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第27話

 しばらくして官吏の人がやってきて、プレヴラをまたもっていってしまった。


 プレヴラがいなくなると、部屋にセラフィとふたりっきりになってしまう。


 しかし、こんなことはもう日常茶飯事だから、ふたりでいても全然緊張しない。相手がアビーさんだったら、緊張するのかもしれないが。


 セラフィの方もまったく緊張している素振りを見せずに、テーブルから椅子を引っ張り出して、


「つまんなーい」


 テーブルにうつ伏せて足をばたばたさせている。ベッドの上にいる俺の角度から、スカートの中が見えちまうぞ。


「アンドゥ。面白い遊びはないの?」


 とりあえず聞かけれても、俺にいいアイデアなんてないぞ。


 仕方ないから、本でも読んで時間をつぶそう。本棚を適当にながめてみると、見覚えのあるハードカバーがあった。


 指で背表紙を引っ張ってみる。こちらの世界に来たときに、セラフィから譲ってもらった刻印術の本だ。


「あっ。その本、ここに置いてたんだっけ」


 セラフィが後ろからひょこっと顔を出す。


 これはお前が初日に「明日までに読んでおいてね」と、さりげなく無理難題を言って、俺に押しつけていった本だぞ。


 イリス公用語という、まったくもって解読できない文字で書かれていたから、一ページで読むのをあきらめたのだが。


 俺のとなりにはセラフィがいる。こいつは刻印術にかけて、右に出るものがいないとされるほどの天才だ。


 ちょうどいいから、刻印術の解説をお願いしてみよう。


「暇だから、この本でも読むか?」

「刻印術の勉強するの? いいよ、教えてあげる」


 あっさり承諾してくれた。


 セラフィとテーブルをはさんで、刻印術の本を広げる。正式名称は術法書だったな。


 光沢のある上質な紙でつくられているページには、ロシア文字みたいな暗号がびっしりと書かれている。さっそく目眩めまいがしてきた。


 セラフィの若干わかりにくい説明によると、この本に書かれているのは、神使術じんしじゅつの極意と種類のようだ。


 刻印を描いて力を発動させる刻印術には、いくつか種類があるらしい。神使術は、刻印術の代表的な術法にあたるようだ。


 神使術は、神使じんしという不可視の精霊を呼び出して力を行使する術法で、俺が今までつかってきたすべての術は、この神使術だ。


 炎を操る術の他にも、水を使役したり風を操ったりすることができるらしい。


 他の刻印術は、セラフィがこの前つかっていた化生術けしょうじゅつと、幻妖を召喚する召喚術が主にあるらしい。


 これらの術は神使術よりも高度であるため、「最初は手を出さない方がいいかも」とのことだ。


 どうせ覚えるなら、風でも操って真空波でも出してみたいが、それだといささか普通か。ならばもっと実用的な、動きを止める術でも教わってしまおう。


「相手の動きを止める術はないのか?」

「うーんと、たぶんあると思うけど」


 セラフィが術法書のページをぱらぱらとめくる。しばらくして「あった!」と小さく歓声をあげた。


 神使術は基本的な術なんだろうけど、種類がものすごく多いから、セラフィでも全部はおさえきれていないんだろうな。


「動きを止める術にはね、縄を具現化して縛る術とか、プレヴラみたいな幽霊を精神的に拘束する術なんかもあるんだって」

「へえ。いろいろあるんだなあ」

「でも、アンドゥ。こんな術を覚えて、どこでつかうの?」


 改めて問われると返答に窮するが。戦闘以外で使う場面なんてあるかな。


 シャロがうだうだ言ってきたときに使ってみると効果的かもしれないが。


 正面からセラフィの冷たい視線をひしひしと感じるので、よこしまな考えは部屋の向こうに押しやっておこう。


 この術だけでは心許ないので、他にもいくつか教えてもらうか。


 覚えたい術が決まったら、あとは術に対応する刻印を紙に描くだけらしい。定規やコンパスみたいな文房具をつかって刻印をせっせと描けばいいんだな。


 セラフィは前に化生をつくり出したときにフリーハンドで刻印を描いていたが、それはよほど熟練していないとできない芸当なのだそうだ。


 刻印術は、名前の印象から西洋のルーンに似ているが、改めて説明してもらうとかなり違う。


 ルーンも同じように印を描く術だけど、刻印術みたいに直接的に力が作用しないし、正確さもそれほど要求されない。ルーンはなにより模様がもっと簡素だ。


「ぱっと見、ルーンに似てるけど、結構違うんだな」

「アンドゥがいた世界にはルーンっていう術法があるの?」


 セラフィが説明を止めて俺の方を見つめる。ルーンのことを説明してやると途端に満面の笑みを浮かべて、


「なにそれなにそれ!? そんな変わった術法があるんだ。つかってみたーい!」


 がたっと立ち上がってテーブルをがたがた揺らすな。


 元気のいい小学生みたいにはしゃぐセラフィの首から、蒼いペンダントがぶら下がっている。


「その首にぶら下がっているやつ、王家の証だよな」

「あ、うん」

「それ、大事なもんなんだろ。何も用事がないのにつけててもいいのか?」

「うん。いつもはつけてちゃいけないんだけど、今は心配だから、つけてろって、お父様が」

「陛下が?」


 セラフィがしょんぼりと肩を落として、椅子に腰かける。


「この前、だれかに部屋を荒らされちゃったでしょ。だから、このペンダントだけは盗まれないように、肌身はなさず持っておけって、お父様に言われちゃったの」


 そうだったのか。


 陛下って、文化遺産みたいに四角い顔しているのに、意外と細かいところに気がつくんだなあ。


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