あなたとはお友達ですらないんですけど
右を向けば、ピンクのフレアのスカート。
左を向けば、白レースのブラウス。
前を向けば、イレギュラー裾のワンピース。
そして後ろを向けば――…爽やかな笑顔が私を迎えている。
「……どうして海江田くんが、ここにいるの?」
春斗先輩を含めたWデートを明日に控え、その日に着ていく服を買いにきた私。
何故、そのストーカー紛いな男がここにいるのか激しい疑問を感じた。
「何となく?」
「何となくでこの店入らないよ。女の子の服の店に男入って恥ずかしくない?」
「別に」
「ほら、みんなチラチラ見てるよ」
「もう慣れっこ」
……そうだろうな。
嫌な女にはなりたくなかったから口を突いて出て来そうになった言葉を慌てて終う。
学校でも海江田くんが歩くたび、足許に花が咲いていくが如き、生徒たちの目を奪っている。
そして土曜日の私服もおしゃれな事に少し苛立った。
「それ、買うの?」
私が持つカゴの中を覗き込み、海江田くんは花柄のキャミソールを摘み上げた。
「明日のデートの為?」
唐突に紡がれた言葉にハッとして海江田くんを凝視する。
「何で知ってんの?」
「言ったじゃん。俺、未来が見えるって」
いつもにこにこと笑っている海江田くんは珍しく真剣な目で私を見つめてきた。
その色素の薄いブラウンの瞳に吸い込まれそうになる。
だけど鼻から笑い飛ばして、私は海江田くんを一瞥した。
「信じないって言ってるでしょ」
私のその言葉に海江田くんは微笑したまま、悲しそうに目を伏せた。
フレアのスカート、サーモンピンクのアウター、花柄のキャミソールを持ってレジに向かうとお金を払う際、店員の女の人が私の隣にいた海江田くんを指差して、「本日、カップルデーとさせて頂いてます。もれなくカップルで来店されたお客様には商品30パーセント引きにさせていただいております」と痛いほどの笑顔で言ってきた。
恐る恐る海江田くんに視線を送ると、彼は何が楽しいのかにこにこ笑っていた。
カップルじゃないけど、30パーセント引きというのは中々の魅力だ。
服の入った紙袋を提げ、店内から出ると海江田くんも何故か着いてくる。
「……何?」
「何って?」
「何で着いてきてるの」
私、海江田くんと一緒にいたら、「何?」しか言ってないような気がする。
「腹減った。あそこの店で一緒に食べない?」
そう言って海江田くんが指差したのは、小さいけど可愛い店だった。