9、取り調べはイチゴ味
翌日、いつも通りに三人はお店で働いていた。
瑠季はテーブル席のお客さんと雑談しつつ、オーダーを取っていた。
その最中、後ろから聞こえた里桜の言葉が耳に響いた。
「柚海君、フードのオーダー入ったからお願いね」
「(柚海君…? 今、『ゆずみくん』って言った? ユズミンじゃなくて?)」
瑠季は相当に動揺したが、表情には微塵もださなかった。
いつも通りに笑顔で仕事を続けた。
瑠季は夕方からの勤務なので、仕事を開始してまだ三十分ほどしか経っていない。
だが、お店に来てすぐ、里桜に対して違和感を感じた。なにかがおかしい。里桜の雰囲気が、いつもと違う。清々しいと言うか、サッパリしているというか…。
服装やメイクのせいではない。機嫌もいつもより良い気がする。なんとも言い難いが、とにかく三日前に会った時とは全然違う。
瑠季は要因を探るべく、里桜に気付かれない様に、仕事の合間をぬって観察を始めた。
観察しつつ仕事をしていると、今度は柚海の声が聞こえた。
「里桜さん、サンドイッチができました」
「(里桜さん…? 今、『りおさん』って言った? 西臣さんじゃなくて?)」
瑠季は動揺した。それでもなんとか平静を保ちつつ、考えてみた。
「(柚海さんも、いつもより機嫌が良さそうに見える。でも、普段から仕事中はニコニコしているからなぁ、この人は。でも、里桜さんがいつもと違うのは、絶対に間違いないよ。いつも以上に綺麗に感じる…。柚海さんとなにかあったとか? まあ、昨日はデートだよね。って事は、なにか進展があったとか? 『進展』って…なんだろう?)」
瑠季は、大人の男女で言うところの、『進展』という言葉の意味を、考えてしまった。
「(そっ、そんなの…いやだ…。いやだっ!)」
ボーッと歩いていた瑠季はつまづいてしまい、前に倒れ込んだ。顔の先にはテーブルの角が迫ってくる。
それに気が付いた柚海は叫んだ。
「危ないっ!」
瑠季の目の前にいた柚海が受け止めた。柚海が瑠季を抱きしめる形になった。
瑠季は柚海の胸の中で、声が少し漏れた。
「あ…」
瑠季が抱きしめられていた数秒、二人は動かなかった。瑠季は完全に体の力が抜けていた。
柚海は瑠季の両腕を軽くつかみ、体を起こした。
「大丈夫か?」
「柚海さん…」
瑠季は小さな声で、柚海の名を口にした。里桜は、それを聞き逃さなかった。
「(柚海さん? 今、ナナちゃんは『ゆずみさん』って言った? 『穂紫さん』じゃなくて?)」
瑠季が我に返ると、自分の両腕を柚海が持っている事に気が付いた。
「離してよ…」
「えっ?」
「そんな手で! (里桜さんを抱いた手で!) 私に触んなって言ってんの!」
柚海を両手で思い切り突き飛ばした。柚海は二~三歩、後ろにのけぞった。
これには見かねた里桜が注意した。
「ナナちゃん! それはないよ! 柚海君が受け止めてなかったら、テーブルの角で顔を打っていたかもしれないんだよ!」
瑠季は里桜に向かって、頭を下げた。
「あ…すみません」
「いやいや、私じゃなくて、柚海君にね」
瑠季は柚海と視線を合わさずに、ボソリと言った。
「…ごめんなさい」
「いや、いいよ」
三人はその後、なにもなかったかのように、いつも通り仕事をこなした。
時刻は十七時三十分になろうとしていた。
客足が途絶えたところで、里桜は瑠季に言った。
「よしっ! ナナちゃん、アイスクリーム好き?」
「えっ? はい、好きです」
「じゃあ食べに行こう。デートしようよ。エプロン脱いでおいで。タイムカードは切らなくていいからさ」
「今すぐに行くんですか? 閉店後じゃなくて?」
「そう、今すぐね。柚海君、ラストオーダーもう終わったから、一人で大丈夫だよね?」
「二人だけで行くんですか?」
「当たり前でしょう? デートに付いてくる気? 気が利かないねー」
●
里桜と瑠季は並んで商店街を歩いていた。この商店街は、シオンから歩いて五分くらいの場所にある。ゆっくりと歩きながら、里桜は話し始めた。
「ウチのお店は小っちゃくて、アットホームなトコロがいいんだ。でも逆に言うと、小さくて狭い所にズーッといるから、息が詰まる事もあるよね。ナナちゃん、ちょっと気持ち的に疲れてきたんじゃない? さっき柚海君に抱き止められた時、固まってたよ」
「いえいえ! 息が詰まったりしないです! 私、お店好きですから」
「そう? ありがと」
「抱きしめられて固まったのは、驚いただけですよ。穂紫さんも、ただの条件反射だと思いますし。気にしていないです」
「柚海君が抱きしめたのは、そうだろうね。でもその後だよ。ナナちゃんさ、柚海君に抱きしめられていた数秒、なにを考えていたの?」
「え…?」
里桜は瑠季の返事を待たず、話題を切り替えた。
「この商店街って、長いんだよ~。一キロぐらいあるんだ。お店は、三百くらいかな?
