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第78話

 その後の尋問はなんの滞りもなく、非常にあっさりと進められた。


 グレンフェルに暗殺を依頼したのはキボンヌで、すべてこいつに命じられてやったことだと、エグリアが包み隠さずに白状したからだ。


 駄目元でかまをかけるつもりだったけど、まさかその通りだったなんて。聞いた俺が一番驚いてしまった。


 貴賓館の放火を命じたのもキボンヌで、混乱に乗じてテレンサを暗殺する手筈だったらしい。シャロや俺たちが予想以上にがんばっていたものだから、計画通りにいかなかったみたいだが。


 そういえばあの日、キボンヌは貴賓館にいなかった。体調不良か何かを理由にしていたけど、ただの偶然ではなかったのか。


 そして城内に侵入した方法だが、エグリアの証言によると、「食料の調達部隊の兵士に変装して城門を通過した」のだそうだ。


 キボンヌが指揮した食料調達部隊は城外でセイリオスの連中と入れ替わり、事前に買っておいた食料を荷台に積んで、何食わぬ顔で城門を潜り抜けたらしい。


 荷台をチェックしているのを俺も城門の上から見ていたけど、まったく気がつかなかった。グレンフェルもあのときに入ってきたらしいから、今思うとぞっとしてしまう。


 でも、そんなことをしたら城門の警備兵に気づかれてしまうはずだが、警備兵たちもみんなキボンヌに懐柔かいじゅうされていたらしいので、その人たちもグルだったのだ。


「わ! 私じゃない! その男の言っていることはすべてデタラメだっ!」


 キボンヌはミステリーの真犯人にありがちな台詞を吐きながら、別の部屋へと引きずられていく。四人の刑吏に両脇をしっかりと固められながら。


 あいつにはこれからきつい拷問が待っているのだろうが、数ある拷問器具のうちどれを使用されるのだろうか。なんてことを考えると吐き気を催してくるな。


「ギボンズ殿が黒幕だったのか」


 病室に戻って、シャロに一部始終を報告した。シャロは寝台で身体を起こして夜空を見ている。


「キボンヌが黒幕だっていうのは捕まえた野郎の証言で、キボンヌは完全に否認してるけどな」

「その男がわれらを撹乱するために証言をでっち上げたというのは、現状では捨てきれないが、男の証言とこれまでの出来事の辻褄がすべてぴたりと一致している。おそらく嘘ではないだろう」


 シャロは血の気の少ない顔で断言するが、その儀については俺も異論はない。


「でもひとつ合点がいっていないのは、テレンサを殺そうとした理由だが」

「理由? そんなものは簡単だ。王位の簒奪さんだつを企てていたからだ」


 王位の簒奪だと? また耳慣れない単語が出てきたぞ。


 シャロは俺の方に顔を戻すと、部屋をきょろきょろと見回す。人気ひとけがないのを確認すると俺を手招きして、「顔を近づけろ」と言った。


「ここだけの話だが、イザード王は臣下に見限られている」


 なにっ?


「昼食会や外で捜索しているときに、イザードの官吏たちが影で不満を漏らしているのを何度も見かけた。彼らは表面上は忠節を誓っているが、内実はかなりかけ離れているようだ」


 そうだったのか。だから王位の簒奪だと即座にわかったのか。


「パーティ会場が火事になったときに、ヒステリックに騒いでいたからな。人前で蹴られたりしたら、ふざけんなって思うよな」

「イザード王に対しては失礼だが、そういうことだ。それに、陛下はどうやら政治を省みず、いつも遊び呆けているそうなのだ。金の使い方も荒いようで、お陰でイザードの財政は火の車なのだそうだ」


 そんな逼迫した裏事情まで抱えていたのか。


「であるから、宮伯のギボンズ殿が頭を抱えるのも、なんら不思議ではないということだ。王位の簒奪さんだつに至るのは、いささか過激的ではあると思うが、イザード王に反意をもってしまうのは、致し方なかったということだ」


 シャロが少し言葉を選んでそう断言した。


 あの昼食会の裏で、そんな腹黒い計画が進行されていたなんて、考えてもいなかった。


 シャロの証言を裏付けるように、貴賓館で開かれたパーティは無駄に豪華だった。いやこの城も、前に宿泊していた客舎もそうだ。


 中世ヨーロッパの世界では貴族や王族の住居や食事なんて豪奢なのが当たり前だから、それほど違和感はなかったけど、冷静に考えると、それらは全部国民の血税で賄われているのだ。


 それを連日のくだらないパーティで浪費されたら、国民はたまったものじゃない。


 国庫が尽きれば、税を重くして対処しようとするのだ。そうなれば、たまりに溜まった不満は必ずどこかで爆発する。その放火地点が今回は城内だったというだけだ。


 そう考えると、キボンヌの行動はなんら不思議ではなかったのかもしれない。


「つまり敗因は、テレンサが無能だったということか」

「まあ、平たく言ってしまえば、そういうことだ」


 シャロが渋い抹茶を呑んだ直後みたいな顔をする。今回ばかりはテレンサを弁護できなかったようだ。


 あいつにはもううんざりするほど苦労させられているからな。大人なシャロですら付き合いきれないのだろう。


 それでも、黒幕のキボンヌが捕まったんだから、今回はこれで一件落着となるのだろうか。


 ひと昔前の勧善懲悪の時代劇であれば、仰々しく杖をついたじいさんが、部下とともに被害者の家に押し入って、最高のお礼を湯水のように浴びている頃合いかな。


 敵の猛攻を食い止めて、黒幕の正体まで暴いた。これですべて終わったんだ。だけど。


「なんか、釈然としないな」


 俺がつぶやくと、シャロが白い顔を向けてきた。


「なぜ、そう思うのだ?」

「なぜって言われても、理論的な根拠なんてないから、なんとなくだとしか答えようがないんだが」

「貴様もそう思うのか」

「シャロももそう思っているのか?」


 俺が逆に質問してみると、シャロは「実はわたしも――」と言ったところで口を閉じてしまった。


「いや、それはただの思い過ごしだ。気にするな」


 いや気にするだろ。どうしたんだ、一体。


「今日はもう遅い。貴様も自室に戻って静養するのだ。明日も怪我人の治療や事件の事後処理で忙しくなるだろうからな」


 シャロはそう言うと、薄い布団に包まって俺に背中を向けてしまった。早く帰れと言わんばかりに。


 シャロの様子は明らかにおかしかったが、それを質しても絶対に口を開いてくれないので、俺は病室を後にした。


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