ご時世、非科学的な事があるわけがない
「大丈夫?怪我してない?」
私は馬鹿みたいに大口を開けて、海江田くんを凝視した。
相変わらず彼は爽やかに色素の薄いブラウンの髪を風に靡かせている。
緊張の為か。恐怖の為か。私の鼓動は容赦なく高鳴っていた。
「どうしたの?」
無害な笑顔を向けられて私はますます困惑したのだった。
「どうしたのって……。こっちの台詞よ」
ごもごもと口ごもりながら呟くと、海江田くんは笑みを深めて私の頭に付いていた葉を取ってくれる。
――何なんだ、この漫画みたいな状況は。
全く私には似合わな過ぎて嘔吐したくなってくる。
「葉っぱ。たぬきみたいだよ」
……はぁ?
心の底から海江田くんを馬鹿にした言葉が口を突いて出そうになった。
言葉に出なかったけれども、顔には出ていたらしい。
海江田くんは失笑しながら、私の頭に付いていた葉っぱを道端に捨てた。
「……部活は?」
ヨリの情報によると、海江田くんは春斗先輩と同じサッカー部の筈だった。
それに今日は部活がある日ではないのか。
「休み」
「……そう」
呆気なく返事され、私は躊躇した。
このまま話を続けた方がいいのか、逃げてしまえばいいのか。
だが、特に共通の話題も見つからず押し黙っていると、海江田くんの方から話しかけてきた。
思えば――どうして海江田くんはいきなり私との距離を縮めてきたんだろう。
いつも私が危ない目になると海江田くんはまるで事前に知っているようで、何らかをして事故を防いでくれる。
「俺の事、覚えててくれたんだ」
嬉しそうに微笑する海江田くんに少しだけ恐怖を感じる。
ずるりと背中を這うような、冷たい感覚が走っていく。
「もちろん。だって海江田くん有名でしょ?」
平然を装いながらも私は内心、この街路樹から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
「そっか」
無邪気に微笑む海江田くんの表情を伺って、私は意を決した。
変人とか、狂人だとか思われるかもしれなかったが、何より私は知りたい事がたくさんある。
「海江田くん、さ。今日、私達に席からどけって言ったのは海江田くんなの?今もこの樹が倒れてくる事を知ってたから私のあとをついてきてたの?他にも不思議に思うのがたくさんあるんだよ」
風が止んだ。
「もしも俺が……未来が読めるって言ったら笑う?」
ぽつりと呟いた海江田くんの言葉に私の身体全身が粟立った。