表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

第一話 始まりは最悪だった。

 第〇話よりも遡ること少し前。

<良いと感じた点>

 作品読みました。


 とても素晴らしい作品ですね、感動しました。


 特に主人公が良い味出してますね、キャラがしっかりしてて良いと思います。登場人物が生き生きとしてて良いです。


 俺も長編小説書き始めたんで、読んで感想ください。


 よし、ペーストっと。気になった点は……書かない。っていうか、ろくすっぽ読んでないんだからどこが悪いかなんて分かるわけないし。これで十分だろ?


 これであらかた目についたやつらの小説には感想を書きまくった。簡単なもんだ、感想書きなんて。ただ貼り付けりゃいいだけだもんな。


 ああ、全部おんなじ文面じゃまずいから、言葉遣いや表現は少しずつ変えてる。どうせ他人の感想なんか誰も見てやしない。ありきたりなこと書いてても、もらったやつはそれだけで有頂天、ついでに評価も満点にしときゃ完璧だし。


 後は結果をご覧じろってやつだ。



 俺はウェブ小説投稿サイトで、自分で言うのもなんだが、秀作を書き始めいずれそんな遠くないうちに、出版社からオファーが複数届いて、書籍化されて大人気作家になることが運命づけられてる男だ。


 小さな頃から本好きで、図書館通いが楽しみだった俺は今こうして工夫を凝らすことで、自分の小説に読者を誘導することを思いついたんだ。


 より多くの人の目につけば、それだけ俺の作品の素晴らしさが広まって、出版社からオファーがきやすくなる。


 投稿してよく目につく時間や、読まれやすい書き方、興味を惹くあらすじ、なんてもんがあるみたいだが、俺みたいにデキる男には関係ない。俺がどれだけの数の本を読んできて、それを活かして小説を書き始めたと思ってるんだ? これだけ感想書きにも苦労したんだ、もうバカバカ感想が集まりそれが呼び水になって、評価もうなぎのぼりに上がっていくに決まってる。



 高校に通ってた頃は、毎日が面白くなかった。


 俺は回りにいる頭の悪い奴らなんかとはつるみたくなくて、いつも窓際の席で本ばかり読んでいた。好きな本がいっぱいありすぎて、どれが一番かなんて決められない。とにかく本を読んでいさえすれば、嫌なことはすべて忘れられた。気にならなかった。


 友達や彼女なんかも必要ない。そんなの、ただ煩わしいだけじゃないか。どうせ嘘をつかれたり、嫌な気持ちにさせられたりするじゃないか。でも本は裏切らない。


 あれから何日か経ったが、感想が書かれました。って表示が一向に表れない。なんでだ? あれだけ労力を惜しまず感想を書いたんだ、最低でも半分以上は返ってくるはずだろ?


 いや、どうせ自分のことしか考えられない連中ばかりなんだろう。もらったらそれだけで嬉しくなってしまい、恩を返そうなんて気持ちにならないのかもしれない。きっとそうだ。なにせ俺のように行動できる人間はそうそういないからな。仕方ない、もう少し様子を見てやろうじゃないか。


 目立つように、時間をかけて練ったあらすじと冒頭からの数話分に、新たに二、三書き足した頃合いに、ようやく感想が一件書かれたようだ。


 ちっ、遅いじゃないか。どうせ俺のこの素晴らしい作品を、褒めそやす言葉が思い浮かばなかったんだろう。まあ許してやるとするか、こうして書いてきてるんだからな。俺は寛大なのだ。


 どれどれ、俺の作品に対する賛辞をじっくりと見てやろうじゃないか。



 <良いと感じた点>

 私の処女作品に、感想をいただきありがとうございました。久しく感想をいただいていなかった作品だったので、嬉しくなりました。


 感想をと書いてありましたので、お礼にと思い貴作を拝読させていただいて、思い、感じましたことを書かせていただきます。もし書いた内容が意にそぐわないものでしたら、削除していただいて構いません。きついことも申しますが、それは期待も込めてのものなので……



 感想には冒頭、こんなことが書かれていた。


 はあ? お前なに書いてんの?


 俺は、俺の作品を評価する感想がほしいだけで、お前の意思表明なんかこれっぽっちもいらないんだよ。


 まあ仕方ない、許してやるよ。こういった前置きをしなきゃ書けないんだろうからな。続きを読むとしようか、なんかいい気分はしないが。



 誤字脱字が少なく、推敲をかなりしっかりされている作者さんなんだと思いました。


 設定もだいぶ時間をかけて練ってらっしゃるんじゃないかと思いました。まだ始められたばかりでどうなっていくか分かりませんが、勢いがあるなあという印象を持ちました。



 おい、良いところはこれだけか? ふざけてんのか、ああっ?



