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天空の刻印師  作者: 夏坂ひなた(旧:二条 遙)
深淵からの使者
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第80話

 マリオが小太り体型をぶるぶるとふるわせながら窓を指す。その先を目で追って、俺も思わず絶句した。


 薄い窓ガラスに映える、雲ひとつない昼下がりの青天。そこに黒い飛行機のような何かが浮いていたのだ。それも、あたり一面に。


 窓に駆け寄って空の異常な光景を仰いでみるが、これは師獣なのか? ドラゴンみたいな獣や巨大な鷲のような生物が城の上空を飛来している。


「ごご、ご主人、さま。これは、どうしたのでしょうか」


 アビーさんが俺の背中にしがみついているが、俺も何が起きているのか全然わからない。ただ絶句するばかりだ。


 この有翼系の群れは一体どこからあらわれたんだ?


 ついさっきまではこんな感じじゃなかった。空を注視していたわけじゃないから、いつから変わったのか定かではないが。


 でも、空がこんな異常事態になっていればすぐに気づくはずだ。だって空軍の航空艦隊みたいにうじゃうじゃ飛んでいるんだぞ。


 偶然にも有翼系の群れが飛来するシーズンだったのか? ただの偶然にしては数が多すぎるが。


「あの子たち、幻妖だよ。きっと」


 俺のとなりに来ていたセラフィが力ない声でつぶやく。


「幻妖? なんでわかるんだ」

「うん。だって、エレオノーラで見たことない子ばかりだもん。ほら、あの子とか」


 お前が見たことないのは、それはイザードの固有種だからじゃないのか? と返そうと思ったが、とりあえずセラフィの指た方角に目を向けて、納得した。その巨大な鷲みたいな生物の首が三つもあったからだ。


 他にも煙みたいに実体のなさそうなやつや、アーリマンみたいなひとつ目の気持ち悪いやつまで飛んでいる。戦闘開始直後に死の宣告とかしてきそうな感じだが。


 さらに、蛇に翼をくっつけたような、一目で幻妖と判断できる生物まで発見してしまった。


 あの気持ち悪い蛇の幻妖は、俺がエレオノーラに来てすぐにプレヴラが呼び出したやつだ。あれからひと月以上も経っているけど、あの姿はよくおぼえている。


 あの幻妖は真昼間から街を襲う凶悪なやつなんだ。そんなやつらが上空に姿をあらわすなんて。


「もしかして、だれかが幻妖を呼んだのか?」


 恐る恐るつぶやいてみるが、セラフィは答えない。ものすごく深刻な悩みを隠している小学生みたいな、悲しみを押し殺すような顔をしているのはなぜだ。


「シャ、シャーロットさま! どうしたのですか!?」


 後ろからアビーさんの悲鳴が聞こえてきたのでふり返ると、寝台に横になっていたシャロが、エクレシアをもって起き上がっていた。


「イザード王が、危ない」

「いけません! シャーロットさま。容態がよくなるまで安静に――」

「ええい、離せアビー!」


 シャロはアビーさんの制止をふり切って寝台から飛び降りる。そして、


「あ、待てシャロ!」


 生地の薄い肌着の姿で、病室を飛び出してしまった。


 突然の出来事の連続で思考が追いつかない。走り去っていくシャロの後ろ姿を唖然と見送っていたが、


「アンドゥ! あたしたちも行こっ」


 セラフィに手をつかまれて、俺はなんとかわれに返った。



  * * *



 シャロはきっとテレンサのもとに向かったのだろう。そしてマリオの言葉によると、テレンサは王の間にいるらしい。


 なので俺とセラフィも廊下の階段を上がって王の間に向かっている。


 シャロはどうしてテレンサが危ないと判断したのだろうか。


 その前に、突如としてあらわれた、あの幻妖の群れの正体を考えるのが先だ。あいつらはどこからあらわれたんだ。いや、だれが呼び出したんだ。


 蛇の幻妖がエレオノーラを襲ったときは、プレヴラが呼び出していた。だが、当然ながらプレヴラは近くにいない。


 するとプレヴラの同等の力を持つ幻妖の仕業なのだろうか。そんな力を持った幻妖は、他にもたくさんいるのか?


 真っ先に考えられるとしたらグレンフェルの仕業だが、あの武術一辺倒の男が召喚術まで会得しているとは考えにくい。


 そうすると、やはりプレヴラみたいな幻妖を使役して幻妖たちを呼び寄せたのか?


「きゃあ!」

「なんだあの化け物たちは!?」


 二階の廊下はイザードの官吏やメイドさん方で混雑している。みんな空の異変に気づいてパニック状態だ。


 昨日のセイリオスの襲撃を凌ぐ大混乱だ。こんな異常事態になるなんて、だれが予想できたのだろうか。


「ちょっと、すみません。通してくだ――」


 ロング丈のメイドのお姉さんたちを掻き分けているときだった。後ろから突然ガラスの激しく割れる音が聞こえた。


 午後のコンビニにタンクローリーが突っ込んできたような、ものすごい衝突音だ。とてつもなく大きい質量でぶつからないと発せられない音だぞ。それ以前にここは二階だ。


 とんでもなく嫌な予感を感じながら、音のした方向を見やる。


 砕け散った窓ガラスの破片が廊下に散乱している。その上に、例の蛇に翼を生やした幻妖たちが重く圧しかかっていた。三体も。


 そいつらが長い首をゆらりと動かして俺たちを捕捉する。口からにょろにょろと出ている舌は、先が二つに割れていた。


「アンドゥ!」

「だめだ! あいつらにかまっていたらテレンサがやられちまう!」


 城に侵入してきた幻妖たちも討伐しなくてはいけないが、今はシャロを追うのが先だ。俺はセラフィの手を引っ張って、泣く泣くその場を後にした。

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