第6話:山口「秋吉台の電脳大洞窟とフグの神経毒」
「温泉の熱」を纏ったハーレーが辿り着いたのは、死の香りが漂う石灰の平原・秋吉台。
今回は、名物の「フグ」をテーマにしたバイオ・ホラーなサイバーパンクをお届けします。美しき鍾乳洞の奥で、哲哉と五右衛門を待ち受けるのは、避けることの叶わない猛毒の雨。
地上の静寂と、地下の狂気。その対比をお楽しみください。
道後の空を「温泉核融合」の白煙を引いて飛び出した哲哉のハーレーは、一気に西へと進路を取る。瀬戸内を跨ぐ関門の風を切り裂き、目指すは本州の牙城――山口県。
そこには四国連合をも裏から操る巨大組織『ワニノ陣』の神経系を司る、巨大な**「生物化学サーバー」**が隠されていた。
漆黒のカルスト台地
「……ここが秋吉台か。まるで骨の墓場だな」
哲哉がバイクを止め、ゴーグル越しに広大な大地を見渡す。
月光に照らされたカルスト台地は、異様な静寂に包まれていた。点在する無数の白い石灰岩は、夜の闇の中で野ざらしにされた巨人の髑髏のように白く光っている。風が岩の隙間を抜けるたび、誰かの啜り泣きのような不気味な音が響いた。
だが、その静寂は表向きの顔に過ぎない。この地下には、日本最大級の鍾乳洞『秋芳洞』の天然構造をそのまま再利用した、企業の極秘バイオ・ラボが網の目のように広がっているのだ。
ターゲット: 『下関の宝毒卵』
正体: フグの毒素をバイオ・データへデジタル変換した、強力な「神経型コンピュータウイルス」。
現状: 本来は医療用ナノマシンの制御プログラムとして開発されたものだが、ワニノ陣の手で、対象の脳OSを強制フリーズさせる「無差別気絶兵器」へと改造されていた。
潜入:秋芳洞「クリスタル・ラビリンス」
哲哉はハーレーに光学迷彩のカバーをかけ、岩の裂け目から垂直に切り立った地下通路へと滑り降りた。
洞窟内は、数千万年の歳月が作り上げた鍾乳石の造形美と、剥き出しの光ファイバーが血管のように絡み合う異常な光景だ。
「五右衛門、ウイルスの格納庫までの最短ルートを出せ。長居は無用だ」
耳元の通信機から、陽気なAIの声が響く。
『了解っす!……ですが、見てくださいよこの湿度。レンズが曇って私の美貌が見えなくなっちゃいます。それに……不吉な反応が3つ。まるまる太った「フグ型ドローン」が、こちらをディナーに誘いに来てますね』
「フグだと? 刺身にするには、ちと硬そうだな」
激闘:360度の猛毒空間
暗闇の奥、鍾乳石の影から「ブゥゥン」という不快な駆動音と共に姿を現したのは、球体状の飛行メカ
だった。
企業の防衛兵器『FUGU-01』。
その愛嬌のある円らなセンサーとは裏腹に、表面の
細孔からはテトロドトキシンをコーティングした猛毒のレーザー針が装填されている。
「チッ、一斉射撃か……!」
四方八方から放たれる光の針。哲哉は鍾乳洞の巨大な柱を蹴り、重力制御ブーツを吹かせて無重力のように宙を舞った。コンマ数秒の判断。針が頬をかすめ、背後の岩をドロドロに溶かす。
「五右衛門、演算を回せ! 奴らの発射周期を割り出せ!」
『ピポ! 予測完了。右30度、高度5に隙ありっす!』
「おうよ!」
哲哉は空中で身を翻すと、『煙管(KISERU)』をトンファーのように旋回させた。飛来する針をすべて「カカカカッ!」と火花を散らしながら叩き落とす。
必殺:氷結のカウンター
「五右衛門、煙管を『冷却モード』へ。熱源探知を狂わせる!」
『ラジャ! 冷凍室より冷たくしてやりますよ!』
哲哉は着地と同時に、床を流れる地下水――「黄金柱」の傍にある水溜りに煙管の先端を突き立てた。
バキバキバキッ!!
極低温のガスが水流を伝わり、一瞬にして巨大な氷の槍を形成した。水柱はフグ型ドローンのセンサーを物理的に粉砕し、さらに冷気がドローンの排熱口を塞ぐ。
視界と制御を失った3体のドローンは互いに激突し、爆散。鍾乳洞をオレンジ色の爆炎が照らし出した。
最深部の「百枚皿」を改造した培養槽。その中心にあるクリスタル状の台座に、禍々しく緑色に発光する液体チップ『下関の宝毒卵』が鎮座していた。
「……綺麗なモンほど毒があるってのは、いつの時代も変わらねえな。瀬戸内の連中を丸ごと眠らせて、その隙に記憶を書き換えようって腹か。悪趣味な
『ふく(福)』もあったもんだ」
『ボス、それ、素手で触ると、脳のOSが一生フリーズしますよ! 私との楽しい会話もできなくなっちゃう!』
「そいつは悪夢だな」
哲哉は煙管の先端を絶縁冷却モードに切り替え、慎重にチップを特製の保冷ケースに封じ込めた。
カチリ。
「おっと、お目覚めか。毒を食らわば皿まで……いや、**瓦**まで、ってな。逃げるぞ、五右衛門!」
地上へと続く縦穴を見上げ、再びハーレーに跨る哲哉。
ブルッドッドドオォォォーン!!
道後の温泉燃料でさらに強化されたエンジンが、洞窟を揺らすほどの咆哮を上げる。哲哉は闇を裂き、光の刺す出口へとアクセルを全開にした。
長めにお届けした第六話、いかがでしたでしょうか。
鍾乳洞という天然の迷宮は、サイバーパンクの「閉塞感」と相性が良く、書いていて非常に筆が乗りました。
無事に『宝毒卵』を手に入れた哲哉ですが、次はいよいよ山口のソウルフード「瓦そば」を食べる暇もなく、関門海峡を越える激戦が予想されます。
次話、さらなる加速にご期待ください




