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第十一話 - 決戦、リゴール公爵府

 視界がまったく効かない闇の中。月光はおろか星の明かりでさえも見当たらない。曇天である。


 高高度のはずだが風はなく、ばっさばっさと必死な羽音だけが頭上でしている。


「なぁ、リック」


「ハッ、ハァッ……な、なんでしょうか!」


 デビル・ポゼッションで飛行能力を得たリックは、息も絶え絶えにレインの体を抱えて運搬している。

青紫色の髪、羊のような角、コウモリのような翼――典型的なデビルの様相である。

腰には三つ又の長槍。


 ちなみに、決してリックが非力なわけではない。今のレインの体が大きすぎるのだ。

ただでさえ巨体な体が、今は三メートル近くもある。体を硬化していなければ自重で落ちてしまうほどだ。


「俺達、なんで夜まで待ったんだっけか」


 早朝にバーナムを出発して、リゴール入りしたのは昼前だったのだが、潜入は陽が落ちた今頃である。


「ハッ……思いのほか、防備が固かったからっ……奇襲の成功率、を……」


 よろよろと高度が下がっていく。


 これでも、大分高い位置を飛んでいるはずだ。三階建てのリゴール公爵府から視認されない程度には。


「おうい、大丈夫か?」


「フッ、フゥッ……後、レイン君の、作戦成功率っ、をっ……何度も説明したじゃないですかぁっ!」


 リックが珍しく取り乱して怒っている。それだけ必死なのだろう。


 運ばれる側としてはただただ暇なのだ。こう暗くては景色を楽しむことすらできない。


「悪い。リックが苦しそうなのが面白くてな」


「本当に悪いと思っていますか!?」


 なんだろう。普段はそんなことはないんだが、何故だか妙に苛めたくなるのだ。

スララのように。


(だぁりんのいじわる……)


 思考が繋がっているスララから非難の声が上がる。


「間もなく砦上空です。屋根の上にワーウルフが二人。――準備はよろしいですか?」


「……見えるのか?」


 レインは目を細めて下方を見る。完全に暗黒状態だ。

砦の明かりがまったくついていないわけではないだろうが、高度が高過ぎて視認できない。


「闇を好むがデビルですので」


「見た目もコウモリみたいだしな」


「……落としますよ?」


 リックの声が鋭く響く。

 レインはくつくつと笑う。


「――三、二、」


「おい、まさか本当に」


「ゴーッ!」


 胸を抱えていた腕がぱっと離れる。


 投下された。


 何も見えないまま、闇の世界が上方に駆け抜けていく。初めての体験だ。


(スラーッ!?)


