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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
異世界の旅路編

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99_金の卵を産む鶏

第99話です。

情けは人の為ならず、アニタさんを始めとする商人ギルドのモットーは何をもたらすのか?

私たちは、村の入り口近くのひらけた野営地で夜を越した。ここは村の近くだし、他にも野営をしている旅人がいたので火の番は必要ない。私とビョルンさんはそれぞれの毛布に包まって、焚き火の熱を感じながら眠りにつく。その日はなんだかいい夢を見た気がした。


「んん……ぅぶっ!?」


朝日が眩しくて寝返りを打つと、何か柔らかいものにぶつかった。見上げると、二人の小さな男の子が私を見下ろしていた。私は状況を飲み込めずに、男の子たちの顔を見比べる。


「君たちは、昨日の……?」


アラクネの巣から助け出した子供達に間違いないだろう。が、なぜ目の前にいるのかが分からない。


「体はもう平気なの?」


私が尋ねると、片方の栗毛の男の子は前歯が抜けた明るい笑顔を見せ、もう片方の黒髪の男の子は控えめにはにかんだ。二人の笑顔は昨日の青白い病人のような顔ではなく、溌剌とした少年特有の顔だった。

 

「うん!俺たち、もうなんともないよ!」


「……お姉ちゃんとお兄ちゃんのおかげだって、母さんが言ってた。ありがとう」


すっかり元気になった男の子たちは、私の毛布を掴んで起こそうとしてくる。その人懐っこい様子に困惑するものの、悪い気はしない。


「母ちゃんが朝ごはん作ってくれたんだ。姉ちゃんたちも食べていってよ」


「母さんのスープ、すっごくおいしいんだよ」


「そうなんだ。じゃあ、冷める前に食べないとだね!」


私は起き上がって男の子たちの頭を撫でると、隣で未だ鼻風船を膨らませている相棒を叩き起こしたのだった。  

   


男の子は兄弟で、栗毛で活発な子はジナ、黒髪でおとなしい子はフリンと言う名前だそうだ。私の右手をジナ君、左手をフリン君と繋いで家まで案内してもらった。寝起きのビョルンさんは不機嫌そうに少し後ろをついてくる。招き入れられた家に入ると、野菜のスープと肉の焼けるいい匂いが鼻をくすぐった。


「母ちゃん、ただいまっ!」


「おかえり。……あぁ!よかった、来てくださったんですね」


調理場にいた母親は、鍋から手を離して私たちを笑顔で迎え入れてくれた。その顔は昨日の暗い顔とは打って変わって、晴れやかで優しいものだったので、ひとまず胸を撫で下ろす。


「昨日はろくにお礼も言えず申し訳ありませんでした。私はハンナと申します。昨日は子供たちを助けていただき、本当にありがとうございました」


丁寧な言葉と共に深々とお礼をしてくれるハンナさん。その時初めて、私たちはまだ自己紹介すらしていないことに気がついた。


「こちらこそ自己紹介が遅れて申し訳ありません。私はルナ、こちらはビョルンと申します」


落ち着かなさそうにしているビョルンさんの脇を肘で突き、ハンナさんを安心させるように笑顔を見せた。

 

「商人として、困っている方を見捨てられませんから。ね、ビョルンさん」


「……フン」


「えっ!姉ちゃんたち、冒険者じゃなかったの?」


私の言葉にジナ君が意外そうな声をあげて、フリン君も驚いた顔でビョルンさんを見ている。たしかに私たちはあまり商人らしくない風貌かもしれない。ビョルンさんなんて、腰に剣ぶら下げてるし。


「ビョルンさんは剣も魔法も強いけど、ポーションも作れるすごい人なんだよ」


私はジナ君とフリン君の頭を撫でながら言うと、二人は目を輝かせてビョルンさんを見た。その羨望の眼差しに、ビョルンさんは逃げるように顔を背ける。まるで『そんな目で見るな』とでも言いたげだが、それを言葉に出すことは私が許さない。笑顔のままビョルンさんに圧を送ると、珍しくウッとたじろいだ。


「まずはお礼として朝食をご馳走させてください。ジナ、フリン、案内してさしあげて」


ハンナさんの言葉に、二人は私の両手を引いて食卓に案内してくれる。食卓には新鮮な野菜のサラダと潰した芋、中央には丸焼きにしたクックホッパー(鶏)が鎮座していた。朝食と呼ぶにはあまりに豪華な食事に、私とビョルンさんは顔を見合わせる。 

 

「母ちゃんは、領主様のところで働いてたんだよ。だからすっごくおいしい!」


「野菜は今日、僕とジナが採ってきたんだ。おいしい野菜、食べてほしくて」


小さく無垢な優しさに胸が温かくなる。なにより、昨日失われかけていた命がこうして元気に過ごしていることが嬉しかった。 

     

「毒が抜けたからといって、まだ体調は万全ではない。今日は安静にしていろ」


ビョルンさんが静かな声で諌めるように言うと、二人はびくりと肩を跳ねさせる。二人にとって大男が低い声を出せば、叱られたと怖がってしまうだろうに。

ビョルンさんに文句を言おうと口を開きかけたけれど、彼は私が言葉を発する前に男の子二人の頭にぼすっと大きな手を置いた。


「……が、仕事には対価が必要だ。対価として、今日のところはこれを渡しておく」


そう言って二人に差し出したのは、以前二人で作った『疲労回復ポーションキャンディ』だった。調理場にいたハンナさんは驚いたようにこちらに駆け寄って、首を横に振ってキャンディをビョルンさんの手元に押し戻す。


