【短編】 もしもヒロインも悪役令嬢も真っ当だったなら
開いていただいてありがとうございます。
よくある乙女ゲーへの転生。
よくある悪役令嬢への転生。
よくある学園恋愛ものの入学式。
「ベアトリス様! 私とお友達になってください!」
「やめて! そのフラグは危険よ!」
「へ?」
「あああ! あなた、庭園でお茶するからいらっしゃい!」
ヒロインも悪役令嬢も真っ当だとどうなるのか。
*****
私はエリア・カデンスキー。カデンスキー男爵家の長女です。
元は日本人だとか、アラサーの喪女で転生したとか、まぁ色々ありますが、問題は私が乙女ゲーのヒロインに転生したというとこです。
ヒロインなんて勝ち組じゃんと思うかもしれませんが、最近の転生小説は悪役令嬢が勝ち組でヒロインが負け組パターンが多いんです!
転生に気付いたのは十歳。乙女ゲー舞台の学園入学は十五歳。
努力はしました。最大級の努力をしました。教養にダンスにマナーにと寝る間を惜しんで取り組みました。
が、結果は中の中。貴族の位もパッとしない中、中身もパッとしないとかと悲嘆にくれました。
でも、何よりも恐れたのは、悪役であるはずの侯爵令嬢のベアトリス様。
聞こえてくる噂は才女で品行方正、慈愛に溢れ、侯爵令嬢でありながら下々のものにまで優しい聖女なんだとか。唯我独尊、我儘三昧ってゲームの設定だったのに。
もうホント、打倒ヒロインフラグ立ってます! ビシバシ立ってます!
下級貴族なのを盾に逃げ回ることも考えましたが、多分ベアトリス様も転生者。ストーリー上、ヒロインとも接触を余儀なくされるはずです。
ならば、友達もとい取り巻きになってしまえば!
そう思って入学式が終わってから声をおかけしたら、何故か庭園のお茶会に誘われてしまいました。
庭園にある東屋に置かれた白い机と椅子。侯爵令嬢であるベアトリス様がそこで優雅にお茶をする姿はまさに物語のようです。
メイドはお茶だけ用意したら東屋の外に出ました。少し離れたところに使用人用の東屋があって、そこでこちらの様子を見ながらおかわりの用意なんかをしているようです。
ベアトリス様はお茶を飲んでひと息つくと、私の目をひたっと見据えました。
「あなた、転生者ね」
私は顔が赤くなるのを感じながらもコクコク頷きます。
「はい。やっぱりベアトリス様も」
「そうよ。前世のことは細かくはいらないわ、質問に答えて」
「は、はい」
貴族の上位であるベアトリス様には肯定の返事しかできません。ベアトリス様は私の様子に一つ頷きました。
「あなたはこの世界のゲーム、“君の声を聴かせて“をプレイした?」
「しました。メイン四人のルートをクリアして、友達に返しに行く途中に事故にあいました」
「メイン四人だけ……じゃあ隠しキャラや二次作品なんかはやってないのね」
「していません」
何か納得するようにうんうん頷いていらっしゃいます。
「なるほど。それで、何故私の友達になりたいのかしら?」
「ベアトリス様が聖女だからです」
「はぁっ!? 聖女はあなたでしょ!」
おっと、多分素のベアトリス様が出てますよ。というか。
「へ? そんな設定ありました?」
「隠しキャラ出してないんだもんね。わかってないか……」
「うぅ……すいません」
隠しルートやっときゃよかったですね。
悪いことをしたなぁとうなだれた私に、ベアトリス様は首を振りました。
「いいの。で、私が聖女?」
「噂では理想の女性ナンバーワンがベアトリス様なんです。昨今の乙女ゲー転生業界では悪役令嬢が主人公でヒロインが悪者なんです」
「業界って何よ業界って。まぁわかるけど」
「わかりますか!」
「分かるから困ってるの!」
「え?」
同意が得られたと思ったら怒られました。何ででしょう。
「あまり話したくないけど、私がベアトリスになったのはこのルートフラグなんだと思うから話すわ。ああ、言いたくない」
「あ、あの……なら聞かなくても」
「駄目。とにかく聞きなさい」
「は、はい」
こめかみを揉みながら、覚悟を決めたようにベアトリス様は話始めました。
「私は君声のヘビーユーザーだったの。だから隠しキャラもばっちり知っているし、攻略サイトの立ち上げもやったわ」
「おぉ、お世話になりました!」
「攻略見ながら派だったのね」
「いや、結構色々やるのが好きで、数をこなす方だったんですよ。一本にそんなに時間かけてられないんで」
「あぁそぅ。まぁいいわ。で、隠しキャラや隠しルートだとね、あなたは聖女様になるルートがあるの」
「えぇ? この世界は魔法ないですよね」
「ないわよ。だけどね、あるフラグを回収すると教会の聖騎士は実は神聖魔法の使い手で教会は秘密結社みたいなものになるの。それで、あなたが聖女として目覚めるって話になるの」
「フラグ……何をしたらでしょう……」
「あなた、リーズベルトって名前に記憶ある?」
「リーズベルト……あ、リル君ですね。幼なじみです。今は聖騎士を目指して……え」
「うん。フラグばっちり回収していたみたいね。リーズベルトとの出会いが聖女ルートのフラグ回収よ」
「えええ!? でも、記憶戻る前の話ですよ!?」
リル君と知り合ったのは五歳の時です。記憶が戻ったのは十歳ですから、その前のフラグ回収なんてどうしようもありません。
「別にフラグを回収していても問題ないわ。ルートに入らなきゃいいんだし、破滅フラグじゃないんだから」
「まぁ、そうですね。破滅フラグよりは」
「その聖女ルートになると、乙女ゲーからガチのRPGになるの」
「ガチ……レベル上げてボスを倒すみたいな?」
「そう。しかもラスボスはベアトリスで、悪霊に取り憑かれているのを倒すわけ。で、百合エンド」
「はぁぁぁああ!?」
ラスボスがベアトリス様でもびっくりですが、百合エンドって!?