 硬化を解除――いや、軟体の状態で着地したら体が弾け飛ぶんじゃないか。

それはマズい。


 体を円筒状に変形。逆さにしたコップのように周囲と上面だけを薄く硬化する。


 べちゃっとコップの中に何かがめり込んだ。


「ムグーッッ!?」


 ワーウルフだ。屋根の棟に座り込んでいた狼面人身の寄生魔の宿主(パラサイト・ホスト)は、上半身をすっぽりと覆われてしまっている。


「ゴーズ!!」


 もう一人のワーウルフが突如襲われた仲間の名前を叫ぶ。そして、暗黒の空を仰いで息を吸う。


 狼の咆哮をもって、砦の味方に異常を知らせることが彼らの役目。


「いけませんよ」


「――カッッ!?」


 叫び出そうと大口を開けていたワーウルフの喉に、槍の柄が突き刺さった。


「夜はお静かに。狼が騒いで良いのは満月の晩だけです」


 リックは逆さに突っ込んでいた槍を抜き取ると、ワーウルフの両手両足を手早く刺した。


「――ッ!!」


 喉を潰されたワーウルフは声も出せずに痛みに悶える。


 リックはにっこりと笑って、


「あまり暴れると落ちますからね。おとなしくしていてください」


「デビルだな、あんた……」


 レインは若干(おのの)きながら、体を形成しなおす。

捕えていた敵はとっくに酸欠で気絶してしまっている。


 リックはきょとんとして、


「大したことはしていませんよ。ワーウルフの回復力は異常ですから、明日にはケロッとしているでしょう」


 寄生魔の宿主(パラサイト・ホスト)は総じてタフではあるが、そこまでいけば特殊能力の域だ。


「便利な体だな」


「貴方ほどではありませんが。……なんならここから落としても死なないと思いますよ?」


「……それはやめておけ」


 戦闘能力は既に奪ったのだ。これ以上、無闇に傷付ける必要はない。


「回収が面倒ですからね」


 本気で言っていそうなのが、少し怖い。


 遠くの方で、地響きのような低音が響いた。


 屋敷の中からぞろぞろと、明かりを持った集団が飛び出して行く。

詰めている騎士団や寄生魔の宿主(パラサイト・ホスト)達だろう。目標は正門の方角だ。


「ミラナちゃん達はうまく敵を引き付けてくれているようですね――おっと、火の手が」


「平気そうか?」


「さあて、どうでしょう。兵士の数は二百程度……寄生魔の宿主(パラサイト・ホスト)の数はちょっと分かりませんね。まぁ、あれぐらいなら()()()()()()()大丈夫だと思いますが」

 言葉の意味するところは、同行しているアルヴァはヤバいと言うことだ。

それは突入する前から分かってはいたことだが……。


「では、僕も二階をかき乱してきます。六十秒きちんと数えてから突っ込んでくださいね」


「おう。武運を祈る」


「そちらも。大見得を切ったのですから、必ず勝利してください」


 リックは挑戦的な上目遣いでレインを見てから、ばさばさと飛び立って行った。


 六十秒。今にも飛び出したい気持ちを抑えながら、レインはゆっくりと時を数える。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 ドラゴン・ポゼッションによる鱗の鎧を纏ったミラナには、一つだけ弱点があった。


 顔面が守られていないのだ。


 一番守るべきところだろ、と思う。

もしかしたら、適応度が上がれば、いつかドラゴンの顔になるのかもしれない。でも、今はただ無防備なだけだ。


 これは、困る。


『どうにかならないの?』

『うーん、適応度を上げるしか……』


 そんなレインすらお手上げの弱点を、ミラナは画期的な発想によって克服した。


 鉄仮面を被った。

 あまりにも無骨なので、白塗りにしてハートマークで彩った。


 他の寄生魔の宿主(パラサイト・ホスト)達からはすこぶる評判が悪かった。スララだけが大絶賛してくれた。


 かくして、戦場を駆けるドラゴンの顔には骸骨のような白い仮面が付いている。


「ハッ――!」


 背後に追従するアルヴァのことは気にせずに、全力で突っ込んだ。

 でも、力は加減した。


「ぐええぇっ!!」


「ぎゃあああッッ!!」


 ドラゴンの爪はたやすく鋼鉄の鎧を切り裂く。威力が強過ぎる。

気を抜けば、あっという間に騎士達の手足を吹っ飛ばしてしまうだろう。


「どうする? 爪、引っ込めた方が良い?」


 口の中で呟く。こいつら相手なら鱗の拳だけでも十分に制圧できそうだ。


 が、


(この雑兵の中には寄生魔の宿主(パラサイト・ホスト)も紛れている。隙は見せぬ方が良い)


