表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/119

第41話

 紅蓮の騎士が疾駆する。


 焔の槍を床に突き刺した瞬間、プラスチック爆弾が爆発したような衝撃が起きて、俺たちは逃げるように散開した。


 騎士の攻撃は相変わらず苛烈だ、重たい槍を振り回しつづけているのに、疲れを知らないのか。


 刻印術の紙をにぎりつぶして、あいつに放り投げた。


 紙は空中でふわりと消えて、真空の刃に変化する。あいつの鉄仮面に飛びかかった。


 こういうこともあろうかと、前にセラフィから習っておいた真空波の術法だ。


 だが騎士は、高速で飛びかかる真空波を即座に察知して、馬上で身体をひねらせてかわした。


 防御の方も抜かりなしかよ。だが、そのくらいの結果は想定の範囲内だ。


 それなら、お前がダメージを受けるまで、何度でも攻撃してやるぜ!


「これでもくらえ!」


 真空波の刻印を何枚もばら撒いて、胸の前で両手を合わせる。


 精神を集中させると、紙のすべてが巨大な真空波に変化して、真空波の雨が騎士にふり注がれた。


 この攻撃は、さすがに避けきれないな。騎士はわずかに怯んでいる。


 真空波の攻撃が止んだところで、シャロとフィオスの出番だ。ふたりが剣をかまえて、左右から挟みこむように騎士を攻撃する。


 このふたりは、すごい。即席コンビとは思えない波状攻撃で、騎士の勢いをみごとに止めちまいやがった。


「そこ!」


 シャロの渾身の居合い抜きが騎士の左腕を斬り抜く。騎士の左腕が一瞬で切断されて、甲冑で覆われた肩から下の部分が宙を舞う。


「まだです!」


 今度はフィオスの声だ。あいつは素早く後退すると、ポケットから数枚の紙をとり出して、優雅に放り投げた。


 紙は空中でぴたりと制止して、魔法陣のような刻印を浮かび上がらせる。


 なんだあれは。新種の刻印術なのか?


 魔法陣の中から灰色の狼のような生物が姿をあらわす。


 三匹の狼、いや、あれはきっと幻妖だ。フィオスが行使したのは召喚術なのか。


 飢えた狼の幻妖たちが飛びかかる。騎士が馬から転げ落とされて、二匹の狼が騎士に襲いかかった。残りの一匹は馬の喉元に食らいついた。


 馬は激痛に喘いでいるのか、肢をばたつかせている。


 一方の騎士は、わりと冷静だ。片腕で槍をふりまわして、狼たちを追い払っている。


「なかなか、やられませんね」


 フィオスが悄然とつぶやく。シャロも呆れるように言った。


「片腕を落としてやったというのに、あやつは苦悶するどころか、悲鳴ひとつ上げないぞ。あやつの身体はどうなっているのだ」

「たしかに妙です。まさかと思いますが、あれは人ではないのでは」

「そんなばかな」


 顎に手をあてて思案するフィオスに対して、シャロがかぶりをふる。


「赤い全身鎧を着て、槍を使いこなしているあの者が、人でないはずがなかろう」

「だから妙なのです。あれの外見は人間そのものですが、人間ならば腕を斬り落とされたら悲鳴を上げるでしょう。それなのに、シャーロット殿の言う通り、あれは悲鳴ひとつあげていません。明らかに不自然です」


 フィオスの見解は相変わらず理論的だが、ひとつ大事なことが抜け落ちている。


「それに、あれのあらわれ方も妙でした。あれは光の刻印から召喚されたように、忽然と姿をあらわしました。ですからあれは、幻妖なのではないかと推測します」

「天穹印が幻妖を召喚するのか? それに、たとえ幻妖だったとしても、腕を斬り落とされたら苦悶するのではないのか?」

「そうですね。では、幻妖でもないと」


 博識なフィオスが返答に窮している。きっと化生のことを知らないんだな。


「違う。あれは化生だ」


 俺がため息混じりに言うと、ふたりが同時にふり向いた。


「化生だと?」


 シャロが、いかにも不機嫌そうに眉間にしわを寄せて、


「化生というのは、セラフィーナ様が得意とされておられる、化生術で生み出される化生のことか?

 化生なら、わたしも拝見させていただいたことがあるが、あんな鎧を着た化生は一匹たりとも見たことはないぞ」

「そんなことを言われたって、知らねえよ。化生にもいろんなやつがいるんだろ?」

「そんな不確かな情報でわれわれに意見するのか? 貴様の戯言たわごとはほとほと聞き飽きたわ」

「なんだとっ!」


 このくそ女っ、言わせておけば――。


「待ってください。ユウマ殿がおっしゃっていることは、正しいかもしれません」


 フィオスの言葉が俺たちを遮った。フィオスが余裕の笑みを止めて、


「化生は意志を持たない、疑似的な生体兵器です。以前にですが、その種類は無数に存在すると聞いたことがあります」


 真剣そうに腕組みして言葉をつづける。


「生体、兵器?」

「そうです。化生は獣や幻妖に似ていますが、生物ではありません。土や水から生成される人形なのです。

 故に剣で斬られても死滅することはありません。種類もたくさんあるのですから、人型の化生も存在するのかもしれません」


 思いつきで化生だと言ったのに、とんでもない話になってきたぞ。


「化生はしかも怖ろしく強靭で、また主人の命令を忠実に守ります。よって、疑似的な生体兵器として戦争でつかわれるのです」


 向こうのフロアで、紅蓮の騎士がむくりと起き上がった。一瞬で緊張が走る。


 シャロが身構えたまま口を開く。


「では、どうやってあやつをたおせばよいのだ。生体兵器とやらでも、不死身ではないのであろう?」

「それはきっと、ユウマ殿がよい知恵を持っているはずです」


 フィオスが言い終わる前に騎士が突撃してきた。片腕で軽々と持ち上げた槍を床に突き刺す。


 こいつの身体は、マジでどうなってるんだよ! 疲れも痛みも知らないなんて、チートにもほどがあるだろっ。


「前にセラフィに見せてもらったんだが、化生はどうやら化生卵をつかっ――」


 ちょっと待て。話をしている最中に攻撃してくるな!


 ゲームやマンガのルールでは、大事な会話をしている最中に攻撃をしてはいけないんだぞ!


「いいから話をつづけろ!」


 シャロが苛立って、後ろから声を荒げる。


 フィオスがあいつの攻撃を防いでくれている間に、俺は騎士から離れた。


「化生は、創出フロイ熄滅ニフタを繰り返して運用するんだ。だから、きっと、あいつの核である化生卵に熄滅ニフタと唱えれば、あいつは化生卵に戻るはずだっ」


 セラフィが高速ジェット機のラウルをつくり出したとき、熄滅ニフタと呪文を唱えてラウルを化生卵に戻していた。


 あの騎士が化生なのであれば、同じ方法で熄滅させることができるはずだ。


 しかし、そのためには、あいつの心臓部分にあると思われる核に触れなければならない。


 焔を無感情でまき散らしているような強敵に近づくなんて、自殺行為だ。そんなこと、俺にできるのか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