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これは重五郎が成人を迎える前日に聞かされた話です。
僕の国サーツマの農村では15才で大人と見なされます。
そして大変残念ながら僕も来年の春には成人します。
そして成人した村人はもれなく出稼ぎに行きます。
出稼ぎに行かない者は一人前と認められず村に居場所はありません。
では出稼ぎに行かなかった者達はその後どうなってしまったのでしょう。
僕は恐くて家族にも聞けなかった質問をトメばーちゃんにしてみました。
そして驚くべき答えを聞かされました。
「そういった哀れな半端者は街で暮らすのさ。」
「そうなんだ可哀想に・・・ハァ?」
「えっ、それだけ?」
僕がトメばーちゃんに尋ねるとばーちゃんは重五郎ちゃんなら話しても問題無かろう、そう言って話始めた。
「そうじゃ、そういった半端者は村には入れず国王陛下のお膝元で静かに暮らす事になる。
戦いの中で血を燃やすことも赦されず、ただ老い去らば得てベットの上で穏やかな死を迎える哀れな者としてな。」
・・・ナニイッテルノこのババァ・・・
僕が呆然としているとトメばーちゃんはまた話始めた。
「重五郎ちゃんの気持ちも解る。
何でそんな惨めな暮らしに耐えられるのか?
しかしの皆が皆強く生まれつく者では無いのじゃ、中には惰弱に生まれついてしまうものもおる。
村の衆の中には街の者を軽蔑し馬鹿にする者もいる。
しかしな重五郎ちゃん、ばーちゃんはそう云う弱い者を馬鹿にしたり差別したりしてはいかんと思うておる。
強き者はその力を自分の手柄と思うてはいかんのじゃ。
その力は神様からの預かり者に過ぎん、ワシ等の力は弱い者を護る為にこそあるとワシャ思っておる。
重五郎ちゃんならその事を理解してくれると思って話したんじゃよ。」
トメばーちゃんはそう言うと自分が語るべき事は終わったとばかりに笑みを浮かべて薬作りの仕事に戻って行った。
ババァなに良い事言ったって顔してんだよ・・・
その弱い者が目の前にいるんですけど・・・僕は慌てて村中の人に聞いて回った。
その結果分かった事は出稼ぎに向かない子供は親が早いうちに街の知り合いに預け丁稚奉公に出して職人や商人になるとの事。
ただし村民としては誉められた話では無いため、皆基本的に人には話さないとの事・・・僕は慌てて家に戻り親に問い質した。
母親は哀しそうに言いました。
「そうかい、お前にも何時かは言わなきゃいけないとは思ってたんだよ。
お前の前にも子供は4人いてね、どの子も出稼ぎには不向きな性格だったんだよ、その為やむを得なく街の知り合いに預けてね、お前の気持ちも分かるけど、どうか兄さん達を蔑まないでおくれ。」
そう言うと母は静かに泣き始めた。
母さん貴方の目の前にいる子が一番出稼ぎに行きたくないんですけど・・・僕は白眼を向いて立ち尽くしていた。
嗚呼蔑まれたい・・・