車椅子のカリンちゃん
看護師さんに手を引かれて病室へ向かう間、不安が怒涛のように押し寄せてきていた。
母は医者の説明を受けた後から来ると言っていたが、このままもう二度と目の前に現れないんじゃないかと想像して怖くなった。
どうやら一ヶ月程入院する羽目になりそうだ。
昨日行われた8歳の誕生日も、この持病の所為で台無しになってしまった。
「ここよ」
看護師さんに笑顔を向けられて少しだけ安心した。
「ここ?」
「和輝くんは今日からここで過ごすの」
115号室。病院特有の鼻を突くような香りのするこの場所が第二の家になった瞬間だった。
「何も心配しなくていいからね。同室には和輝くんと同じ年の女の子もいるからね」
看護師さんの気遣うような視線を受けながら、ちぇっ、と心の中で舌打ちした。
女の子か。サッカーができない生き物だし、ボールが当たったらすぐに泣くし、嫌だな。
「あれ?新しい子?」
清潔そうな白いベッドの上にいた少女は手元にあった本から顔を上げて、驚いたように僕を凝視する。
白い頬はマシュマロでふわふわの髪の毛は綿飴みたいだった。
女の子ってお菓子で出来てるのか、と妙に関心した。
「そうよ。和輝くんっていうの」
看護師さんに軽く背中を押され、僕は一歩前に出た。
「……よろしく」
照れ臭かったけれど、いつも両親は五月蝿いくらいに挨拶はちゃんとしろと言うものだから一応言った。
女の子は飛び切りの笑顔を僕に向ける。
「よろしく。私は花梨。仲良くしてね」
そして彼女が相好を崩さぬまま、言うのだ。
「ねぇ、あなたも一回死んでみたの?」
無邪気な笑みでそう問いかけてきた少女の両足は膝から下がなかった。