表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/119

第4話

 セフィロトエプロンのおじさんたちが、り足で俺に近づいてくる。腰を落として、古流剣術を披露しようという体勢で。


 シャロさんが右手を出しておっさんたちを制しているけど、シャロさんから放たれる殺気も尋常ではない。いや、あんたの目が一番怖いっす。


「シャロ待って!」


 セラフィが耐え切れずに起き上がって、俺の前に立ちはだかる。両腕を左右に広げて、全身で俺をかばいながら、


「アンドゥは悪い幻妖じゃないの。だから、怖いことはしないで!」


 嬉しい。セラフィの心意気はすごく嬉しい。


 だが、お前はまだ勘違いしているぞ。しつこくなるが、俺はただの人間だからな。ここ、かなり重要だぞ。


 セラフィの真っ直ぐな態度に、シャロさんもため息をついて、


「わかりました。それでしたら、その幻妖には危害をくわえないように、禁衛師士きんえいししたちに言い含めておきましょう」

「ほんとっ!? じゃあ――」

「しかし、幻妖に王宮の中を徘徊はいかいされたら、陛下がご心配なさります。ですから、その幻妖はわたしの方で地下牢に放り込んでおきます」

「ええっ!? そんなのだめだよ!」


 セラフィがシャロの袖をつかんで、駄々っ子みたいに強く引っ張る。


 シャロさんが静かに目をつむって、


「陛下の心情をお察しください。陛下はあなた様に、清楚で慎ましい女性になっていただきたいと思っているのです。それなのに、このことが陛下に見つかったら――」


 変なタイミングで言葉を止めるなよ。


「その幻妖に無慈悲な罰を下されるかもしれません」


 無慈悲な罰ってなんだ。ものすごく引っかかるぞ。


 セラフィはシャロの脅迫を真に受けてしまったのか、「うん」としょげてしまい、道をすぐに開けてしまった。


「その幻妖を牢に連れていけ!」


 シャロが盛大に言い放つと、後ろのセフィロトエプロンのおじさんたち、いや、禁衛師士というのか。おじさんたちが忍者のように近づいてくる。


 両脇からがっしりとつかまれると、もう全然抵抗できねえ。


 このままだと、牢屋に連れていかれてしまう。それだけはなんとしても回避しなければ。


「ま、待ってくれっ」


 全身の力をふり絞って、シャロに言った。


「あんたらは、何か勘違いをしてるのかもしれないけど、お、俺は! 幻妖とかいうモンスターの類じゃない。ただの人間だ! だから、その、牢屋に連れていくのは勘弁してくれ」


 背中を向けていたシャロが、役者のような仰々しい動きで俺にふり返る。少し吊り上った目でにらみつけてきた。


 近くで見ると、ぞくりとするほどきれいな顔立ちだ。薄く化粧された顔は花のように白くて、鼻はアメリカ人みたいに高い。


 青みがかった瞳は青空のような透き通った色で、見つめていると意識が奪われてしまいそうだ。


「見たところ、普通の人間のようだが、幻妖には人に化けるものや人型のものもいる。セラフィーナ様の召喚術で呼び出されたことも考慮すると、貴様のその言葉は信用できない」


 実にごもっともな意見で。


「そうなのかもしれないけど、俺はれっきとした人間だ。モンスターなんかじゃない」


 まっすぐに睨み返すと、シャロはさらに目を細めて、


「その髪、だれかに言われて染めたのか?」


 そう聞いてきた。


「なんで、そんなことを聞く必要がある?」

「暗殺家業に身を置く者は、夜に紛れるために髪を黒く染め、全身を黒い格好で覆い隠すという。だが黒は奈落――悪の象徴。普通の人間は髪を黒く染めたりはしない」


 よくわからないが、また妙なことを言い出したぞ。


「その目もそうだ。イリスで黒い瞳を持つ人間なんて、絶対に存在しない。いるとすれば、それは幻妖でしかありえない」

「そんなこと言われても、目も髪も自前なんだけど」

「そんなはずはない!」


 シャロが大声を出して全力で否定した。


「イリスに貴様のような人間はいないっ。貴様はわたしに喧嘩を売っているのか?」


 喧嘩を売っているのはお前だろ。


「よくわからないが、黒目黒髪の人間を化け物だと定義すると、日本人の八割以上を敵にまわすことになるけど、お前はそれでいいのか?」

「にほっ!? 貴様はさっきから何を言っているのだ」


 お前も日本を知らないのかよ。


 こいつらは何人なにじんなんだよ。あ、エレオノーラ人か。


「貴様の言っていることは支離滅裂だ。意味がよくわからん」


 俺もお前の言ってることはわかんねえよ。


 もうだめだ。それでも、思いつくかぎりの意見を出して反論してみたが、シャロはとり合ってくれなかった。


 終いには剣の柄を俺の腹にあてて、


「セラフィーナ様のお部屋で血腥ちなまぐさいことはしたくない。貴様もそう思っているのなら、黙ってわたしについてきてもらいたいのだが」


 俺の異世界ライフ、わずか五分で終了かよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