生を恐れる幼き少女
今朝、花梨の泣き喚く声で目が覚めた。
「や、やだ!!いやっ!放してよっ!!」
何事かとベッドから飛び起きた僕に、看護師さんたち数人が優しい笑みを返してくれる。
「ごめんね、和輝くん」
何だ……?
「行きたくないっ!!」
悲鳴に近い言葉をあげる花梨に視線を動かす。花梨は綿飴のようなふわふわの髪を振り乱して、必死にベッドの柱に捕まっていた。
困惑したように頭の禿げた白衣のおじさんが必死に花梨を宥めていた。
「花梨ちゃん、手術しないと危険なんだよ。またいつ発作が出るのか分からない」
「でも嫌なのっ!」
涙でぐしゃぐしゃになった花梨はキッと、傍に立つ背の高い女の人を見上げる。
きっと花梨の母親だろうと僕は察した。
猫を連想させるような、目尻が少しつりあがったアーモンド形の猫目が花梨と似ていた。
「ま、ママ!ねえ、この人達に言って!私は大丈夫だって!!お願い、ママ!」
花梨の母親は涙を耐えるように俯き、嗚咽がもれないように口許を押さえる。
「先生、この子が助かるなら構いませんから……」
花梨の母親の肩を引き寄せたのは、ワインのラベルになっているような彫りの深い顔立ちをした男だった。
花梨の母親のようにあまり若くはない。四十代ぐらいだろうか。
きっと、花梨の父親だ。
「わかりました」
禿げた医者はしっかりと頷き、男の看護師さんに何かの支持をしていた。
「やだ、放して!」
男の看護師さんは花梨の身体を抱え、車椅子に座らせる。
花梨はジタバタと暴れていたが、多くの人たちに押さえられ、動きを停止させられていた。
花梨の膝にかけられた毛布が露になり、膝から下のない足が現れた。
僕はそれが直視できず、ただ目の前の凄まじい出来事に身体を震わせた。
「行きたくないっ!」
花梨の意思を無視して、車椅子がゆっくりと押される。
ふと花梨は僕と目が合い、すがるような視線を向けてきた。
地獄に落とされたような悲痛な面持ちをした花梨は何かを言う代わりに僕の方へ右手をまっすぐ伸ばしてきた。