「ちなみに既に神殿に行ってお祓い済みだから、悪霊は私に取り憑けないけど」
お祓いあるんですね、この世界にも。
「さすがです。いやいや、乙女ゲーで百合エンドて」
「制作者もどこを目指したか知らないけど、がっつり百合だから」
「が、がっつり……」
「女同士じゃエッチ出来ないから、道具いるよねぐらい」
「待って、待ってください! 君声ってR指定でしたっけ!?」
「中学生以下アウトだったかな」
「ベアトリス様の口から聞きたくないなぁ……」
素敵な東屋で、素敵なお茶で、素敵な令嬢と百合話。
なんて残念な経験なんでしょう。
「まぁ、百合エンドフラグは折ってあるからいいのよ。問題は違うところにあるの」
「まだあるんですか?」
「本題は今からよ。ガチRPGを攻略したユーザーが二次作品を書いたわけ」
「同人誌みたいなのですか?」
「ネットに上げただけなんだけどね。でも攻略サイトからリンクしてあったし評判もよくて、お遊び追加シナリオってことでダウンロード発売になったわけ」
「おぉ、そんなことあったんですか」
「で、ダウンロード発売が決まった日に私が死亡よ」
「……あれ? もしやベアトリス様が作者?」
「……そう」
黒歴史暴露の時間みたいですね。そりゃ頭痛もするでしょう。
話したくない話はこれだったみたいですね。
「えっと、で、どんなシナリオなんですか?」
「ヒロインもベアトリスも転生者なの」
「はい」
今の現状それですね。
「普通ならヒロインがダメ女だけど二人とも真っ当だから、二人は親友になるの」
「真っ当かどうかはさておき、まぁお友達希望ですね」
「すると、魔王が復活するの」
「脈絡関係なくいきなりですね!」
思わずツッコミますが、ベアトリス様は気にしていらっしゃいません。
「ヒロインが光の巫女つまり聖女で、ベアトリスは闇の巫女として目覚めるの」
「は、はぁ…」
「攻略メンバーは巫女を守る騎士として、魔王討伐の旅に出るの」
「出ちゃうんですか」
ある意味RPGとしては王道展開ですけど、乙女ゲームで戦闘なしのゲームではありえない展開ともいえます。
「……しかも全員厨二病なセリフを言うの」
「わかりました、コメディ路線だったんですね」
「そうよ! コメディだったの! 現実になったら困るの!」
現実に厨二病がいてもうっとおしいだけですもんね。
「え、それって私達も?」
「当たり前じゃない。主人公なんだから」
私は思わず立ち上がりました。
「……ベアトリス様! お友達希望なんて世迷い言なんで!」
慌てた様にベアトリス様も立ち上がります。
「ダメよ! どちらか破滅フラグになるかもなんだから、とにかくノーマルエンドを目指して!」
「ノーマルですか? え、どんなでしたっけ?」
「ノーマルだとヒロインは普通に学園を卒業して、夜会で中堅貴族と出会って結婚するの」
「中堅貴族……伯爵か子爵あたりですよね?」
「そう。ベアトリスは嫌われながらも婚約者の王子と結婚するの」
「今は溺愛って聞きましたけど……って、問題ないですね! 身分相応です!」
「ね! ノーマルエンドを目指して……」
二人とも立ち上がったまま、解決策が見つかったと喜んだ瞬間。
ピンポンパンポーン
「「は?」」
只今、ヒロインのエリア・カデンスキーと悪役令嬢ベアトリス・ボッシーニの転生が確認されました。
親友フラグ回収
追加シナリオ、厨二病な君声、魔王討伐しちゃうぞ☆ルートに入ります
ピンポンパンポーン
「「え?」」
突然、前世のチャイムとともにアナウンスが流れました。
『ぐわぁははははは! ついに、ついにこの時を待っていたぞ! 我こそは魔王ショーシミンである!』
空から聞こえる声に思わず上を見ていた私はがばりとベアトリス様に振り返りました。
「ベアトリス様!」
「言わないで!」
「適当にも程があります!」
「言わないでったらぁ!」
