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第116話

 デモラに乗った高速の空の旅の果て。前方に巨大な島が見えてきた。


「あれがクリスタロスよぅ」


 オズワルドさんが相変わらず気持ち悪い顔で言う。


 クリスタロスはいくつもの島が連なった土地につくられた壮大な街だった。中世ヨーロッパのような風情ある街並みが彼方まで広がっている。


「でっけえ街だなあ」

「アンドゥ、すごいねっ」


 セラフィが俺の背中にくっつきながらつぶやいた。


 デモラがクリスタロスの上空へ飛翔する。窓からクリスタロスの街並みを俯瞰ふかんする。


 不規則に並ぶ赤い屋根の間に、角のような建物が鋭利に建っている。建物の間を彩る緑が安らぎを与える。


 帝国のどの街よりも大きくて、活気に満ち溢れている街だ。エレオノーラの首都より大きいかもしれない。


 街のまわりを野鳥や師獣と思わしきものたちが飛んでいる。師獣に跨っている人たちは航空騎兵の人たちかな。


 街まで距離がありすぎるから、街の人の姿はよく見えない。道や広場らしき場所で黒い点のようなものがたくさん動いていた。


「アンドゥ見てみて。あそこに時計台があるよ!」


 セラフィが俺の肩を揺らしながら、彼方の時計台を指す。街の中心部に金色の時計台が塔のように聳えている。


 柱の最上部の四面に銀色の時計盤がついている。時計盤の大きさはよくわからないが、ひとつの教室がすっぽりと入ってしまうくらいに大きそうだ。


「あれはクリスタロスの黄金の時計台ですね。街のシンボルであります」

「へえ。そうなんだあ」


 ロギスさんの姿はどことなく誇らしげだ。


「クリスタロスは帝国でもっとも賑やかな街です。市場には異国の品々が並び、帝国の各地から人々が訪れます。市場を覗いてみると楽しいですよ」

「そうなの!? じゃあさ、じゃあさ、幻妖の餌とか、旅用の便利グッズとかもあるのっ?」

「幻妖の餌、はたぶんありませんが、旅で使う道具でしたら、雑貨屋で売られていると思います」

「ちぇー。幻妖の餌はないんだあ」


 幻妖の餌を買って、お前は何がしたいんだ。ロギスさんだって引いてるじゃないか。


「セラフィーナ様が街へ下りられることがありましたら、私でよろしければご案内いたします」

「うんっ。お願いね!」


 俺たちはセイリオスの連中を探すのだから、こいつが街へ下りるのはかまわないけど、どうせなら、もうちょっと女の子っぽいものを買いたがれよな。


「エレオノーラの首都も非常に規模の大きい街ですが、クリスタロスは我が国の象徴と言うべき都市です。その規模はアリスに決して引けを取りません」


 この人は生粋の帝国育ちなんだな。事あるごとにエレオノーラと張り合うなあ。


 だが大恩あるエレオノーラのいち国民として、その言葉は聞き捨てならないぞ。


「エレオノーラだって負けてませんよ」

「そうですか? 領土の規模、人口。そして軍の強さ。帝国がどれも上回っているというのに、エレオノーラが負けていないとおっしゃられるのですか?」


 くっ。この人、帝国とエレオノーラのことになったら途端に意地悪になったぞ。勝ち誇った顔がすげえむかつく。


「へえ。その割りには、この前の戦争ではエレオノーラに勝てなかったんですよね。なんででしょうね」

「くっ。勝敗は時の運と言うでしょう。我が国が少しばかり運に恵まれていなかっただけです」

「それなら、運も実力のうちと言うでしょう? 大切な局面で運を引き寄せられないということは、帝国の実力は大したことがないということなんですかねえ」


 わざとらしくせせら笑うと、ロギスさんが悔しそうな顔をした。ふっ、勝った。


「やめなよ、アンドゥ。そういうの」


 セラフィが眉根を吊り上げる。睨みつけられても全然怖くないが、従わないと後でいろいろと面倒なことになりそうだ。


「冗談だって。向きになるなよ」

「今度そういうことやったら、しっぺだからね」


