私のスーパーヒーロー
7組の海江田和輝くんの話題で今日も皆は盛り上がっている――。
「昨日の試合、理沙も見に来たら良かったのに!海江田くんの蹴ったボールはね、まるで生きてるみたいにびゅんびゅん動くの。いやぁ、あれは相手高校の女子までも虜にしちゃってたな……。私も危なかった」
「ヨリ、彼氏いるじゃん……」
「冗談よ、冗談!」
友人である新田ヨリは昨日行われたサッカー部の試合の熱く語っていた。
でもサッカーの事なんてルールも知らない私はそんな熱心に話されても、相槌を打つことしかできなかった。
ふとクラスを見渡せば、クラスメイトの殆どが隣のクラスの海江田和輝くんの話題で喋っている。
男女、学年問わず大人気な海江田くんは言うまでもなく有名だから私も名前と顔くらいは知っている。
だけどヨリみたいにキャーキャー騒ぐ事は出来ない。
「佐々木」
名前を呼ばれて顔を上げると、クラスメイトの男の子が気怠そうに立っていた。
明後日の方向に向けられる目は決して私を見ようとはしない。
「何かこの席からどけ、って」
「は?何なのよ、それ」
私が口を開く前に、ヨリが不機嫌さを露にして食い掛かった。
確かにいきなり「どけ」って言われるのは意味が分からない。
顔全体に不快感を表しているヨリに、彼は苛立ったように声を荒げた。
「知らねぇよ!俺だってそう言えって言われたんだから!」
「……誰に?」
私が声を低くして訊ねるとクラスメイトの男の子はギョッとしたように目を剥いた。
怪しさ満載である。
「と、とにかく早くどけよ!!」
席から動かない私とヨリに彼は焦燥を見せた。
「気持ち悪っ。行こう、理沙」
クラスメイトの男の子を一瞥し、ヨリは椅子から立ち上がって私を促す。
私は辺りを警戒してから、教室を出て行こうとするヨリの後ろを慌てて追ったのだった。
教室から廊下への敷居を跨いだ瞬間、耳をつんざくような何かが壊れる激しい音が響いた。
それに思わず肩を震わせて、振り返る。
教室の窓ガラスが粉々に粉砕していた。
その傍にサッカーボールが落ちている事を見ると、どうやら外から飛んできたものらしい。
「……え、」
私はすぐに気づいた。
もしも、クラスメイトの男の子の忠告がなかったら粉々になったガラスを浴びていたのは私達だった。
幸い、怪我人は出ていないが、ガラスの欠片が散らばっている場所はさっきまで私が座っていた席だったのだ。
どこかから向けられる視線にはっとして辺りを見渡し――ガラスが割れた音に反応して沢山の生徒が、私のクラスである6組に押し寄せてくる中、静かにこちらを見ている人がいた。
7組の海江田和輝くんだ。
生徒の隙間の奥からまっすぐ私を見つめている。
ぞっとして全身に鳥肌がたった。
おそらくクラスメイトの男の子に「どけ」という伝言を託したのは海江田くんだろう。
しばらく私と奇妙な視線を通わせていた彼は不意に視線を逸らすと人混みに消えてしまった。