 女王のような横柄な声が頭に響く。普段は喋らないローザの声だ。

 この声を聞くと、ミラナは嬉しくなる。ローザと繋がっているんだという実感が沸く。


「ミラナッ!!」


「――!!」


 アルヴァの叫びで、咄嗟に横に飛んだ。

 ミラナが一秒前にいた空間を、刃の付いた鎖が高速で通り過ぎた。


「ヴィンセントッ!!」


「おや。名前を憶えていて頂けたとは光栄の極み」


「忘れたくても忘れられないわよ、その薄ら笑いは。なに、ご主人様のおりはしなくて良いの?」


「ヒヒッ……要りませんよぉ。何者が向かおうとも、リゴール公が敗北なさることなどあり得ません……ドラゴンを除いては、ですが」


 ヴィンセントの背後に、寄生魔の宿主(パラサイト・ホスト)が立ち並ぶ。豚面人身オーク牛面人身ミノタウロス白毛雪男イエティ犬面人身コボルト半鳥半人ハーピィ――、


「貴女がここに現れてくださったことは実に好都合です。まさか取り逃がしたドラゴンがここリゴールの地で手に入ろうとは」


「もう勝った気でいるの? 『毛皮を売る前に熊を捕えよ』って言葉知ってる?」


「はて。『多勢に無勢』なら知っておりますが」


 ヴィンセントが手振りで合図をすると、寄生魔の宿主(パラサイト・ホスト)達がミラナ達を取り囲もうと広がり始めた。

騎士達は巻き添えを避けるように少し下がった位置で第二の円陣を展開している。


 ミラナは大きく飛び退いて、アルヴァの前に立った。


「――乗って」


「なに?」


「二度は言わないわよ」


 アルヴァはそれ以上問わずに、ミラナの小さな背中に飛び乗った。

軽装鎧に剣と盾、そして大人一人の体重がずっしりとし掛かる。

ドラゴンの力がなければ潰されていただろう。


 その姿は幻想譚に出てくる竜騎士ドラゴンライダー……というにはいささかサイズが足りなさすぎた。

更に乗り方も不安定で、おっかなびっくりだった。贔屓目ひいきめに見てもポニーにまたがるる新米騎士が良いところだ。


 ミラナは邪魔な爪を気にしつつ、落とさないようにがっちりとアルヴァの太腿を掴んだ。


「離しても落ちないでよねっ!」


 そのまま、ヴィンセントの方に向かって全力で駆け出した。その速度は重石おもしがあっても存外に速い。


 囲んでいた敵が一斉に詰め寄って来るが、遅い。ヴィンセントはすぐ目の前だ。


「ハァッ――!!」


「クオッッ!?」


 力任せに叩き付けた右爪を、ヴィンセントは膝を高く上げて隠し刃で受けた。


 競り合いはせずにそのまま爪を逸らす。


 横から振り下ろされたミノタウロスの斧をミラナは左爪で弾いて、無防備になった相手を――そのまま放置。


 屋敷に向かって颯爽と走り出す。第二の壁を形成していた騎士達は悲鳴を上げて道を開けた。


「小癪な真似をぉッッ!!」


 ヴィンセントは怒りを吠えながら両腕を鎖を撃ち放った。


 アルヴァはミラナの背中に乗ったまま、飛来してきた鎖を二本とも払い落とした。

が、鎖はぐねぐねと動いて再びミラナ達を襲いにかかる。


 ミラナは反転して、両の爪で鎖をぎ払う。


 そしてそのまま背面方向に走りながら鎖の蛇と格闘する。まるで剣舞のように洗練された動きだと自分で褒めたくなる。


「……君は戦いの申し子だね」


 アルヴァは信じられないといった様子でぽつりと呟いた。


「ありがとっ。どうせ刺さっても平気だけど! 暇ならドア開けて来てくれるかしらっ!?」


「任されよう」


 飛び降りて駆け出したアルヴァの速度は、ドラゴン・ポゼッションしたミラナをも凌ぐ。


 ミラナは一際力強く鎖を弾いてから、玄関に飛び込んだ。


 それを見たヴィンセントは血相を変えて、


「アアアッッ!! あいつらの狙いはリゴール公だッ!! てめぇら雁首がんくび揃えて突っ立ってないで追いかけるんだよォォッッ!!」


 ばたばたと寄生魔の宿主(パラサイト・ホスト)達が走り出す。


「やー、あんだけ焦ってくれると楽しいわね」


「ミラナ。本当にレインの援護に行くのか?」


「まさか。先生が負けるはずないって信じてるし。二階に来るなってリックに口酸っぱく言われたしね」


 ミラナの役目はあくまでも陽動。多くの敵を引き付けることだ。

それ以上のことをする気はなかった。


 というか、あいつらを引き連れて味方の援護に行っても、逆に邪魔にしかならない。


「なら、何も逃げずとも……」


 敵だけではなく、アルヴァも焦っている。その胸中はミラナにも良く分かる。


「相棒を早く取り戻したいのは分かるけど、じっくり行きましょうよ。あんな全方位囲まれてる状態じゃ、さすがのミラナちゃんも大変よ」


「うむぅ……」


「心配しなくても、相手さんは追いかけてくるわよ――ほら」


 玄関に詰め掛けて|来る寄生魔の宿主(パラサイト・ホスト)の集団。廊下の窓を割り、そちらから侵入して来ようとする者もいる。


 窓の方はアルヴァに任せた。ミラナは爪を低く構えて、玄関の敵に突撃する――。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 二階を守るリック。横幅が五メートルもある大廊下の戦場は、異常事態に陥っていた。