 こいつはいつもわけのわかんないことで俺を振り回すくせに、人付き合いには意外と真面目なんだよな。その辺が適当な俺と大違いだ。


「ふふっ。くだらないことで張り合っちゃって。子どもねえ」


 後ろの乗員席でオズワルドさんがせせら笑った。


 港っぽいところへ飛行船が着陸する。あちらの飛行機より着陸の振動が大きい。


 飛行船を降りると馬車が用意されていた。馬車へすぐに乗り込んで街を移動する。


 ロギスさんたちが手配していたのか。すげえ手際がいいな。思わず脱帽してしまう。


 四人掛けの馬車に同乗しているのは、ロギスさんと別の諜報員だ。オズワルドさんは前の馬車に乗っている。


「この馬車はどこへ向かっているんですか?」

「宮殿のそばにある客舎ですよ」


 客舎はホテルのことだな。イザードに行ったときも豪華な客舎で寝泊まりしたっけ。


「我が国にはエレオノーラの大使館がありませんし、皇帝陛下のおわす宮殿には案内できませんので」


 皇帝陛下はクリスタロスの宮殿にいるのか。どんな人なのか会ってみたいけど、無暗に近づかない方がいいよな。


「クリスタロスの宮殿って街のそばにあるの?」


 セラフィがロギスさんに問う。


「いえ。街から離れた場所にあります。ルフェラの森の中にあります」

「そうなんだ」

「官府は街の中心部にあります。我々や官吏たちは官府で政務を執っております」


 クリスタロスでは、皇帝や官吏たちの住まいである宮殿と、役所的な場所である官府が分かれているのか。


 エレオノーラのアリス宮殿は両者を兼ねているから、宮殿はあんなに広いし、建物の構造も複雑怪奇だけどな。つかってない部屋とかいっぱいあるし。


「宮殿に行ってみたいですか?」

「えっ、うん」

「左様でございますか。それでしたらオズワルドへ伝えておきます。非公式の場になりますが、陛下と面会の場を設けることもできると思います」


 皇帝陛下と会えるだと!? それはすごい。


 エレオノーラよりでっかい国の元首って、どんな人なんだろうな。すごい気になるぞ。


 エレオノーラの国王陛下は、いわおのような顔に野武士みたいなオーラを放つ人だった。皇帝陛下だから、そのさらに上を行くのか?


 身長が二メートル以上の、昔の漫画に登場する巨人みたいな人で、無言で仲間思いで、「真空武陣滅殺乱破あ!」的な技を手足から繰り出したりする昭和的な人物だったりするんじゃないだろうな。


 すげえ。それはマジですげえぞっ。皇帝陛下に会ってみてえ!


「アンドゥ、さっきから何を考えてるの?」


 気づいたら俺は前のめりになって両手をにぎりしめていた。ロギスさんたちから注がれる視線も針のようだ。


「と、ところで、蒼い髪の人がいたと思うんですけど、あの人も帝国情報機関の人なんですかっ?」


 ロギスさんに聞きたかったことを苦し紛れに質問してみる。ロギスさんが少し間を置いて、


「アイルティスのことですね。彼はひと月ほど前に入庁した新人です」


 あの人のことをあっさり吐露してくれた。あの人は新人の諜報員だったのか。


「アイルティスという方なんですね」

「彼が気になるのですか?」

「いえ。珍しい髪の色だなあって思ったので」


 鮮やかな蒼い色の髪の人なんて、あちらの世界ではバンドマンくらいしかいないからな。


「そうですか? あの程度の髪でしたら、帝国ではよく見かけますが」


 こちらの世界では普遍的な髪の色なんですね。そうだと思いましたよ。


「彼は寡黙で、これまで同じ任務についたこともないので、私も彼のことは存じ上げていないのです」


 そうだったのか。言われてみれば、アイルティスさんがしゃべっているところを見たことがない。


「仕事はできるみたいなので、私は気にも留めていませんが」

「はあ」


 ロギスさんはさっぱりしてるんだなあ。職場の同僚や新人って気になる存在だと思うけど。


 よくわからないけど、大人ってそういうものなのかな。馬車の窓から景色を眺めるロギスさんの横顔を見て思った。


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