服から電化製品、食料品まで何でも揃うよ。大手のコンビニも、シレっと混ざっているしね。まあ生活に困らない。ここの人達はウチのお店に来てくれるけど、私も行くからね。私の私生活の買い物は、七割くらいがこの商店街なの。ナナちゃんは、こういう商店街って来る事ある?」
「いや~、ないですね。買い物も、半分以上はネットですし」
「だよねー。ネットもそうだし、大抵はショッピングモールとかスーパーの方が便利で安い。でも、この辺りの住人はここなんだよね。お互いにお店を利用し合って、支え合っている部分もあるの。楽しくお喋りもできるし。あっ、どうも~!」
手を振る商店のオバサンに気付いた里桜は、手を振った。これには瑠季も驚いていた。
「すごいですね、さっきから何人目だろう? 里桜さんは有名人だ」
「でしょー。お店が三百あると言っても、若い店主は珍しいからね。しかも女。ウチのお店はまだ四年目だけど、有名なんだよ。柚海君のおかげでもあるけどね。ナナちゃんも、だんだん知られてきてるよ。分かってる?」
「はい。お店に行く途中、おじいちゃんとかオバサンとかに、よく言われます。
『おっ、シオンのお嬢ちゃんじゃねーのっ!』ってね。『ちゃんと勉強しろよー』なんて言われたりもしますよ」
「アハハ! この辺りの人は年配の人が多いんだ。皆さんにとって、私達は子供か孫みたいな年齢だから。自分の子供や孫は、手が離れて寂しいのかもしれないね。ウチの常連さんもお取り寄りが多いから、すっごい心配されるもん。『困ったことがあったら言って来いよ!』とかね」
「アハハ、里桜さんって、祖父母がたくさんいるんだ」
「そうだよー、すごいでしょう? あっ、あそこの美容室は行くよ。還暦を過ぎた女の人がやっているんだけど、めっちゃ腕がいいんだ。あっちの総菜屋さんも美味しいよ。
私、料理は仕事以外ではしないから助かってるの。こっちの百均はね、個人でやっている店でさ。個別に取り寄せもさせてくれるし、すごい便利」
「すごいなぁ、商店街そのものが街みたい。いい環境ですね」
「そうでしょ? でも、良い事ばかりじゃないよ。厳しい現実もあってさ」
「へぇー、なんですか?」
「何処でもそうだと思うけど、この商店街でも、潰れちゃうお店ってあるんだよね。
最近じゃあ山玉餡と畳屋さんが、危ないって聞いてさ。畳屋さんの従業員は、ウチの常連さんなの。普段から良くしてもらっているから、心配しちゃうね。山玉餡は柚海くんが思い入れがある店だしね。何事も無かったらいいんだけど」
「山玉餡は、このあいだ穂紫さんが行った和菓子屋さんですよね?」
「お店の座敷のイートインコーナーに顔を出して、子供の遊び相手になっているみたいだね。よく行っているみたいだし」
「穂紫さんは本当に子供が好きなんだ…。なんとか助けられないんでしょうか?」
