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第38話

 シャロとフィオスが戦闘態勢をとったまま、ぴたりと制止する。美術館の彫刻みたいに、その白い肌を俺に見せながら。


 フィオスは右手を前に向けて、いつものうすら笑いを止めている。シャロも腰を落として、鞘に収めたエクレシアをじっとにぎりしめていた。


 相手の出方を伺っているんだ。


 フロアが静まり返って、得も言われぬプレッシャーがあたりを支配している。生唾を呑んだら聞こえるんじゃないかと思えるくらいに静かだ。


 すごい集中力だ。ふたりとも。


 はたから眺めている俺たちが先に参ってしまうくらい、シャロとフィオスは神経を研ぎ澄ましている。これが実力者同士の対決なのか。


 俺みたいな半端者が手を出す隙は微塵もない。


 シャロを邪魔するわけにはいかないから、もう少し後ろに下がろう。そう思って足を動かすと、


「貴様はわたしを援護しろ」


 シャロが態勢を変えずに言った。


 その声を合図にフィオスが飛び込んできた。剣をふり上げてシャロの頭上を狙う。


 ふり降ろされた瞬間、シャロは身体をわずかに左に移動させて斬撃をかわした。だがフィオスもそれを予見してたのか、手首を返して剣を素早く払う。


 フィオスがしつこく追撃しているけど、シャロは上半身だけを器用にくねらせて、すべてかわしている。剣は鞘に収めたままだ。


 シャロは、やっぱりすごい。


 斬撃をことごとくかわされてフィオスは堪えきれなくなったのか、大きく踏みこんで剣を払う。それもシャロは冷静にかわす。


 フィオスは剣の重みと遠心力に負けて、わずかだけど身体のバランスをくずした。


「は!」


 シャロが高声を発して抜刀する。刹那せつなというまさに一瞬の速さでエクレシアの刀身があらわれて、フィオスの腕を斬りつける。


 フィオスは後退するが、攻勢に転じたシャロがしつこく追いまわす。シャロは踊るように身体を旋回させながら、超高速の抜刀術を繰り出している。


 ときに蹴りなどの体術も踏まえて、鮮やかな連続コンボがフィオスに炸裂する。


 すげえ。さっきも言った気がするけど、やっぱりすげえよこの人は。


 シャロは名実ともに最強の剣士だったんだな。だってフィオスはついさっき、禁衛師士の人たちをまとめて相手してたんだぞ。


 そんなやつが手も足も出ないなんて、すごすぎて言葉が出なかった。


「やはり剣ではとても敵いませんね」


 シャロから大分離れたところで、フィオスが降参するようにつぶやく。


 だが、シャロはエクレシアをしまってフィオスをめつけた。


「嘘をつけ。貴様のその顔は、手の内はまだ見せていませんと言いたげだぞ」

「おや、そうでしたか」


 フィオスは剣を持ったまま肩をすくめる。あんな太々しい態度をとれるんだから、まだ全然余裕そうだ。


「腕が立つ上に用心深く、そして頭の回転も早い。……すばらしい。シャーロット殿はうわさに違わぬ聡明なお方です」

「何が言いたい?」

「いえ別に、思っていることを口にしてみたかっただけですよ。深い意味はありませんで、ご安心を。ユウマ殿にも先ほど伝えたのですが、私は敵味方に関係なく、有能な人間が好きなんですよ」

「わたしをこんなへっぴり腰と一緒にするな」


 痛いところを突かれてしまった。


 いつもだったらすかさず反撃してやるところだが、さっきのあの体たらくを見られた後では何も言い返せないな。


「ですが、あなたはアラゾン人。いくら有能だとはいえ、仇敵を組織に入れるわけには参りません」

「アラゾン? なんだそれは」


 博識なシャロが眉をひそめる。シャロも知らない単語なのか。


「ご託はいい。戦う気がないのなら、大人しく刑吏の縄にかかれ」


 シャロはフィオスの言葉をひと言で吐き捨てて身構える。いよいよフィオスに止めを刺すつもりだ。


 けれどフィオスはいつもの調子であざ笑って、なぜか剣の腹を向けてきた。


「実はこの剣、正式名称を魔剣ディナードといいまして、ちょっと変わった力を秘めているんですよ」

「なにっ?」

「それを今からお見せいたしましょう」


 そう言ってフィオスは正面から突撃してきた。妙な名がついていた剣を掲げて、さっきと同じように上段から斬りかかってくる。


 特筆することのない斬撃をシャロは丁寧にかわす。右手を柄にあてて、今すぐにでも反撃できる態勢だ。


 攻撃になんの変哲もないが、さっきの言葉は苦しまぎれのブラフだったのか? 剣先からレーザーでも放ってくるのかと思って、少し期待していたのだが。


 けれど、なんだろうか。この地べたから這いずり回ってくる嫌悪感は。


 フィオスの体内から、空間を包み込んでしまうほどの殺気が放たれているような気がする。その陰惨な力が暗黒の魔剣に宿り、剣の力を倍加させているんじゃないか。


 しつこく斬りかかっていたフィオスが、下段にかまえて大きく斬りあげる。かなりの大振りだったので、直後に大きな隙が生まれた。


 すかさずシャロが抜刀する――そのときだった。フィオスから放たれる並々ならぬ殺意が最高潮に達した。


「逃げろシャロ!」

「なんだとっ!?」


 俺の声にシャロが反射的に手を止める。その目の前で、フィオスが左手の指を立てて、剣の前に刻印を描いた。


「至大化せよっ」


 発声の直後、ディナードから漆黒のオーラが四方に放たれた。剣はオーラに包まれて姿が見えなくなる。


 なんだ、これは。これから一体何が起きるんだ?


 まさか、フィオスの言っていた、ちょっと変わった力というのは、このオーラのことなのか? オーラで攻撃するつもりなのか。


 だが俺の予想を裏切ってオーラはすぐに収縮をはじめた。わずかに電気を発しながら少しずつ容積を縮めていったが。


 その内側から、とんでもないものがあらわれた。


 巨大化していたのだ。魔剣ディナードが、槍みたいに長大な両手剣となって――。


「さらばです」


 オーラに気をとられていたシャロにフィオスが襲いかかる。


「シャロォ!」


 ディナードの大斧のような刃がふり降ろされる。俺は人目も気にせずに叫んでしまった。


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