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第67話

 昨日の事件は、死者十数名を出した上に貴賓館が全焼するという大惨事となってしまった。


 セラフィやシャロが無事だったのはよかったけど、両国の友好に影を落とすことになった。


 俺たちを襲ったあの全身黒ずくめの連中は、セイリオスのメンバーで間違いないらしい。討伐隊のおっさん(名前はミルドレッドさんだ)が証言したのだから、もはや疑いようがない。


「あいつらはなんで俺たちを襲撃したんだ? バラクロフに潜伏しているのは知っていたけど、それはエレオノーラの追っ手から逃げるためじゃなかったのか?」


 そう切り出してみると、壁にもたれているシャロが腕組みして言った。


「われわれもそうだと思っていたが、それにしては昨日の犯行が計画的すぎる。やつらは貴賓館で会合が開かれることを知っていて、そのタイミングに合わせてきたのではなかろうか」

「マジかよ。じゃあなんだ、あいつらが俺たちの行動を把握していたっていうのか? そんなのありえないぜ」

「貴様の言も最もだと思うが」


 今は客舎を離れて、イザードの城内に避難している。城門を堅く閉ざしていればテロリストの侵入を阻止できるから、昨日から急いで避難したのだ。


 セラフィやアビーさんはもちろんのこと、テレンサやマリオも城内に引きこもっている。あんなことがあった後だから、外交どころではなくなってしまったけど。


 そして俺たちは一階の薄暗い一室で、討伐隊のミルドレッドさんと共に昨日の事件を検証しているところだ。


 シャロが言いよどんでいると、「いえ」と椅子に座っているミルドレッドさんが口を挟んできた。


「会合のことは外部にだだ漏れだったようです。此度の外交と無関係であったわれわれの耳にも届いていたくらいですから、セイリオスの連中が知っていてもなんらおかしくありません」

「えっ、そうなんですか?」

「ええ。イザード王がむしろ諸外国に自慢していたそうです。あのエレオノーラがわれらに譲歩したと。ディオスクラの諸国と国民に、それはもう声を大にして」


 おいおい。どこまで呑気なんだよ、あの軍事評論家は。無意味な自慢ばっかりしていないで、情報漏洩に対するリスクを少しは考えろよ。


 ここまで頭が悪いと、もうため息しか出ないな。


 俺の呆れ果てた顔を見て、ミルドレッドさんがこほんと咳払いをする。


「シャーロット殿の意見には私も同意します。あの日、貴賓館のまわりには枯れ木が積まれていて、さらに油まで撒かれていたそうですから、あの火事が偶発でないことは明白です」


 つまり、炎と突撃による二重の犯行だったのか。そんなとんでもないことが知らない間に計画されていたなんて、今に思い返すとぞっとしてくるな。


「それにしても、やつらの犯行理由がわかりかねます。そのあたりについて、ミルドレッド殿は何かおわかりになりますか」


 シャロが尋ねると、ミルドレッドさんが巨躯を丸めて考え出した。


「申し訳ありませんが、まるで検討がつきません。本音を言えば、私もアンドゥ殿と同じで、やつらはイザードに逃げ込んだものだと思っていましたので」

「そうですか。やつらのリーダー格と思わしき男は、イザード王のお命を狙っていたように見受けられましたが、そちらについてはわかりますか」

「いいえ。わかりかねます」


 リーダー格というのは、ピンク髪のあの男だ。シャロと互角にわたりあえるくらいだから、ものすごくレベルの高い人なのだろうが。


 でもそれ以上に気にかかるのは、あの髪の色だ。思い返してみると、顔つきもどことなくフィオスに似ているような気がする。


 あいつは何者なのだろうか。そしてフィオスとの関係は。


 フィオスの父親か? それともセイリオスのトップなのか?


 あいつの正体が気になって仕方がないが、他に情報がないので答えを導き出すことができない。


 そんなやつらがなんの前触れもなくパーティ会場に侵入してきて、しかもその犯行が計画的なんだぞ。意味がわからなすぎて頭から熱が出てしまいそうだ。


 今のところ一番情報をもっていそうなのはミルドレッドさんだが、さっきから怖い顔で閉口しているからな。これは難航しそうだ。


 でも実は、あいつらの狙いについて思い当たる節がないわけではない。


 あいつらはイザードの天穹印を狙っているのではないか。


 ピンク髪のあいつはセイリオスのメンバーで、きっとフィオスの身内だ。ならばフィオスと同じく天穹印の破壊を企てているのではなかろうか。


 天穹印は大陸を浮かせる最重要装置で、各国の最下層にそれぞれ配置されているはずだから、イザードにも天穹印はあるはずだ。


 そしてフィオスのやり口から推察して、天穹印の破壊の前段階として貴賓館を襲撃したのではないだろうか。


 自分で考えていてさっそく矛盾に気づいてしまった。天穹印の破壊と貴賓館の襲撃を結びつけるのは、かなり無理があるんじゃないか。


 貴賓館の真下に天穹印があるのなら、この矛盾もあっさり片付くのだが。


 俺の頭ではそれ以上の推論を導き出すことができないので、とりあえずシャロに伝えてみよう。


 俺は退室するシャロをつかまえて、俺なりの考えを伝えてみた。するとシャロは考える人みたいに顎に手をあてて、


「天穹印の破壊、か。あり得ない話じゃないな」


 だろ? 絶対に関係してるぜ。


「でも貴様の言うとおり、先日の貴賓館の襲撃と結びつけるのが難しいな。イザード王が王家の証を持ち歩いているというのなら、わからない話ではないが」


 そうなんだ。だから考えが広げられずに困っているんだ。


「リーダー格の男がフィオスの近親者であるというのは、わたしも同意しよう。だが、それ以上に気になっていることがあるのだ」

「気になっていること?」


 それとなく促してみると、シャロが顔を背けて腕組みした。


「リーダー格のあの男は貴賓館に侵入して、真っ先にイザード王のお命を狙った。その姿がずっと脳裏からはなれないのだ」


 そういえば、さっきもミルドレッドさんに聞いていたな。でもそれが今回のことに深く関わっているのだろうか。


「天穹印の破壊を企てているのなら、イザード王を狙う理由がわからなくなる。王家の証も天穹印の間も城内にあるのだから、貴賓館を襲撃するのはリスクがあがるだけで、彼らにとってメリットは少ないはずなのだ」


 それはそうだ。あんな派手な襲撃をしたら、自分たちの存在を無駄にアピールするだけで、隠密行動がとりづらくなるはずだ。


 そもそもあいつらは討伐隊に追われていたんだから、自分たちの存在をむざむざと知らせるはずがないんだ。


 まずい。また考えていくうちにわけがわからなくなってきた。


 フィオスと天穹印が絡むと、なんで展開がややこしくなるんだ。無駄な相乗効果なんてもたらさなくていいっていうのに。


「まあとにかく」


 シャロがこほんと咳払いして、


「天穹印の破壊については、明日みょうにちにイザード王に奏上しよう。その際に詳しい事情の説明をもとめられるかもしれないから、貴様も立ち会うのだぞ」

「おう」


 思わぬ大抜擢に緊張が全身を突き抜けた。


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