タカシナハルト先輩との15分
「かわいいね」
「えっ」
――プレイバックする。
空を見上げれば、目が痛いほど蒼く澄み切っている。
夏なのにそのくせ、暑くはなく、ひんやりとした風が私を包み込む。
そんな日曜日の朝十時、偶然にも海江田くんと会った商店街の時計台の下で待ち合わせ。
九時四十五分に到着した私よりも早く、時計台の下に春斗先輩が待っていた。
黒光りする携帯電話の液晶画面を見つめながら、眉間に皺をよせている春斗先輩は少し不機嫌そうで私は声をかけるべきか気づかないふりをするか悩んだ。
茫然と立ち尽くしていると、春斗先輩はふいに液晶画面から視線を上げて、私を見た。
「理沙ちゃん?」
「あ、はい」
どうして名前を……と思ったら、おそらくヨリが約束を取り付ける際に教えたのだろうと察した。
「かわいいね」
「えっ」
品定めするように私の姿を見つめ、春斗先輩は口角を上げた。
携帯電話をジーンズのポケットに滑り込ませ、私の目を見る。
「そのスカート」
なんだ、と思った。
思わず見下ろすと、昨日購入したフレアスカートが風に揺れていた。
それがどこか勝ち誇っているようで、私は苛立った。
「理沙ちゃん、俺の名前知ってる?」
知らないわけがない。
言葉には出さなかったけれど、ずっとあなたの名前を呟いてた。
高校の廊下ですれ違う時は私の姿なんて目にも留めない彼が、今私の目の前で微笑んでいるという事が不遜な表現かもしれないけど幸せに感じる。
「高階。高階春斗だから覚えててね」
「はい」
しっかり頷くと、春斗先輩は笑みを深めた。
「素直だなぁ。心が清いって感じ。1年生と2年生の女の違いがこうもはっきり出る」
独り言のように呟く春斗先輩を見つめる。
〝もしも男の子が突然、未来が見えるんだーって言ったら――それ、信じる?〟
突然、前に自分が質問した声が脳裏によみがえってきた。
私の問いに対してヨリは何て答えただろうか。
〝人によるかな〟
私は海江田くんの言葉は信じなかった。
もしも春斗先輩に海江田くんと同じ事を言われたらどう感じるだろうか。
時計の針は丁度、十時をさしていた。