世界で一番キレイなお花畑
「死んだらお花畑を見るんだって。知ってる?」
「あ、うん……」
大きな目で僕を見つめる花梨に、心あらずな頷きを返すと彼女は満足そうに頷いた。
そして病室から見える窓の外を恍惚と眺めながら、呟いた。
「見てみたいなぁと思ったの。死んだらどうなるんだろうっていう興味も一緒にね」
「赤いスポーツカーに轢かれた時……見れた?」
恐る恐るそう訊ねると、彼女は細い眉尻をたらして苦笑した。
「見れなかった。三途の川さえ渡らなかった。もしお花畑を見つけたら、色んな花を摘んでママへのお土産にしようと思ってたのに」
僕は花梨の残念そうに紡がれた言葉に疑問を持った。
「死んだら、もう二度と目覚めないんだよ?」
僕も幼い頃、人が死ぬことに言葉にならない恐怖を抱いたものだ。
神様という生き物に一瞬恨みを持った。
「馬鹿ね。それは大人が子供を脅してるだけなの。本当は死んでも生き返る事ができるのよ?あなた、気づかなかったの?」
花梨はクスクス笑いながら、その大きな目で僕を見つめた。
カールがかかったふわふわの髪の毛が、窓から流れ込む風に靡いてふわりと揺れた。
僕は思わぬ知恵に目を瞬かせる。
死んだら生き返る?そんな馬鹿な。
花梨が検査の為に病室から出て行った後、僕はお見舞いに来ていた父に尋ねてみた。
「人って、死んでも生き返ることができるの?」
真夏だというのにスーツを着た父は僕の言葉に一瞬驚いたような顔を浮かべて、僕を見つめた。
それからフッと優しく微笑み、僕の髪をその大きな手ですくう。
「できるかもしれないね」