになったみたいな、そんな感じだ。


 あまりに突然のことに私が暴れまわっていると、ガキ大将がこちらに近づいてきて、目の前でしゃがみこんだ。


「これは俺に逆らった罰だ。

 大人しくここで、俺に逆らったやつがどうなるか見学していればいい」


 彼はそう言い残すと、同じく動けなくなっているエルフの少女の方に足を向けた。


 くそっ、手が動かない!

 足も動かない!


 どうなってんだよこれ!

 動けよ!


 気力を振り絞って拘束を抜けようとするも、手足が地面に張り付いたみたいにびくともしない。


 これも何かのスキルなのだろうか?


 もしくは何らかの魔法か。


 ……魔法?

 そうだ、魔法だ!


 異世界に来たというのに、こんな大事なことを見落としていたなんて!


 私はエルフの少女の方を向くと、声を張り上げて彼女に指示を出した。


「なぁ、そこのエルフ!

 魔法使って何とかできないか!?」


 もし攻撃系の魔法が使えれば、一気に形勢逆転できる!


「出来てたらとっくにやってるわよ!」


 マジかよ使えねぇのかよエルフなのに!


 私は落胆すると、それでも何か別の方法がないかと頭をひねった。


「だ、そうだな。

 諦めな、おチビちゃん」


 しかし、そんな私に彼は残酷に切り捨てて、どこから取り出したのか、木の棒のような物を手に持ち、エルフの少女めがけて振り下ろした。


「……っ!」


 ――ガツン!


 木の棒が何かにぶつかるような鈍い音がして、私は思わず目をそらした。


 ――ズダン、ズタン、ズドドドドド……。


 続いて、人が吹き飛ばされ、地面にバウンドする音が鼓膜に響く。


 あいつ、どれだけ強く殴るつもりなんだよ!?


 自然、心の奥底から怒りが湧き上がり、しかしそれと同時に、次は自分の番だと思うと恐怖までこみ上げてきて、私はそれを止めるように口を開けることができなかった。


 ……だが、それは次のセリフで、あっけなく散ることになった。


「「アニキィーッ!?」」


 驚くような、悲鳴のような少年たちの声が、私の鼓膜に響いたからだ。


「あ、アニキ……?」


 状況が飲み込めず、私はオウム返しにそうつぶやきながら、恐る恐る背けていた目を開いた。


 すると、そこには脚を振り抜いた状態で残心している、黒尽くめの金髪の少年が立っていた。


「……え?」


 思わず、私は目を擦る。


「世界で幼女が泣くのなら。

 応えてあげるが我がポリシー。

 そこに幼女がいるのなら、ボクはいつでも飛んで行く!」


 彼は、どこぞのヒーローのような口上を述べると、バサッ!とマントをはためかせて、大声で名乗りを上げた。


「我こそはミラ・アドルミニ!

 幼女を守る正義の味方だぁ!」


 そう。

 そこに立っていた人物の正体は、いつの日かマダムの食卓を荒らしたロリコン野郎の少年だった。


「……は?」


 参上!

 変態戦隊ロリコン紳士!




 ……フフッw

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