09_召喚者ならユニークスキルくらい許される?
第9話です。
俺TUEEEEが出来ない系主人公。地道に頑張りましょう
09_召喚者ならユニークスキルくらい許される?
翌朝。ビョルンさんは約束通り、ルーンデールの街を見下ろす丘の上に立つ教会に連れて行ってくれた。清々しく晴れていた昨日とは違う、分厚い雨雲が空を覆う曇り空。風はぬるくて湿っている。
石段を昇った先にある教会は石造りで、ギルドとは対照的な静けさに満ちていた。壁の石は氷のように冷たい印象を与え、柵はまるで牢獄の鉄格子のよう。悪天候も相まってなのか、全体がまるで墓場のように陰鬱な雰囲気に包まれていて、RPGゲームではなくホラー映画にでも出てきそうな教会だった。
「本当にここが教会、ですか……?」
「そうだ」
なにか文句があるのか。とでもいいたげな視線に激しく首を横に振る。
「いえ!なんだかとっても、お、趣のある場所だなぁと思いまして!」
「昼間にアンデッドは出ない」
「夜なら出るんだ…?」
「アンデッドなのだから当然だろう」
「ひぃ!遭遇しませんように……!!!」
やっぱり怪しい雰囲気ってことは分かってるんじゃん。ビョルンさんの後ろにピッタリくっついて、マントを掴む。ビョルンさんは鬱陶しそうに舌打ちをしたが、振り払うことはしなかった。
重い木の扉を開けるが、聖堂には誰もいない。薄暗くてひんやりとした空気と、寂れたステンドグラスがより一層冷たさを感じさせる。思い切って一声あげてみる。
「あのぅ、ごめんください」
しかし誰も来なかった。
「あのー!ごめんください!!」
しかし誰も来なかった、二回目。
心底迷惑そうにしているビョルンさんを無視して、今度こそと思い大きく息を吸い込む。
「ご・め・ん・く・だ・さ」
「何か御用でしょうか?」
「ぃ、げっほごほ!!」
声を上げた直後に可愛らしい声が聞こえて、思わず噎せた。聖堂の奥から出てきたのは、可愛らしい声にふさわしい風貌の可憐なシスターだった。
「す、すみません、息が、ごほっ、ええと」
「司祭に用がある」
シスターは驚いたように口元に手を当てて、ひとつお辞儀をした。
「すぐにお呼びいたしますので、そちらにおかけになって少々お待ちください」
促されるままに静かな礼拝堂を抜け、最前列の椅子に座る。ステンドグラスはホコリが被っていて、お世辞にも手入れが行き届いているようには思えない。古いとかの次元ではないでしょうに。
「教会って、他のところもこんな感じなんですか?」
「知らん。エルフは人間の神に祈ることはない」
「種族ごとに宗教観の違いがあるんですね」
自分が信じる宗教じゃないのに、ここまで同行してくれたのはやはり彼が優しいからだろうか。それともなにか別の理由がある?それこそアニタさんに頭が上がらないとか?
そもそも、なぜあの山道で彼は私に声をかけたのか疑問だった。彼の性格ならばまず放っておくだろうに。尋ねようとした時、聖堂の奥の扉が開いた。
「お待たせいたしました。本日はどのようなご要件で」
控え室から出てきたのは、先程のシスターに手を引かれた老紳士だった。その男性の上等そうな服装から、この教会の最高責任者であることが分かる。ビョルンさんはあとはお前が話せと言うように、顎をしゃくって目を閉じてしまった。
「えっと…私は星宮瑠奈と申します。昨日異世界人召喚の儀によって呼び出された異世界人です」
「それは、なんと……!」
司祭とシスターは突然のことに驚いて固まってしまった。たしかに初手に正体を明かすのは乱暴だったかもしれないが、緊急性が高いため目を瞑ってもらうことにする。
「単刀直入に申し上げますと、私は元の世界に戻る方法を探しております。魔術や儀式にお詳しいあなた方ならなにか情報をいただけるのではないかと思い、お伺いした次第です」
「そうでしたか。大変なご苦労をなさいましたね、ルナさん」
「恐縮です」
「しかし…ご足労いただいたのに申し訳ありません。残念ながら我が教会の情報は不十分であり、お力になれることは限られるかと」
やはりここでも情報を得るのは難しいのか。諦めかけたその時、救いの手は差し伸べられた。
「司祭様、現在のルナさんのステータスを確認することは可能なのではございませんか?」
「あぁ、たしかにそれもそうだ。いかがですかな、ルナさん?」
「はい、ぜひ!お願いします!」
今日一番の大声に、ビョルンさんは呆れたようにため息をついた。
異世界転生ものでよくある『特殊スキル』鑑定が出来るのか。このスキル次第ではチートできたり、成り上がれたりするかもしれない。淡い期待を胸に司祭の足元に跪き、頭を下げる。
「では、はじめます」
「お願いします」
司祭は私の頭に水晶をかざして、なにか呪文のようなものを唱える。水晶は眩い光を放つが、すぐに曇ってしまった。何か嫌な予感がする。
「あ、あの…?」
「ふむ、これは……」
と言ったきり、司祭はしばらく黙り込んでしまった。沈黙に耐えきれず、思わず再度尋ねる。
「鑑定はされたんでしょうか?もしかして強すぎて計測できなかったとか」
「いえ、鑑定は正常に行われました。ただ……」
「ただ?」
司祭は暗い表情のまま、静かに鑑定結果を告げた。
「体術適正…Fランク」
そりゃそう。こちとらただのOLなのだから。
「遠距離適性…Fランク」
これも驚きはない。現代人なら弓や銃なんか扱えるわけがない。
「魔法適性…Eランク」
これは少し残念。小説やゲームみたいにファイアボールとかアクアウェーブとか使ってみたかったのに。
「防御適性、鍛冶適性、錬金術適性…Dランク」
辛うじてものづくりの才能はありそうだ。
「鑑定スキル…Cランク」
この世界で一日しか過ごしていないのに平均的な審美眼を持っているというのなら、上々では?