ベアトリス様がイヤイヤと耳を塞いで首を振っています。可愛らしいしおいたわしいですけど、そんな場合じゃございません。
バタバタと足音がしたかと思うと、攻略者である男子四人が東屋の入り口に立っていました。
「く! ベアトリス! 魔王が復活してしまった! お前は早く城へ行け! 城には結界が張ってある!」
「いきなり第二王子登場だし、ファンタジー要素たっぷりでビックリです」
「ベアトリス、無事か! くぅっ、俺の右腕が……」
「第三の目が……」
「第六感が疼いてやがる……」
「みんな疼きすぎですよ!? なんかヤバい薬でもやってるぐらいの勢いですよ!?」
みんな色んな場所を押さえて苦しそうな顔をしています。全員一緒に真面目にやるともう異常としか思えません。
「エリア、ここまで来たら仕方ないわ。あなたは巻き込みたくなかったけれど……」
「ベアトリス様?」
先ほどまでの凹み具合はどこへやら。ベアトリス様が胸の前で手を組み、こちらをひたっと見つめていました。
「今こそ目覚めるのです、我らの導きの光、聖女よ! ってうわぁぁぁん」
「ベアトリス様、お気を確かにってひゃぁぁぁぁ!」
セリフだけ言うと両手で顔を隠してしゃがみこんでしまうベアトリス様。
そして、急に私の体が光始めましたよ! 爆発しちゃう!?
『エレナよ。ついに目覚めの時が来ました。
今こそ光の巫女となり、世界を導くのです』
ナレーションのように声が響き、私の前には日本語で文字が見えます。
はい
いいえ
ご丁寧に選択肢まで見えとります。
はい
>>いいえ
迷うことなくいいえを私は指差しました。
『エレナよ。ついに目覚めの時が来ました。
今こそ光の巫女となり、世界を導くのです』
>>いいえ
『エレナよ。ついに目覚めの時が来ました。
今こそ光の巫女となり、世界を導くのです』
「ちぃっ! リピート型か! 負けない!」
何度となくリピートされるナレーションにもめげずに私はいいえを指差し続けます。
>>いいえ
『光の巫女となり、世界を導くのです』
>>いいえ
『光の巫女となり、世界を導くのです』
>>いいえ
『光の巫女となり、世界を導くのです』
>>いいえ
『光の巫女となり、世界を導くのです』
>>いいえ
『導け』
>>強制的にはいが選択されました。
「ごり押し型か! しかもループ回避早いな!」
私が叫んだ瞬間に私の光は天を差し、次の瞬間私の服は白とピンクのフリフリに変わっていました。
「プ○キュアかぁぁあ!?」
はっと見るとシクシク泣くベアトリス様も、黒とピンクのフリフリ服に変わってました。
「もうお嫁に行けない……」
「な、ベアトリス! 君が闇の巫女だったなんて」
「闇の巫女!? ということはこっちは光の巫女か!」
「光と闇の巫女が揃う時、世界は救われると言う……今こそ魔王を討ち取る時だ!」
「説明ゼリフありがとうございます。攻略者たちが完全にモブ扱いなんですが」
「しくしくしく」
先ほどの疼きはどこへやら、攻略者たちが色々わめいています。
そんな様子にも構わず、ベアトリス様は泣いたまま。
「ベアトリス様〜。復活してくださーい。大丈夫ですよ、髪色までは変わってませんから」
「魔法少女が許されるのは小学生までよー」
「まぁ、十五歳だからまだ魔法少女らしい年齢ですよ」
「中身はアラフォーなのよぉぉ」
「いや、私も中身はアラサーですし、気持ちは分かりますから。ね」
「もぅいやぁぁぁ」
********
ヒロインも悪役令嬢も真っ当だとどうなるのか。
>>魔王が復活する
ヒロインも悪役令嬢もまともな場合、別の悪役がどうしたって必要になります。
ということで、魔王を出してしまおうと。
魔王は攻略対象イメージではありませんよ。バラモ○様イメージです!!
二人の変身シーンはノリです。今年はプリンセスプリ○ュアだし。
続きは書きません。書いてもグダグダになるので一発のみです。