 同士討ちをしている者、四人。

 床に転がり動かない者、五人。

 リックに対峙している者、一人。


「やめろっ! 正気に戻れっ!!」


「――――」


「俺達は味方だっ!!」


「――――」


 同士討ちをしている者達も、二人は正常。

しかしその叫びは届かず、自分の意志とは関係なしに味方と戦うハメになっている。


 リックと対峙するリザードマン――ドラゴンに良く似ている鱗の体だが、爪と羽がなく剣を持っている――は剣を構え直し、金色のトカゲの目を細めた。


「貴様……何者だ。あいつらに何をした?」


「ふふ……名乗るほどの者ではありません。ですが、寄生魔(パラサイト)(ほう)ならお教えしましょう」


 リックの金色の目が、毒々しい赤色に染まる。


「インキュバス――下級のデビルですよ」


「……ッ! 女をたぶらかす淫魔の類か!!」


 リックは少し不機嫌になったが、異は唱えなかった。それが事実だからだ。


 気を紛らわす為に、片手で槍をくるくると回す。


「僕の眼は女性を虜にする魅了チャームの魔眼……彼女達二人は、既に僕の操り人形です」


魅了チャーム……?」


 リザードマンの怪訝な視線が背後の床に向く。倒れ込んでいる五人の味方。

様々なタイプの寄生魔の宿主(パラサイト・ホスト)だが、男性も女性も混ざっている。魂が抜けたように動かないが、心を奪われている――という意味合いが違ってくる。


 リックはにこやかに笑って、


宿主ホストにも寄生魔パラサイトにもそれぞれの性別がありますからね。どちらか一方だけ女性……と言った場合には思考の波長がズレて行動できません」


「……ひでぇ能力だ」


「そうでもありませんよ。貴方やリゴール公のような男性同士の組み合わせには効きませんし。おかげで大将の相手(メインディッシュ)をレイン君に譲るハメになりました」


 リザードマンに動揺が走った。

正面入り口と二階の強襲だけでは飽き足らず、大ボスが狙われていることをたった今知った。


 背後の仲間達はかなり苦戦している。

実力は同程度のはずだが、味方であるが故に手加減して戦っている男性陣と、お構いなしに全力で掛かる女性陣では勝負にならない。


 リザードマンに援護は期待できなかった。


「大丈夫ですよ。僕を倒せば暗示は解けますから」


「……作戦も、能力も。ぺらぺらと喋ってくれるな。小さな色男」


「お気になさらず。どうせ僕の能力は貴方には効きませんし――ここを通す気もありません」


 リックは腰を下ろし、三つ又の槍を構える。更に手で「かかってこい」と挑発する。


 リザードマンは長い舌で舌なめずりをして、


「後悔するぞ、デビルの宿主(・ホスト)――!!」


 大きな歩幅で上段に斬り掛かった。

 

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 レインはきっかり六十秒を数え、窓ガラスを砕いて三階に飛び込んだ。