「これ以上はいただけません!ポーションの代金も、その……お恥ずかしいながら、これだけしか持ち合わせがなくて。本当に、申し訳ありません……!」


ハンナさんが引き出しから取り出して、私の手に握らせたのは小さな革袋だった。その中には銅貨が10枚と銀貨が2枚。昨日使用した毒気し草や素材、ポーションキャンディを合わせても銀貨数枚は足りない金額だ。頭を下げながら目に涙を浮かべる母親を、子供達は不安げに見上げていた。


しかし、ビョルンさんは興味なさげに革袋を見下ろし、ハンナさんの手にキャンディの瓶を乗せた。


「勘違いをするな。我々はただ『採集の間に拾い物をした』に過ぎん。これは朝食に招かれたことに対する礼儀だ」


「ですが……」


 ビョルンさんは肩をすくめて、私の方を見る。その目がスッと細められて、なんだか嫌な予感がした。 


「それよりも、この小娘の腹の虫が騒々しい。さっさと卓につかせろ」


「あなたがお腹すいてるだけでしょ、それ!」


反射的にツッコミを入れるが、ビョルンさんはどこ吹く風とでも言うように完全無視を決め込んだ。私の慌てた様子が面白かったのか、ジナ君とフリン君もくすくすケラケラと楽しそうに笑い始める。その様子をビョルンさんは前髪に隠れたライムグリーンの瞳で満足げに見ていた。


まったく、本当に意地悪で不器用な人なんだから! 


 

そうして私たちはハンナさんのとてもおいしいご馳走をいただき、優雅な朝を過ごした。そろそろお暇しようか、なんて話していた頃にハンナさんの家の玄関口が開いて、来客を告げる。


「昨日は、村の子供達を助けていただいたようで」


「い、いえ。恐縮です」

 

小綺麗な格好をした村長が現れ、私とビョルンさんに頭を下げた。突然の登場にあっけに取られるが、粗相をするわけにもいかず姿勢を正す。


「不思議なポーションで子供たちを解毒したと伺っております。ぜひそちらを売ってはいただけませんか」


「えっ」


「もちろん、それ以外のポーションや薬草も買い取らせていただきたい。通常価格よりも高い値段で構いません」

      

突然持ちかけられたビジネスチャンスに、ビョルンさんと顔を見合わせる。正直なところ、この村での商いは諦めていたから、願ってもない提案だ。

尊重は私たちに近づくと、囁くように教えてくれる。


「実はアラクネの巣の奥にダンジョンを発見しましてな。ダンジョン発見の報酬と今後の冒険者たちへの支援も兼ねて、ぜひともお二人にはご協力を賜りたく」


「だ、ダンジョン発見ってことですか……?」


「ギルドに申請すれば、金貨50枚の報酬はくだらん。規模が大きければそれ以上の報酬もあり得る」


「えぇえッ!?」


叫び声をあげてしまって、慌てて自分の口を押さえる。いや、だって。赤字覚悟で臨んだプロジェクトがまさかの金の卵を産む鶏だったなんて、夢にも思わなかったんだもの。まさかこれも、私の『招き猫』スキルによるものだろうか。


「これから忙しくなるぞ、小娘」 


ビョルンさんの声は面倒くさそうに間延びしていた。私は急展開についていけずに、随分と腑抜けた返事を返した。 

 

ビョルンさんの言葉の通り、それからは随分と忙しかった。

討伐したアラクネの解体、ギルドへの報告、村長との話し合い、ポーションの作成と納品……目の前の仕事に追われて、あっという間に三日が経過していた。  


「ほんとに、もういっちゃうの」


「やだ!もっと話したい!」


ジナ君とフリン君が目に涙を浮かべて、別れを惜しんでくれた。そしてジナ君はビョルンさんを見上げて、決意したように言う。


「俺、兄ちゃんみたいに強い人になりたい。そんで、兄ちゃんみたいに困ってる人を助けんだ」


「そうか」


ビョルンさんはぶっきらぼうだけど、穏やかな声で返事をした。


「なら、毎日剣を振れ。そうすれば自ずと力が身につく」


ジナ君はアドバイスがもらえると思っていなかったのか、ぱあっと顔を輝かせた。そして力強く頷いて、前歯のぬけた明るい笑顔を見せた。


「もし俺が立派な冒険者になったら、その時はポーションのお金払うから!」


「ぼ、僕も。お姉さんみたいな商売人になったら、たくさんお金払うよ」


ジナ君に続いてフリン君も、覚悟を決めたような強い眼差しでそう言った。


「そっか。じゃあ、楽しみにしてるね」 


そうして二人の男の子は新しい夢を抱いて、母親の待つ家へとかけていく。その小さな後ろ姿を見送りながら、私は目を細めた。

私はあの子達が大人になる頃には元の世界に戻っていて、この世界にはいないかもしれない。それでも、ビョルンさんはこの世界で何十、何百もの時を重ねる。

あの子達がビョルンさんのことを忘れないといいな。そう願わずにはいられない。


「いきましょうか、ビョルンさん」


「思わぬ足止めを食らった」


「金貨75枚の報酬があったんだから、よしとしましょうよ」


私はビョルンさんの隣に並んで笑う。もう少しだけ、この世界を見てみたいという気持ちに蓋をして。  

  

最後まで読んでいただきありがとうございます。

このお話で『異世界の旅路』編は完結です。明日から第2章に突入いたします。引き続きお付き合いいたけると幸いです。


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※次回第100話『幸運の兆し』更新は3月15日18時です

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