 <気になった点>

 少々きつくなってしまいますが、よろしくお受けとめいただければと思います。


 あらすじを読んだ限りでは期待大の作品だっただけに、感じた設定の良さがまだ十分には活かされておらず、読んでいくうちに厚みが少ないなと感じました。


 地の文は人称や視点が統一されておらず、状況が把握しづらくなってしまっています。会話が中途半端に入り込んでしまうせいで、残念ながら流れがせき止められてしまっています。意図してのことでしたら申し訳ありません。しかしそうであれば、なにかしら説明があった方が良いかと思います。


 主人公のパオズッタが、作品の中で生きてこない印象を持ちました。掘り下げが浅く、残念に思えました。このままではせっかく転生したのにつまらない人物だという印象しか持てません。主人公以外も同様です。登場人物の描写を、もう少し丁寧にされると良いのではないでしょうか。


 それにしても、誤字脱字が少ないのは素晴らしいことだと思います。初めての投稿なのに、推敲の大切さが分かってらっしゃるのは大きな財産だと思います。


 しかしながら、異世界ファンタジー作品で転生やチートありのライトなジャンルのはずなのに、なぜ唐突に難しい言い回しや、詩的表現が挟み込まれているのかよく分かりません。意図があるのかもしれませんが、必然性があまり感じられないのが残念です。


 もっと作品に細かい愛情を注いであげれば、かなりの良作にな……



 もうこれ以上読みたくない。この後はなにやら弁解や同情じみた語句が並べられているみたいだが、そんなものは見る価値もない。


 頭に血が上り、そのまま床に叩きつけようと思ったが思いとどまって、電源ボタンを押して画面表示を消してからベッドの上に放り投げた。


 なんでこんなに言われなくちゃいけないんだ? 俺の作品は完璧だ。ネットで調べて小説家になるのに一番手っ取り早いのがテンプレ作品ってやつで、それには異世界ファンタジー小説で、主人公が転生して苦労もせずにチート能力で何でも出来て、面白おかしく人生を謳歌すると書いてあったんだ。


 別に詳しく分析なんてしたわけじゃないから、ちょっと違ったかもしれないが大体そんな感じの願望が、作品の中で達成されていくのが流行だって。だからそんな、俺から言わせるとくだらない、面白くもなんともないものを書いてやってんだ。


 それなのになんなんだ、お前は何様のつもりだ? 偉いのか、そんなに他人をこき下ろすことが出来るくらい偉いのか?


 壁を殴り、床を踏みならしても怒りは収まらなかった。


 とにかく今はこの部屋の、このタブレットのそばにはいたくない。俺はドアーを力任せに開けて、一階に降りて台所に向かった。


「あら、よっちゃん降りてきたのね? お腹空いたのかしら、夕ご飯までまだ時間あるからなにか作りましょうか?」


「……いらない」


 一言だけ伝えて、冷蔵庫から冷えたジンジャーエールを一本取り出して居間に向かった。


 居間には先客がいた。俺は無視して定位置のソファーに深く沈み込んだ。


「珍しいわね、こんな時間に降りてくるなんて」


「……別にいいだろ」


 先客に答える。放っといてほしい。


「ふうん。ま、いいけどさ」


 俺にはこの家で同居する人間が二人いる。母親と姉だ。父親はいない。俺が高校に入ってすぐ体を壊して、あっという間に天国だか地獄だかしらないが、俺らを残していっちまった。


 俺はジンジャーエールの蓋を開けて、三口ばかし喉に流し込んだ。


 さっきの書かれた感想が、頭の中をぐちゃぐちゃにする。


 偉そうに。偉そうに。偉そうに! ふざけんなよ!


 俺はなあ、俺は有名な作家になるんだ。俺には才能があるんだ、才能が!


 竹原読人たけはらよんど


 高校中退、フリーターで引きこもりがちなこの俺は、絶対成功しなくちゃならないんだ。


 ああそうさ、小説家になって有名になり、誰よりも稼いでやるんだ。そして少しでも……


 いや、俺のためだ。誰がなんと言ったって、俺のためだからな。他に理由なんてない。

 お読みいただき、ありがとうございます。


 次回は異世界の話になる予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