赤いスポーツカーは死なせてくれない
「ねぇ、あなたも一回死んでみたの?」
背筋がぞっとした。
眩しいほどの無邪気な笑顔とその言葉が合わなかった。
「か、花梨ちゃん!」
それまで俺の手を引いてくれていた看護師さんはぎょっとしたように少女の名を呼んだ。
まだ幼い少女に怯えている大人が何とも奇妙に俺の目に焼きついたのだった。
花梨、と名乗ったその少女は可愛らしい容姿をしていた。
毛先は綺麗にカールして二重のぱっちりお目目、可憐な少女は花梨という名が凄く似合っていると思った。
病室で花梨と二人きりになる。
僕はなるべく花梨と目を合わさないようにして白いベッドによじ登る。
「あなた、病気なの」
「……うん」
「どれくらい入院するの?」
「わかんない」
「そう」
母親から渡された絵本を開き、それを読むことに集中しようとしたが、花梨はまだ喋り足りないらしかった。
年齢の割にどこか老成した雰囲気を持つ少女に恐怖を抱かなかったといえば嘘になる。
「私はね、死んだらどうなるのかなって思ったの。だから近所の駐車場に停まってた赤いスポーツカーの下に隠れてたらタイヤに足を取られちゃった」
猫踏んじゃった、みたいなニュアンスで笑う少女に僕はやはり恐怖を感じたが、それと同時に興味も湧いてきて、少女を見つめたまま絵本を閉じた。