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その6

”動きが鈍い、効いてるぜリューク!”

「でも、もう無理だ、今の技は……っ」

 剣に縋りようやく立ち上がる若き錬金術師に、よろめくように迫りくる炎魔の足取りが、炎の熱でダメージが癒えたのか徐々に速まってくる。だがそれに追い縋るように、岸辺に放った津波の水が再び凍った湖へと流れ込んでくる。

”大技がムリでも攻め続けるしかないぜ!”

「ああ、せめて足でも鈍らせないと……っ」

 息を整えつつ唱える短い呪文。たちまち戻りくる水の流れから炎めがけて撃ち出される拳ほどの水つぶて。背後から撃ち抜かれ竦んだように動きを止める炎の柱にひとつ、またひとつと着弾しては飛沫を上げる。それは炎に照り返され、まるで血潮のように見える。

”なんだよ、あんな吹雪よりよっぽど効いてるじゃねえか”

「雪は炎の向こうに届かないけど、水は炎を突き抜けられるから効き目が出るってことみたいだな」


 まだ喘ぎつつもリュークが両手剣を構えつつ後じさりすると、炎魔も大きくふらつきながらも後を追う。そうして湖の中央へと敵を誘い込もうとする錬金術師の若者。だが水つぶてでは威力が足りないらしく炎の足取りはすぐ速まろうとし、リュークはそのたびに消耗した魔力をかき集めては水つぶてを叩き込まなければならなかった。そのため恐るべき吸血鬼との間合いはじりじりと詰められてゆき、その間も人間にすぎぬ錬金術師の青年の魔力は回復を上回るペースで削られていった。そして打ち合わせ通りの場所までたどりついたとき、ついにリュークの魔力が尽きた。

”くそ、ヤバいぜ。まだかよ爺さん!”

「しかたないさ。彼らにとっても初めての、それも大掛かりな術なんだ……っ!」

 焦るガルドに応えたとたん、よろめく足が氷に滑り溜まり水に尻餅をつくリューク。瞬間、間近に迫った炎がつんのめるように襲いかかる! 横に転がり逃れた若者が立ち上がる間にも、敵は向きを変え追いすがってくる!

”斬るな! 殴れ! そいつ軽いぜっ”

 ガルドが叫ぶやいなや無我夢中で自分の体ごと大剣の腹を炎に叩きつけるリューク! あっけなく吹き飛び水の中に倒れこむ炎魔。爆発するように立ち上る水蒸気の中に一瞬かいま見える小さな人影!

”え?”「小人?」

 思わず固まった一つの体の二人の頭上でにわかに夜空が燃え上がる。見上げたまなざしが無数の火の玉を捉えたとたん、周囲に降り注ぐ溶岩弾! たちまち砕けた氷の割れ目から猛然と蒸気が立ち上る。錬金術の炎属性最高位の術たる溶岩弾の術。莫大な魔力を要するためリューク自身も使ったことがないこの術を、彼は湖の分厚い氷を砕き割るため砦の総力をあげて使うよう依頼していたのだ。

”やったぜ爺さん!”

「行こう、最後の数発はここへ落ちる!」

 変身し飛び立ったガルドの体を掠めるように降り注ぐひときわ大きな溶岩弾。次の瞬間、爆炎さながらに立ち上る蒸気の中から悲鳴があがる。まぎれもない子供の、それも女の子の声で!


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