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第75話

「お主のこともフィオスから聞いておるぞ。イリスの人間にあるまじき漆黒の髪と漆黒の瞳。名前はたしか、ユウマといったか」


 リーダーの男がマスクをはずして顔を惜しげもなく見せつける。


 火事のときも見たけど、やっぱり自動車会社の部長みたいな顔をしている。俺の親父よりも年上かもしれない。


「お主とそこにいる女剣士には気をつけろと、フィオスがしつこく言っておったからな。男のくせに心配しすぎなのだ。あの男は」


 黒い頭巾の中から見える眉毛は薄いピンク色だ。フィオスのことを呼び捨てにするくらいだから、やっぱりあいつの身内なんだ。


 というか、顔も似ているような気がするけど、もしかしてフィオスの父親なのか?


「貴様の目的はなんだ」


 シャロが横から問いかけると、あいつは「目的?」と眉根を寄せて、


「知れたことを。イザード王の殺害に決まっているだろう」


 少しも悪びれずに白状しやがった。


「前にパーティ会場に火をつけてやったときも、命を頂戴するとイザード王に言ったはずだが。お主は聞いていなかったのか?」

「なな、なんで貴様は、朕の、命を――」


 今度はテレンサが口をはさんできたが、びびりすぎだろあんた。王の間のときの威勢はどこにいったんだ。


 それでも男としてのプライドが許さなかったのか、逃げないでリーダーの男を睨んでいるのは、さすがだと言っておこう。


 けれどあいつは、テレンサのはるか上をいく、ゲームのラスボスみたいなオーラを全開させて言った。


「お主を殺害するようにと、ある男から依頼されているからだ」


 その発言に俺とシャロも思わず凍りついた。


 敵である俺たちにはっきりと断言したが、その言葉は信用してもいいのか? 順当に考えれば、俺たちを撹乱させるための欺瞞である可能性が高いが。


 それに、もし依頼されているとしたら、一体だれから? なんの目的のために?


 さっそく俺の頭が無駄に回転しだしたが、これではあいつの思う壺じゃないか。


「その言葉、嘘ではなかろうな」


 用心深いシャロがすかさず詰問する。


「われの言っていることが嘘かどうかは、じきにわかるだろう。だが、そんなことは別にどうでもいいことだ」

「それはどういう意味だ」

「わからんのかね」


 シャロが腰を落として身構えるが、やつは少しも動じない。


「われにとって、王の殺害などはただの余興にすぎんということだ。子どもの遊びに向きになっても仕方なかろう」


 テレンサの殺害が子どもの遊びだと? さっきから何を言ってるんだ。意味がまったくわからない。


「じきにお主ら全員の命を奪うのだから、ひとりの人間にこだわってなんになる? われはお主らよりも強欲でわがままなのだ」


 信じられねえ。こいつ、頭がイカれてるんじゃないのか。


 じきに俺たち全員を殺すって、そんなことを真顔で言うのかよ。マフィアとかが出てくる映画の見すぎとしか思えないぜ。


 でも、フィオスもそうだった。あいつも何もためらわずにアビーさんを串刺しにしたり、禁衛師団の人たちをことごとく斬り殺したんだ。人を人と思わない、真の魔王のような狂気で。


 フィオスは、こんなあからさまで強引な手段では仕掛けてこなかった。単独で行動していたせいかもしれないけど、あいつはもっと慎重に行動していた。


 それでも、やっていることは結局同じだ。こいつらはどうしてこんな猟奇的殺人を平然とこなすことができるんだ。俺には絶対に理解できない。


「少々しゃべりすぎたか」


 リーダーの男が顔をしかめて身構える。両手のカットラスを瞬時に持ちなおしてシャロに襲いかかる。


 エクレシアの薄色の鞘と二本のカットラスが、がきんと音を立てて交差する。


「そろそろ追っ手が来るころだ。王の殺害は不可能だろうが、お主の腕の一本くらいはもらっていくぞ」

「なめるな!」


 シャロが素早く抜刀して斬りかかるが、あいつは即座に後退して攻撃をかわした。


 その一撃を皮切りにシャロのものすごい反撃がはじまった。天穹印の間でフィオスを圧倒した、抜刀術と体術の神速コンボを繰り出してあいつを追いつめていく。


 あいつは何気に攻撃をすべてかわしているが、反撃の隙を与えてもらえずに舌打ちしている。さっきから防戦一方だ。


 シャロはやっぱりすごいな。香港映画の名俳優よりも、お前の方が全然――。


「貴様も援護しろ!」


 シャロに怒鳴られて俺はわれに返った。あまりのすごさについ見とれてしまった。


 俺がつかえる術は電撃を飛ばす術と、縄で相手を縛る術だ。だが電撃の術法はあっさりとかわされてしまった。


 それに電撃で攻撃したらシャロを巻きこんでしまうかもしれない。


 なのでもう一方の縄の術法でシャロを援護だ。刻印術の紙を放り投げると、三本の縄が男のまわりに出現した。


 だが、


「そのような術では、われの動きは止められぬ」


 あいつはすました顔で言い放つと、両手のカットラスで縄をばっさりと斬ってしまった。


 だが、そうなるのは想定内だ。だから休まずに攻撃だ!


「まだまだっ!」


 俺は半分自棄になって縄の術法を行使する。枚数的にはあと三回しかつかえないが、そんなことは気にしなくていい。


 俺の攻撃はただの囮だ。あいつが俺の攻撃に気をとられている隙にシャロが渾身の一撃で仕留めるのだから。


 あいつは俺の予定通りにすべての縄を丁寧に剣で斬る。その一瞬の隙を突いてシャロが接近する。エクレシアを鞘にしっかりと納めた状態で。


 シャロとあいつの距離は、人がひとり入れるくらいしかない。俺の陽動作戦は成功したのだ。


「は!」


 シャロが確然とした体勢で抜刀する。寸分の迷いもなくふり切られた白刃は、男のぶ厚い胸板を右斜めに斬り上げる。ぶしゅっという鈍い音を出して。


 だがあいつも攻撃を予知していたのか、シャロの攻撃とほぼ同時に、右手のカットラスを頭上にかかげていた。それを隼が滑空するような速さでふり降ろす。


 サバイバルナイフのような鋭利な刃が、シャロの左の肩に食いこむ。あいつの袈裟斬りもシャロの白い肩に、入ってしまった。


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