第七話 産み落とした存在。
読人、改めて自分の小説に書かれた、感想や意見に向き直ることに。
改めて書かれた感想、そして意見を読み直すことにした。
それはなにも、母親の言葉があったからだけじゃない。俺だって思ってはいたんだ、こんなんじゃやっぱりいけないんだろうなって。前に進むためには、少しくらいは自分の気持ちを抑えていかなきゃって。嫌なことでもどうにか向き直らなきゃって。
一番最初に書かれた、あの感想に目を通す。
〈良いと感じた点〉には、俺の書いてる小説の推敲が、しっかりされているってあった。これは褒めていると思っていいんだよな? 褒められているんだったなら、まあ⋯⋯悪い気はしない。
推敲ってなんだか難しいことのように思えるけど、要は書かれた文章を何度も何度も読み直して、おかしな表現や誤字脱字、重文なんかを直していくってことだ。本当はもっと違う意味合いがあるのかもしれないけど、俺はそう理解している。あながち間違っちゃいないと思う。
元々の文章がよっぽどひどくなければ、推敲をして手直しすればするほど洗練されて、読みやすい文章になっていく。
この感想を書いた奴は⋯⋯書いた人は、その、俺がこだわってる点をそこそこ理解してくれているみたいだ。
俺はどんなものであれ、文章を書く時に細かい設定や筋道を立てたら、後は一気に書き上げるようにしているんだ。そうして出来上がったものを、今度は読み返しをしながら修正していく。語彙や言い回し、ことわざなんかはそれこそ湧き出るように浮かんできて賑やかになりすぎたりもする。そういった言葉たちを推敲することで、すっきりとさせていくわけだ。
ただ俺としては、本当はあんまりいじくり回したくない。せっかく勢いと感性で格好よく散りばめられた美辞麗句は、書いた文章に深みや味わいを与えてくれるからな。でも読む人によっては、まあ確かに堅っ苦しいものに感じたり、読みにくいって思われるのかもしれない。そこらへんを、読む人にもすんなり理解できるようにしてやってるんだ。
改めて読んでみて、その努力を汲んでくれているのが⋯⋯分かった。
さらに読み進めていくと、設定が活かされていない、登場人物が生きてこない。そう書いてあったところで、俺はまた怒りがぶり返してきそうになったのを押さえつけた。
冷静になれよ、ここで怒ったらなんのために読み返してるのか意味がなくなる。本当に母親が言ったように、「一言二言でも間違いを指摘してくれたり、長い感想、意見の最後まで読み進めると、しっかり自分の作品を読んでくれた上での言葉だったんだなあなんて、思ったり感じたりする」ものなのか、まだしっくりきていない。だから確かめなくっちゃならない。
そう思って他に書かれていることに目をやると、さっきの推敲することに対する言葉が、単に褒めているだけじゃないってのに気がついた。
その人は⋯⋯たぶん男だろうな。こうも書いていた。「設定が良く、あらすじを読んで期待大だったのに、読み進めていくうちにつまらなく感じた。登場人物が薄っぺらく感じられてしまった」って。
こう書かれていたのを改めて読んで、それはなぜかを知るために、俺は別タブに自分の小説を開いた。
けっこうすっきりと、無駄が省かれて読みやすくなっている、と思う。ん? そうか待てよ、その反面で、舞台背景や登場人物の生い立ち、今いるのはどこで何を考えてどうしたいのかが希薄になっている気もしないではないかな。
もちろん俺にはすべて分かっている。そりゃそうだ、俺が思いつき、頭の中で話を膨らませて、設定から細かく考えて書いたんだから。
でも、読んでる人からするとどうなんだろうか?
そんなのは読者が想像し、理解して読むのが当然だ。読みにくいって思うのは、読み手側の努力が足りないんだ。
少なからずそう思っていた。いや、今でもそう思わなくもない。俺自身、読み解いていくのに読書の醍醐味を感じていたし、そうでなきゃ面白くない。漫画じゃないんだから、書かれた文章のみっていう少ない情報から、あれこれ思ったり感じたりして楽しむのが読書の楽しみ方だってな。
でも。こうも思う。
それは俺個人としての捉え方であって、他のみんなもそうだとは限らないじゃないのかって。
俺はどんな読み物でも、深読みするのが好きだ。自分なりに登場人物の為人を想像して、頭の中で補完して。世界観なんかも勝手に裏読みしたりして、夢に出てきたのを寝ながら楽しんだり。構成や展開も言い回しにだって、なんらかの意味を見出そうとしたきた。
それは間違いじゃないし、そういう読み方があってもいいじゃないか? 別に変じゃない。
でもそういう読み方をしないで、文面で詳しく説明を求める人だっていないわけじゃないのも分かるような気もする。
そういえば文芸作品なんかには、説明くさい表現が少ないような感じがする。逆に最近のラノベっていわれるようなジャンルの作品には、細かく状況説明をしてるのが多い気もするし。あんまり流れをせき止めるような地の文ってのは嫌だけど、俺が書いてるこの作品はラノベだから⋯⋯
これを読む人たちの年齢や、WEBサイトであるという点。ファンタジーな世界なら今のこことどう違って、どんなにか不思議で楽しいところなんだろう。そう思ってもらうための説明なら、ある程度、流れを止めたって構わないのかもしれないな。
そんなことを考えながら自分の書いてる小説を読み流してみると、確かに世界観や生活様式、考え方なんかが分かりづらいって思える。
パオズッタ⋯⋯俺の小説の主人公だけど、こいつが転生者として、どうしてこの世界に生まれ直したか。そしてどんな使命、宿命って言やあいいのかな、を背負ってるのか。まだ書き始めだし、それほど話数が多くないから、全て開示してるわけじゃない。
それでももっと、俺の作品に引き込まれるようになってもらいたい。楽しんでもらいたい。いや、今でもけっこうすごいもの書いてる自負はあるんだ。あるんだけど、でもな。
パオズッタ含め他の登場人物にも、もっと人間味を持たせたい。
せっかく俺が産み落とした存在なんだから。
それにしても、パオズッタ⋯⋯⋯⋯変な名前だ。ネーミングセンスを疑うよな、誰だ名付け親は。
お読みいただき、感謝っ!
そして、素人のくせにとんでもない遅筆に、大陳謝っ!
他の作品含め、なるたけしばらく書かれてませんよ〜! エタるかもさんですよ〜! って表示されないよう、がんばります。。いやほんとに。。