第1話
気づいたら俺は、妙な世界の片隅に座らされていた。
オンラインゲームでよく見かけるような、中世ヨーロッパの王室を模したゴージャスな空間。目の前に広がっているのは、そんな超非日常ならぬ超ファンタジーな一室。
どこだ、ここ。
壁には風景画や、ユニコーンみたいな動物の描かれた絵画が豪華に飾ってある。隅の方には、縁に金の装飾の入ったアンティークなタンスが置かれているな。
壁紙も無地じゃなくて、シルバーアクセサリのBSフレアのような模様がいっぱい描かれている。天井にはケーキみたいな形のシャンデリアまでぶら下がっていた。
ベルギー王室とか、そんな感じの比喩表現がつかえそうな部屋だ。
ほんとにどこなんだ、ここ。なんで俺はこんなところにいるんだ?
一体何がどうなったら、超セレブなホテルの一室に迷い込めるのか。それだけで、まったくもって理解不能だったのに、
「ねえねえ! きみは幻妖? それとも人なの?」
さらにわけのわからない女が、まったくもって意味不明なことを訊ねてくる。
歳は十四、五歳くらいだろうか。薄い紫色の髪を生やした、謎の外国人女。コミックマーケットのコスプレ会場から抜け出してきたコスプレイヤーみたいだが。
「あれ、聞こえてないのかな? ねえ、ねえーっ」
通販で売っているウィッグみたいな髪は、ふわふわとゆるくカールしている。俗に言うガーリーヘアという髪型だろうか。
長い毛先は肩から前に流れて、青のリボンで可愛く括られている。毛先の色が心なしか濃くなっているような気がするが。濃くなってるな。
習字の筆みたいに、毛先だけが深みのある藍色に染まっていた。
肌はヨーロッパ生まれの女子みたいに真っ白で、それはもう雪のように美しく透明感あふれる白さだっ――。
「ねえってばっ」
薄紫色ウィッグ被り女が四つん這いになって、その人形のように整った顔を……ま、待てっ。待つんだ。そんなに近づかれたら俺の心臓が破裂しちゃうじゃないかっ。
女の手は俺の腰と足の付け根あたりを上から押さえつけて、俺を押し倒そうとしているような体勢だ。顔も、俺が身体を少し起こしたらキスできてしまうんじゃないかというほど近い。
でも、ああ。なんだかフレッシュフローラルな香りがするなあ。
俺は息を吐く力を極力弱めるというかすかな抵抗をしているときに、やっとあることに気づいた。
そうだ、これは夢だ。
今は現代文の授業中で、先生の山田が必殺の催眠怪音波を放っているから、それに負けて居眠りしているのだ。
そうだ、そうとしか考えられない。
コスプレ女にばれないように、俺は腿のあたりをそっとつねってみた。夢なら肉体的苦痛は感じられないはず。
痛え。