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第11話

 それから小一時間ほどの時間が経過して、今は王宮の王の間にいる。王様に名指しで呼ばれてしまったからだ。


 王様の名前は、エレオノール・コーネリアス・ラ・アーシェラというらしい。名前が無駄に長ったらしいのは、ヨーロッパと同じだな。


 王の間は、三十メートルくらい先にあるのだろうか。学校の廊下みたいに長い通路の先に、四段の赤い段が見える。玉座と思わしき段に王様と思わしき人物が座っていて、こっちをじっと見ていた。


 あれが王様か。


「何をしている。さっさと歩け」


 同行しているシャーロットが背中を小突く。反対側にはイケメン官吏のフィオスが妙な含み笑いを浮かべている。


 俺のことを国王陛下に奏上したのはシャーロット本人だが、付き添いでいるこいつはかなり嫌そうだ。


「そんなに俺のことが嫌いなのか?」

「当たり前だ。セラフィーナ様が貴様にご執心でなければ、貴様などとっくに斬り捨てているところだ」


 即答かよ。しかもさっきから聞いていれば、貴様貴様と気安く呼び捨てやがって。


「初対面の人間を気安く貴様呼ばわりするなよ」

「ふん、セラフィーナ様の召喚術で呼ばれた分際で人間とは笑わせる。ならば、そのだらしない身だしなみを少しは改めたらどうだ!」

「何だとっ!」


 険悪な空気が流れる俺とシャーロットの間にフィオスが入ってきた。


「まあまあ。陛下が見ておりますから、お二人ともお気を沈めてください」


 こっちが下手したてに出ていたらなめやがって。見た目はまあ、そんなに悪くないのに、ほんとに可愛くないな、こいつは。


 しかし、ここでこいつと喧嘩してもご飯粒ほどの意味もないので、王様の謁見えっけんをさっさと済ませてしまおう。


 それにしても、さっきから王様を眺めていてすごく気になっていることがあるのだが、あの王様、座高たかくないか?


 座高が高いというのは語弊があるか。国王陛下は、おそらく背が大変お高いのだろう。だがその高さが異常なのだ。


 まるで玉座に置かれたモアイ像だ。しかも身体がムキムキで、プロレスラーみたいなんですが。


 王様というと、イメージは白い髭を生やしたよぼよぼのじいさんで、頭に金の冠をかぶって、「伝説の勇者よ。魔王を倒して参れ」と出し抜けに命令してくる姿が連想されがちだが、あそこに座っている王様は全然そんな感じじゃない。


 髪はセラフィと同じ薄紫色。長い髪をオールバックにして、金のサークレットを額につけて、脂ぎった濃ゆい顔を俺に向けている。年齢はきっと四十代だ。


 王様というより、屈強な戦士とか傭兵をやっている方が似合っていそうな感じだ。少し高いところから、細長い炯眼けいがんで真っ直ぐに見下ろして……怖くて直視できねえ。


 この人は、目だけで相手を射殺せるんじゃないか?


「陛下。例の男を連れて参りました」


 シャーロットとフィオスが陛下の御前でひざまずく。よくわからなかったので、俺は跪かなかったけど、


「ばかっ貴様も陛下に拝礼しろ!」

「い、いてえな! 何すんだよっ!」


 シャーロットに頭をつかまれてしまった。


 王様に謁見するのなんて初めてだから、宮廷の作法などは全然わからないんだ。だから多少は多めに見てほしい。


 遅れて陛下に跪くと、陛下は「ふう」と嘆息して、


「貴公かね? セラフィーナが召喚した男というのは」


 太い野武士のような声で言った。この人やっぱり戦士系だ。


 陛下の目が怖いので、目を合わせないように恐る恐るうなずく。声を出そうと思ったけど、恐怖で喉が枯渇こかつしてしまったみたいだ。


 こんなに恐怖を感じるのは、小学生のときにカツアゲされて以来だろうか。


 陛下は俺の軽そうな頭を見つめて、露骨に嫌そうな顔をしていたけど、


「王宮の出入りを許可しよう」

「陛下!」


 シャーロットがすかさず悲鳴に似た声を上げた。


「先ほども申し上げましたが、この男はどこから来たのかわからない、人間かどうかもわからない正体不明な男です。このような得体の知れない輩を王宮に住まわせたら、いつ何時、陛下にわざわいをもたらすかわかりません! そればかりか、王国の吉凶を占う大事な局面で――」