「商店街には『共済金』っていうのがあるよ。そこから無利子・無担保で借りれるから、まずはそこから借り入れをするんだよ」
「『共済金』って何ですか?」
「商店街のお店が負担する税金みたいなもんだよ。お店ごとに月に数百円を支払って、貯めておく。そして、経営が困った時に無利子で借りられるんだ。みんなで助け合いって感じだね。ウチは正確には商店街じゃないけど、ご近所さんだからね。参加してるの」
「そうなんだ。それは良いですよね」
「ただ、最近は苦しいお店も増えてきてさ、資源が枯渇しかかっているの。柚海君は山玉餡の事を、すごい心配していて…あっ、アイスクリーム屋さんが見えてきたよ」
●
あれこれ話している間に、アイスクリーム屋に到着した。イートインのコーナーも広く、二人はカウンターの端の席に並んで座った。里桜は紙カップに入ったバニラアイスとウーロン茶、瑠季は紙カップに入ったイチゴ味のシャーベットとアイスティーだ。
里桜は嬉しそうに言った。
「さっ、食べよう! ここの美味しんだよ~。お店の中で作ってるらしいからね」
「は~い! あれ? 里桜さんのドリンク大きくないですか? Mサイズですか?」
「ううん、Lサイズ」
「でかっ! 飲みきれますか?」
「必要だと思ってさ。これからじっくりナナちゃんの話を聴きたいから」
「え…?」
「言っている意味分かるよね? ナナちゃんの事を話してもらうよ」
「私の話ですか? えーっ、つまんないですよぉ~。商店街のお話を聴きたいなぁ~」
里桜はバニラアイスを、プラスチックのスプーンでコンコンと突きながら言った。
「もういいって。無理にメイドさんみたいなキャラしなくていいから」
「無理なんてしてませんよぉ~」
「じゃあハッキリ聞くよ。あんた、柚海君とどういう関係?」
「えっ、穂紫さんですか? アルバイト先の上司ですよね? まだ知り合ったばかりだから、どんな人かは、よく分かんないですけどぉ」
「へぇ~、あくまでもシラを切るんだ。ま、いいけどさ。ゆっくり聞こうかな」
「アハハ…、里桜さん怖いなぁ」
「タッパの事なんだけどさ」
「タッパ? ああ、余った食材を入れておくやつですね、はい」
「柚海君が言うには、最近入っている具材が大きいんだって。食パンの耳どころか、半分に切った食パンが入っている時があるらしいよ。もうそれって耳じゃないけどね。知らない?」
「えーっと…あっ、思い出したっ! 私、最近フードメニューに挑戦させてもらってるじゃないですか? まだ慣れなくて、パンの耳を切るの失敗しちゃうんですよね~。ごめんなさい。言ったら怒られるんじゃないかと思って、言えなかったんですぅ」
「耳を切るの失敗って…。どうして食パンの中心から切るの? 柚海君に『たくさん食べさせてあげたい』って気持ちアリアリじゃない?」
「アハハ…、とにかく次からは気を付けますぅ」
「ふーん。じゃあ、次のお話。柚海君ってさ、チーズケーキ好きなんだよね?
