嘘は雷と共に落ちていく
「私の事、馬鹿だって思ってるんでしょ」
私は海江田くんを睨み上げ、低い声でそう呟いた。
顔よし、愛想よし、頭よし、運動神経よし。男女問わず人気を集めていて模範少年な海江田和輝くんは性格はとてつもなく悪いらしい。
海江田くんは困惑したように微笑すると肩をすくめた。
「だって聞いてきたのは佐々木だろ」
海江田くんの仕草ひとつひとつが苛立ちに変わっていく。
からかわれている――。
「さよなら!助けてくれてありがと!」
怒りを含んだ言葉を投げつけて、私は苛立ちを隠しきれずに踵を返した。
私と海江田くんをそれまで唖然と見つめていた、チェーンソーで樹を切り倒していた中年の男がはっと目を瞬かせて私に道を譲ってくれた。
そして海江田くんが私を追いかけてくることはなかった。
翌日。
「ねえ」
「ん?」
教室でお菓子をむしゃむしゃ食べているヨリに、私は頬杖をつきながら声をかけてみた。
「もしも男の子が突然、未来が見えるんだーって言ったら――それ、信じる?」
お菓子を食べていた手を止め、ヨリは何言ってんの?と言わんばかりの眼差しを私に向けてくる。
でもヨリはヨリで真剣に考えてくれているらしく、しばらく視線を逡巡と動かしていたけれど、やがて私の目で止まった。
「信じないね、やっぱ。あ、でも人によるかな」
「クラスメイトの男の子だったら?」
「信じないね」
「彼氏だったら?」
「信じるね」
単純なヨリの返事に私は微笑して溜息を吐く。
普通に考えて未来が読める等、そんな非科学的な事はありえない。
真剣に考えていた私はやっぱり馬鹿だ――自分自身に呆れていると、「佐々木」と呼びかけられて私の神経が尖った。
背の低い、でも高校生の男子は何が楽しいのか私の傍に立っていた。
「何?何なの?また窓ガラスが割れるなんて事言わないでよ?」
冗談半分に笑って言ったヨリだけれど、私は微塵も笑えなかった。
この男子も海江田の手先か――。
「何か、昼休み中庭に行かない方がいいらしいよ」
男子はそう言って、にっこりと眩しいくらいの笑顔を顔にはりつけた。
その日の昼休み、中庭に落雷した。
“未来が読めるって言ったら、笑う?”
そんな、そんな非科学的な事あるわけがない。