「だまれシャーロット」


 陛下がぴしゃりと言い放つと、シャーロットは説教を受けている生徒みたいに口を噤んだ。


「その男は幻妖などではない。それはお前も気づいているのだろう?」

「しかし、この男は、得体の知れない存在で、そのっ」

「その者の処遇については、朕とセラフィーナで話し合って決めたことだ。決定はもう覆らん」

「し、しかし――」

「お前たちはご苦労だった。もう下がってよいぞ」


 シャーロットの直訴はことごとく切り捨てられたようだ。残念だったな。


 陛下は俺の間抜けな顔を見ると、そっと手招きして、


「アンドゥといったな。もっとちこう」

「陛下っ!」


 シャーロットが息のつまりそうな声で叫んだけど、陛下はそのはるか上をいく、鬼神みたいなものすごい顔でシャーロットをにらんだ。


「お前には下がれと命じたはずだ。それとも朕の命令が聞けぬというのか?」

「はっ」


 この人やっぱり怖え。


 改造コード不要の最強のお方が、俺なんぞに一体何の用だ? さっきから足の武者震いが止まらないのだが。


 全身の毛が総立ちで危殆きたいを訴えているけど、拒否するわけにもいかないので、ぶるぶるふるえる足を叱咤して、なんとか玉座の段の傍まで行くことに成功した。が、


「そんなところにいたら話がしづらいだろう? もっと近う」


 あなた様のすぐお傍まで参れと?


 どうやら、死亡フラグが立ってしまったようだ。前に進んだら、死。拒否して逃げても、死亡。はは、短い人生だったぜ。


 観念して陛下のすぐ近くまで行くと、陛下は耳打ちするような小声で言った。


「貴公に折り入って頼みたいことがあるのだ」

「頼み、ですか」

「うむ。先ほどのシャーロットに、我が娘であるセラフィーナの教育係を兼任させているのだが、娘の奇行に大分手を焼いているみたいでな。朕もどうしたものかと頭を抱えているのだ」

「はあ」

「シャーロットの話によると、セラフィーナはどうやら、貴公のことをかなり気に入っているそうではないか。そこで提案だが、娘の世話役として朕に仕えないか? やってもらう仕事は娘の、そうだな。遊び相手をしてもらうだけだ」


 厄介払いですね、つまり。


「勿論、衣食住その他もろもろの権限については最高の待遇を用意させよう。娘の面倒を見てくれれば、外で遊んでもらってもかまわない。どうかね? 貴公にとっても悪くない提案だと思うが」


 それ以前に怖くて首を横にふれないのですが。


 でも、待てよ。冷静に考えてみると、かなりいい話なんじゃないか。


 だって王宮に住めるんだぞ。陛下の顔は怖いけど、年がら年中会うわけじゃないし。


 セラフィの遊び相手は、色々なトラブルに見舞われることになりそうだけど、それだけクリアすれば外で遊んでいてもかまわないんだ。


 もしや死亡フラグどころか、とんでもない幸運が舞い降りてきたんじゃないか。俺みたいなやつが王宮に仕えてもいいのか?


「異論はないようだな」


 陛下が怖い顔をやわらげてにんまりする。第一印象は最悪だったけど、根はそんなに怖い人じゃなさそうだ。


 それはともかく、今日から王様お抱えの騎士になったのか? 師士というのかはわからないけど。


 唐突すぎて信じられない。これは夢なんじゃないのか?


 念のために腿のあたりを指でつねり、肉体的苦痛が脳にレスポンスされることをひそかに確認した。


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