 三階全体を使った大広間は無骨な岩壁に包まれており、部屋の四隅には大型の松明がある。

これだけならば魔道士が儀式を行う空間にも見える。


 しかし、この部屋は王城の様相であった。

床には赤い絨毯が敷かれ、その奥には白銀の玉座がある。

そこには白銀色のローブを着た老人の姿がある。


 恰幅が良く、青い眼光は鋭く輝いている。力と野望に満ち溢れている。

髪の金色には白いものが混じっているが、それでもとても齢六十には見えない。


 リゴールは玉座にどっかりと座り、横柄にレインを見下ろしている。


「はて。ワシの相手はドラゴンであると思い決めておったのだが……お主、まさかドラゴンか?」


「そう見えるか? リゴール公」


「見えぬ。見えぬのぅ。だからこそ困っておるのだが。何をしにここに参った?」


「お前を倒しに」


「グホッ――」


 リゴールは噴き出して笑った。

そして、玉座の後ろから大きな氷の像を取り出して、膝の上に置いた。


 子供ほどの大きさのそれは、恐らくリゴールの寄生魔パラサイト、アイスゴーレムだ。


何故なにゆえ、ワシの命を狙う?」


「人の家を燃やしといて良く言ったもんだ」


「ふむ。だが、ワシの家も燃えておる。それで五分にはならんか?」


「ならねェな。元はと言えばお前が撒いた種だろうが」


「ふむゥ……」


 リゴールはヒゲのない顎を撫でて唸る。


「しかし、ワシはどうしてもドラゴンが欲しくてな……革命の為に」


「金も権力も十分持ってんだろ。リゴール地方の領主としておとなしく暮らしとけば良いじゃねェか」


「何を言うか、小童こわっぱが」


 リゴールは呆れたように肩を竦める。

こんな場合だが、年上扱いばかりされるレインは珍しく小童呼ばわりされたことに密かに喜ぶ。


「お主、平穏・平和……そんな言葉が好きであろう?」


「結構なことじゃねェか。平和で何が悪い」


「つまらん男よ! 男子として生を受けたからには、スリルを求めなくて何とする!」


「スリルってのは反乱クーデターのことか?」


「政権を握るはあくまで手段。ワシがやりたい事に近付く工程よ」


 リゴールは野望を語る少年の目で、胸をどんと叩いた。


 迷いのないその顔にレインは苛立ちを覚える。


「……国を裏切り、民を殺し、そこまでして何を望む!」


「真理を。世界のことわりを」


「理……?」


「バーナム王宮の地下に眠る大悪魔のことは知っているか? 魔神の大穴の奥底にいる者のことは? ミーナス公爵府の勇者の亡霊は? リーン海の巨大な影は?」


「なに……?」


 聞いたことのない情報ばかりが矢継ぎ早に頭の上を過ぎ去っていく。


「王家の一員であるワシにも語られない、この国の秘密。それを解き明かすのがワシの最後の野望よ」


 アイスゴーレムが膝の上から飛び降り、リゴールが玉座から立ち上がる。


「さて、少年。たかだか()()()()()でかくなったところで、よもやワシに勝てるとは思っていまいな?」


 レインの三メートルの体を壇上から見下ろしながら、リゴールは笑う。


「思ってちゃ悪いか」


「悪くはないが……もう少し世界を知るべきであろうな。――アイスゴーレム・ポゼッションッ!!」


 アイスゴーレムの体が青白い光になり、リゴールの体に溶けていく。


 白い強烈な光が迸り、レインは一瞬目を閉じた。


 目を開けた瞬間、唖然とする。


 白い氷を組み合わせた体の魔人が目の前に立ち塞がっている。

 大きさ、五メートル超。高い天井に頭が付きそうだ。


 化け物だった。


「これが四十年余りポゼッションを続けた寄生魔の宿主(パラサイト・ホスト)の適応度よ。お主もなかなかに寄生魔パラサイトの力を引き出しているようだが……肝心の相棒がスライムではな」


「人を見上げるのは久し振りだ。――まぁ、すぐに床に這いつくばったお前を見下ろしてやる」


「口の減らぬガキよッッ!!」


 リゴールは大口を開いた。


 ドラゴンならその口からは炎が吐かれた。ミミックならば雷撃が吐かれた。

 アイスゴーレムならば――、


「冷気かッ!」


 レインは側面に腕を伸ばして窓枠を引っ掴み、縮む反動で避けた。

 先程まで立っていた床がたちまち凍り付き、霜の結晶が生えてくる。


「良く避けおったな、スライム風情が。だが、お主が冷気に弱いのは知っておるぞ」


「そうかい。だが、俺もお前の弱点を知ってるぞ」


「むゥ……?」


 レインは腕を伸ばし、部屋の隅にあるそれを引き寄せた。


 燃え盛る設置型の松明。


 リゴールは眼球のない空洞の目を細めて、肩を竦めた。


「なにかと思えば。確かに見ての通り、このアイスゴーレム、熱や炎に弱い体ではあるが。そんなしょぼくれた火で一体何をしようと言うのかな」


「こうするんだ」


 レインは部屋の真ん中に松明を投げ込んだ。

絨毯に火が移り、炎が徐々に大きくなる。


大事だいじにはならんが、屋敷を燃やされるのも癪よの……」


 リゴールは冷気の息を吐こうと、大口を開いた。


 それよりも先に、レインの体内から液体が飛び出し、炎に向かって降り注いだ。


「水……? いや、これはッ!!」


 気付いた時には遅い。

リゴールは冷気の息を吹きかけたが、一気に勢いを増した炎はむしろそれによって更に広がっていく。


 レインがばら撒いたものは、油。


「大事にならねェと良いな、リゴール公」


「グッ……いや、だが待て。お主もスライムである以上、炎は苦手とするはず……」


 リゴールから戸惑いが消える。そして、勝利の笑みをこぼす。


「はったりか! むしろ不利なのは体の小さなお主の方であろうが! 体内の油を放出したことによって、大分縮んでしまっておるぞ?」


「そう見えるか?」


 三メートルあったレインの身長は、いつもの百九十センチに戻ってしまっている。今はリゴールの腰ほどもない。


「見える、見えるぞ。一目で分かるわ。とはいえ、有利に胡坐あぐらをかくはワシの好むところではない。お主のしつらえた炎の戦場に頼らずとも、粉微塵に潰してくれようぞっ!!」


 リゴールは明らかに超重量な体を感じさせない速度で、レインに向かって突っ込んで来た。

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