もちろん知ってるよね?」
「知らないですねぇ」
「私、特にベイクドが好きとは知らなかった。ナナちゃんはもちろん知ってるよね?」
「知らないですねぇ」
「タッパにショートのベイクドチーズケーキが、ラップにくるまって丸々入ってたって言ってたよ。どうしてだろうね? 私じゃないよ」
「えーっと…あっ、思い出したっ! 商店街のケーキ屋さんのオジサンにもらったんですよ。わたし今、ダイエットしているんです。捨てるのもなんだし、『どうしよう』って困ってたら、タッパの事を思い出して。はい、入れましたよ」
「へぇー。じゃあケーキ屋さんに確認するけど、いいんだよね?」
「えっ? いっ、いいですけど、もう忘れてるんじゃないかなぁ」
「ふーん。じゃあ次のお話。この間、柚海君は山玉餡へ子供達の相手をしに行ったよね?」
「そうみたいですねぇ。よく知りませんけど」
「あの日、ナナちゃんからスマホで連絡あったよね。
『今日は学校で急用ができたので、シオンに行くのが遅れます』って。
なのに何故、山玉餡に行ったの? 急用はどうしたの? 後日に柚海君から聞いて驚いたもん。勉強が苦手な柚海君を助けたいと思ったんじゃない?」
「えーっと…あっ、思い出したっ! 学校の友達と二人で、放課後にお喋りをしていたんです。そしたら、好きな和菓子の話で盛り上がっちゃって。それで山玉餡に買いに行ったんです。そうしたら穂紫さんがいたんですよ。穂紫さんの事なんて忘れてましたから、びっくりしちゃいました。ついでに小学生の算数の質問に、少しだけ答えましたけどね。それだけですよ」
「どうして私名義で飲み物の差し入れなんてしたの? 柚海君にお礼言われてビックリしてさ。何か意味があるんじゃないかと思って、とりあえず誤魔化しといたけどね。もう柚海君を応援する気アリアリじゃない?」
瑠季は内心思った。
「(あれほど黙っておいてと言ったのに! 柚海さんのお喋りめっ!)」
「ナナちゃん?」
「あっ、すみません! えーっと、あれは友達と飲むつもりだったんですけど、途中で重くなっちゃって。穂紫さんにもらってもらいました。里桜さんの差し入れだなんて言ったかなぁ? 覚えてないですぅ」
「二リットルのペットボトルを三本…合計六リットルも、友達と二人で飲むの?」
「もっ、もちろんですよぉ! 私の特技は『二リットルのペットボトル一気飲み』なんですよ! 言ってませんでしたっけ? 全然ヨユーですぅ!」
「そう。じゃあ、後でやってみせてよね」
「はっ、はい! まっ、任せてくださぁい!」
「ふーん。じゃあ次のお話。柚海君って、最近顔色良いよね? 睡眠がしっかりとれているみたい。もう簡易宿泊所とか使ってないんだって。もちろん知ってるよね?」
「知らないですねぇ」
「マンションの部屋を管理するみたいな仕事をしてるから、ついでに宿泊させてもらってるんだって。駅前の、白くて大きいマンションだよ。どういう事なの?」
「知らないですねぇ。白いマンションは知ってますけど」
「私、そのマンションに、三日間連続で夜に張りこんだの。探偵みたいにね。柚海君は毎日見た。でも、一日だけナナちゃんが入っていく姿を見たよ。それはどうして?」
「えーっと…あっ、思い出したっ! あそこは友達が住んでいるんですよ。で、友達の宅急便の荷物が、置き配で来るらしくって。でも友達が急遽、家にしばらく帰れなくなったって聞いたんです。それで私が代わりに取りに行ったんですよ」
「ふーん。じゃあ次のお話。あのさ、ナナちゃんの性格についてなんだけど。ナナちゃんって今風の可愛い女の子なのに、根はすごい真面目だよね? 『カタブツ』と言っても過言じゃないよ。どうして?」
「分からないですねぇ」
「あんたはまるで、柚海君の小っちゃい版みたい。影響を受けているんじゃない? 昔から一緒に過ごしていたとか? 『法令順守』なんて言葉も使うしさ」
「それは、『親戚のオジサン』が言っていたんです」
「その『オジサン』が、柚海君って事? 確か、それは中学生の頃の話だったよね? という事は、その頃からの知り合いなの? それとも、もっと以前から?」
「えーっと…あっ、思い出したっ! 勘違いしてました。それは親戚のオジサンじゃなくて、中学校の先生が言っていた口癖です。すごいお堅い先生だったんですよぉ。風紀指導の授業で、お酒と煙草の話をしている時に言ってましたね」
「先生のお説教を、あんなに嬉しそうに話していたの? そんな勘違いってある?」
「アハハ、ドンマイです」
