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天空の刻印師  作者: 夏坂ひなた(旧:二条 遙)
清白の麗人 異国の累卵
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第56話

 明くる日の朝。王子との面会の日。


 昨日は結局一時すぎまで起きていたから、朝は盛大に寝坊してしまった。


 朝食の時間は八時半までなので、その時間に間に合わなければ、朝食は抜きだ。一階のレストランに着いたころには八時四十分をすぎていたので、俺の朝飯はもうない。


「寝坊してくるやつが悪い」


 レストランの戸口でシャロに通せんぼされるのはかまわない。時間に遅れてきた俺が悪いんだから。


「なら聞くが、お前の後ろで朝飯を食べているあいつは、あれはどこの国の王女だ?」


 あいつはしかも俺より五分以上も遅刻してきたんだぞ。


 頭にきたので真っ向から言い返してやると、シャロは決まりの悪そうな顔で、


「セラフィーナ様は……き、貴様とは、身分が違うのだから、いいのだ! 返しづらいことをまっすぐに突っ込むな!」


 なら俺にも朝飯を食わせろよ。


 ここでしつこく物言いをしても朝食はとらせてもらえないな。俺は胃液の分泌されまくっている腹をおさえて、昼食まで我慢するしかないようだ。


 王子との面会は昼に行われるらしい。その後で盛大な昼食会が開かれるようだ。


 昼食会では、どんなに豪華な料理が運ばれてくるのだろうか。


 イザードも中世ヨーロッパ風な国だから、高級フレンチみたいな、キャビアやフォアグラなどがテーブルにならぶのか? ちょっと想像しただけで腹が早速鳴ってきたぜ。


 何せ両国の代表が顔を合わせる盛大なイベントだから、わけのわからない虫の料理で特使の期待を裏切るはずはない。


 アビーさんがちょうどそばを通りかかったから、ひとつ聞いてみよう。


「昼食、ですか?」


 アビーさんは食器を片づける手を止めて、俺の方を見ている。朝っぱらから仕事なんて、大変だな。


「わたしは話を伺っていませんので、くわしいことはわかりません。でも、きっとおいしいお料理がご用意されていると思いますよ」


 そうだよな。やっぱり高級フレンチのハンバーグステーキや、高級魚のなんとかを添えて、みたいな料理なんだろうな。そんな超高級料理をアビーさんといっしょに食べたら、さぞかしおいしいことだろうな。


「アビーさんも、今のうちに腹を空かせておいた方がいいんじゃないか」

「あの、召し使いは昼食会に同席できませんので、その……ご主人さまだけで楽しんできてください」

「えっ、そうなの?」


 アビーさんは参加できないのか。


 官吏が参加できるのに、召し使いはなんで参加できないんだ。


 まさか、イザードの連中は身分で差別しているのか? なんてうつわの狭いやつらだ。


 俺が悪態をついて舌打ちすると、アビーさんが口に手をあてて苦笑した。


「わたしたちは下働きしかできない下女ですから、王様や貴族の方と同じ席でお食事なんて、そんなおそれ多いことはできません」


 そうなのか。イリスの世界は中世の古い身分制度が社会の中心になっているから、身分で差別されるのがむしろ普通なのか。


 国民主権の申し子たる俺には理解できない感覚だ。


「ですから、ご主人さまはセラフィーナ様とごいっしょに、昼食会を楽しんできてください」


 アビーさんは控えめな笑顔でほほ笑んでくれたけど、その後ろ姿は少し寂しそうだった。



  * * *



「それでは、エレオノーラのみなさま。貴賓館の方へ案内いたします」


 十時ごろになんたら伯のキボンヌがやってきて、外に停めてあった車に案内する。イザード王らと面会する貴賓館というのは、車で向かった先にあるらしい。


 面会まで少し時間があるので、情報を先に整理しておこう。


 今日の面会ではイザード王と、マリオことマリオット王子の親子が登場するらしい。


 イザード王の名は、カール・テレンサ・リ・スターリング。あたまについてる名前は、先祖から代々受け継がれる御名らしいので、テレンサが当人独自の名前にあたるらしい。


 どこかの軍事評論家に名前が似ているようだが、それはきっと気のせいだ。


 テレンサ・リーの年齢は五十二。風采は昔のロールプレイングゲームの王様みたいな、白髪交じりの頭に白い髭を生やした、いかにもな感じの人であるらしい。


 そして、マリオ。


 フルネームはたしか、カール・マリオット・リ・スターリング。パーソナルデータは前に聞いたとおりの超イケメンらしいが、実際はどうなのだろうか。


 野郎がイケメンだという情報は、全部イザードからもたらされたものだから、鵜呑みにするのは危ない。


 さらに追加情報だが、マリオには二歳年下の弟がいるらしい。そいつの名前は、ルイーザ。……もうなんていうか、狙っているとしか思えないぞ。


 そこまでやるんだったら、父親の名前をカルビクッパあたりにしておけばある意味で統一感がとれていたのに、中途半端なやつらだ。


 俺がニヒルな笑いを浮かべていると、車がゆるやかに停止した。どうやら貴賓館についたようだ。


「こちらになります」


 キボンヌが日本の腰の低いサラリーマンみたいな声で館内を案内する。袖は今日もだぼだぼだ。あの着こなしはあれで本当に正しいのか?


 イザードの外交官たちの後を、エレオノーラの特使たちがセラフィを筆頭についていく。俺は最後尾、一団の殿しんがりだ。


 さあ、マリオは一体どんなやつなんだ? 髭面か? 鼻が高くてやっぱり髭面なのか?


 俺は内心わくわくしながら、案内された大広間のような部屋の隅から、マリオの顔をのぞいてみた。


 政治家の首脳会議などが行われそうな部屋に置かれているのは、細長いひとつのテーブルだった。それが部屋の真ん中をふたつに分断している。


 そのテーブルの向こう側――扉の方にいる俺たちの向かいの席に、イザードの官吏たちが雁首がんくびをそろえて座っていた。みんな重そうな口を閉ざして、俺たちに敵意を含んだ視線を送ってくる。


 テーブルの真ん中には白髪のおっさんが偉そうに座っている。あれがきっとイザード王のテレンサだ。


 頭には金ぴかの王冠をつけて、テーブルにまで届く髭をそよがせているが、王冠を現実でつけている人は初めて見るぞ。


 テレンサの左右にいるのは、小太りの、いかにもいいものを食って育ってきましたという感じの坊ちゃんだった。


 マリオはこの中にはいないのか?


 風評によると、マリオは身分、ルックス、才能を兼ねそろえた超イケメンであるはずだが、そんな小憎らしい男はどこにもいない。


 茸を食べたら大きくなりそうな髭の人も、当然ながら見当たらない。いるのは胡散臭い王様と、無駄に油がのっているだけの仔豚が二匹――。


 これは、もしや……。


「紹介いたします。あちらにおすのが、国王テレンサです。そして、向かって左側に座っておられるのがマリオット王太子殿下。右側におられるのが弟君のルイーザ王子殿下でございます」


 キボンヌが手で差しながら、丁寧に教えてくれる。


 ええと、衝撃的すぎて頭が真っ白になるが……。


 どういうことなのか、とりあえず説明してもらおうか。

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