「以上ですね」
「ええぇっ!?ウソ、それだけ!?」
「はい、それだけです」
あまりにもパッとしないステータスに、おもわず声が出た。どのステータスも平均かそれ以下、つまり私のステータスは平均以下ということ!?私は一般市民Aなのか!?
「どうやらルナさんは、他の異邦人の方々に見受けられる秀でた才能は持ち合わせていらっしゃらないようです」
「そんなぁ…」
ガックリと項垂れて、座り込む。異世界というファンタジーに浮かれていた興奮を返して欲しい。急に呼び出しておいて何も与えないなんて、あまりにも理不尽過ぎやしませんか?
「ただ」
「ただ?」
「別途のユニークスキルがあるようで」
「ユニークスキル!」
なるほど。不遇からの大逆転は物語の王道。一般ステータスの向上ではなく、特殊能力というチートという手段があったか。内容次第では未来予知とか無限レベルアップとか、いわゆる『俺TUEEEE』ムーブが出来てしまうのでは!?
「ルナさんのユニークスキルは、『招き猫』と書かれております」
「ま、招き猫…?」
招き猫って、あの招き猫じゃあるまいな。そう思って手帳に挟んだ招き猫のステッカーを取り出す。
「なんだ、それは」
「私の世界での『招き猫』といえばこんな感じの猫のことを指すんです。幸運や商売繁盛を招く縁起物なんですよ」
「その間抜け面が?」
「たしかにこの子はちょっと抜けた顔してますけど!」
ビョルンさんと顔を見合わせた。
「この猫が貴様のスキルとなんの関係があるんだ」
「さぁ…?」
それはこちらが聞きたいですよ。
私の世界では幸運の存在でも、この世界でどう作用するのか。全く見当もつかない。
「本当に何も分からないんですか?」
司祭に向き直ると、彼は額に汗を浮かべて困ったように笑った。
「いやはやなんとも……この異能がどのような効果や作用を持つのか、発動条件すら全く分かりません」
「話にならんな」
「うぅ…ユニークスキルがあっても、効果も条件も分からなかったら、無いのも同じですよ。むしろリスクです」
頼みの綱であったユニークスキルも想像していたものとは全くの別物だった。つまり、私がこの世界で武器にできるものは、正直よく分からんスキルとこの身ひとつということになる。華々しい魔法もなければ、サポート力もない。辛うじて下級ポーションを作成できる程度で、きっとそれはビョルンさんの商品の足元にも及ばない。
「はぁ…これからどうしたら……」
このステータスでこんな世界を生き延びられる気はしない。
「…田舎に帰りたい」
ぽつりと呟いた独り言は、冷たいタイルの床に沈んだ。その言葉を聞いたビョルンさんの耳が揺れたことになんて気付かずに、私は深いため息をついた。
落ち込んでしまった私を見てオロオロとしていた司祭は、明るい声で言う。
「異世界人召喚の儀の全貌や、ユニークスキルの情報をお求めになるのならば、数千年の歴史を持つ膨大な記録が保管されている場所をご紹介しますよ」
「ほ、本当ですか!?」
「えぇ、本当ですとも。王都の大教会に行けば、きっと勇者様や大賢者様がお力になってくださるはずです」
司祭の言葉を聞いた瞬間、ビョルンさんが目を見開いた。私は喜ばしい情報提供より、彼の変化の方に気を取られて彼の顔を覗き込んだ。
「ビョルンさん?」
彼の身体はわずかに震え、フードの下の瞳は私を見ていない。どこか遠くの情景を見ているその目には恐れの感情が滲んでいた。
「王都は駄目だ」
「え?」
司祭やシスターには聞こえないほどの小声で囁いて、私の腕を掴んだ。
「王都はろくな場所ではない。あそこは欲望と欺瞞が渦巻く場所だ」
「危険な場所である、と?」
ビョルンさんは黙ったまま頷いた。その強烈な拒絶の背景に一体何があるのか、検討もつかなかった。しかし彼が悪意を持って、私を妨害しようとしている訳では無いことは理解できる。
「何かお困りごとですか? ルーンデールから王都までは長い道のりですが、私の推薦であれば入城することも可能かと」
司祭はそう申し出てくれたけれど、私は首を横に振り笑顔で頭を下げた。
「いえ、今後の身の振り方についてはもう少し考えようと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました」
「……行くぞ」
「ちょっ…!?ビョルンさん!」
ビョルンさんは私の返事も待たず、強引に腕を引っ張り、ズカズカと荒い足取りで出口に向かった。
その横顔はいつもの不機嫌そうなものではなく、獣のような必死さに満ちていて、私は恐怖で言葉を飲み込んだ。私はほとんど引きずられるようにして、彼について行く。
「あ…ルナさん!」
シスターが私の名前を呼んだが、ビョルンさんは止まってくれない。
「教会にも書庫はありますから、なにかお困りの際はいらしてくださいね」
「わ、わかりました!ありがとうございます、シスターさん!」
辛うじてお礼を伝え、ビョルンさんに引きずられるまま教会を後にした。不気味な玄関扉が閉まる重い音は、不安を増長させるのには十分だった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回も引き続きよろしくお願いいたします
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※次回更新は1月10日18時です