「いや、あんたがね。じゃあ次のお話。スマホなんだけどさ。私、柚海君のスマホ見ちゃったんだよね。反省しているけど…。で、ラインを見たの。連絡先をチェックしたんだけど、ナナちゃんらしきアカウントは無かったよ」
「でしょー! 私、別に穂紫さんと仲良くないですから、ありませんよ」
「違うよ、無いのがおかしいんだよ。三人で働いている職場だよ? よほど仲が悪くなかったら、連絡先を交換するでしょう? 特に私達三人は、お互いのシフトの把握が必須なんだからさ。無いって事は、なにか事情があるんだよね?」
「えーっと…あっ、思い出したっ! 私のスマホ最近、調子悪いんですよ~。
理由はそれだけですよ。直ったら、穂紫さんとアカウントの交換してもらいますね」
「私とナナちゃん、しょっちゅうライン使ってるよね? シフトの相談やら雑談とかで。ナナちゃんは、いつだって即レスくれるじゃん。本当に壊れてるの?」
「夜は調子いいんですけどねぇ~。とにかく、修理しておきますね」
「ふーん。じゃあ次のお話。そのラインに、映画の無料券が送信されていたんだよね。日時を見ると、私と柚海君がケンカをした後。そして彼は私を映画に誘ってきた。その『無料券をくれた人に勧められた』って考えるのが普通じゃない? そして、私と柚海君のケンカを見ていたのは、ナナちゃんしかいないんだ。」
「えーっと…あっ、思い出したっ! それはですねー」
「それは?」
「それは…、えーっと…」
瑠季の顔色がみるみる青ざめていく。
里桜は優しく言った。
「ナナちゃん、ごめんね。別にイジメる気もないし、追い詰める気も無いよ。
でも、こうでもしないと、本当の事を教えてくれないから」
「…」
「私、ナナちゃんに悪い感情は持っていないよ。だってナナちゃんの行動って、ぜんぶ柚海君の幸せにつながっていくだもん。私が戸惑ったり、遠慮したりしている事をガンガンやっていてさ。感謝しているぐらいだよ」
「…」
「だからさ、話して。きっと、私とナナちゃんの目指しているトコロは同じだよ。
柚海君に知られたくないなら、絶対に話さない。約束するからさ」
「…いつからですか?」
「なんの事?」
「いつから、私の事をおかしいと思ってたんですか?」
「勤務の初日だね」
「えっ? それはウソですよ。そんなハズない。私が穂紫さんを見ていたからですか?」
「それもあるけどね。一番はナナちゃんじゃなくて、柚海君を見ておかしいと思ったんだ」
「穂紫さん?」
「うん。何度もナナちゃんの事を見るんだよね。最初は、ナナちゃんを気に入ったのかと思った。見た目がタイプなのかなって。でも、柚海君の表情が柔らかくてさ。例えるなら、家族と久しぶりに会ったみたいな感じ。父親や兄が、娘や妹を見守る感じがして。二年間一緒にいるけど、そんな顔は初めて見たよ。だから、ほんの少しだけ思ったの。『この子となにかあるのかも』ってね」
「そうだったんですか…。分かりました。お話します」
「話を聴く前に、三つ言っていいかな? まず一つ目。私、マンションの張り込みなんてしてないからね。ただのハッタリだよ」
「えーっ!」
「当たり前でしょう? そんなトコロ、商店街の人に見つかったらどうすんの?」
「だましましたね! ヒドイ!」
「お前が言うな!」
「あっ、すんません」
「二つ目。さっき…ナナちゃんがお店でコケるちょっと前。あんた、私の事をジロジロ見ていたでしょう? いや~な目つきだったよ」
「あ…、見ていたのは認めます。目つき悪かったですか?」
「うん、いや~な目つき。スケベなおじさんにお尻見られているみたいなさ。
何かエッチな事を想像していたでしょう?」
瑠季は大慌てで両手を振った。
「してません! してません! エッチな事なんてっ!」
「アハハッ、まあ許してあげるよ。ナナちゃんが想像しているような事は、なにもないから安心してね。最後にあと一つ。もうアイス食べようよ。お腹空かせてると、いいお話できないからさ。そのイチゴ味のシャーベット、人気なんだよ」
「はい、ちゃんと味わって食べますね。緊張しすぎて、イチゴの味がしませんでしたから」
「警察の取り調べをしているみたいで、ちょっと面白かったな」
「私は大変だったんですよっ! 刑事さんっ!」
「まっ、イチゴのシャーベットでも食べな」
「『カツ丼食べな』みたいな口調で言わないでください」
「フフッ、あっ、思い出した! 『アレ』は約束通りやってよね?」
「アレって?」
「二リットルのペットボトル一気飲み。コーラとお茶、どっちにする?」
「もうっ! 里桜さんの意地悪っ!」
「アハハッ!」




