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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
VS 領主夫人ハル編

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65/76

65_その企みは誰のため?

第66話です。

『水鏡の妙薬』の効果を覚えていらっしゃいますか?それはエルフの秘薬、真実しか話せなくなってしまう魔法の薬です。それをひとたび飲んでしまえばどうなるか、結末をご覧ください。

「そんなの決まってるじゃない。もちろん愛……」

 

ハルの言葉が、途中で奇妙に引き攣った。喉の奥からせり上がってくる、意思に反した真実の奔流。彼女は自分の喉をかきむしるようにして抑え込もうとするが、『水鏡の妙薬』の効力は無慈悲だった。

 

「あい…あ、愛し…」

 

ハルの目が見開かれて、先程の鈴を転がしたような声とは違って、掠れてしゃがれた老婆のような声を絞り出す。

  

「愛してる……わけ、ないじゃない! 気持ち悪い!!」

 

ホールに、突き刺さるようなハルの絶叫が響き渡った。

先ほどまでの甘い囁きとは似ても似つかない、どす黒い本音が、堰を切ったように溢れ出す。

 

「こんな冴えないオッサンのどこを好きになれっての!? 私はただ、こいつの持つ金と権力が欲しかっただけよ! 領民? 税金? 知ったこっちゃないわ! 」

 

会場の空気が、一瞬で凍りついて静まり返る。ハルの顔は蒼白で、脂汗が額に滲んでいた。

 

「あぁ、ちがう……他の男どもが持ってくるものも全部くだらない!……違う、違うのよぉ!」

 

ハルの狼狽えた様子に、今まで彼女の魅了に絆されていた男たちは次々と顔を蒼白にさせていく。その醜悪な姿に、甘美な魔法は剥がれていく。

 

「っ、だいたい、あんたが悪いのよ! 私は知らない世界に来たくなんかなかった!私は勝手に連れてこられた被害者なの!」

 

ハルは狂ったように笑い出し、伯爵の胸元に突っかかった。

 

「『異世界人召還』?勝手に召喚しておいてなにが『私の女神』よ!?あんたが嫁に愛想尽かしたからって、都合のいい女を呼び寄せたってことでしょ!?」

 

「……!!」

 

今の口ぶりなら、伯爵が『異世界人召還』を行ったということだ。伯爵は禁忌を犯して、異世界からハルを召喚した。

 

「伯爵とは話すことがあるみたいですね」

 

「さっさと終わらせて吐かせるぞ」


私とビョルンさんは、顔を見合せて頷いた。 

 

しかしハルの狂気は深まっていくばかりだ。もう真実しか言えないと諦めてしまったのか、今度は開き直ったように周囲に喚き散らす。まるで失敗を叱責された子供の駄々のように激しく、しかしどこか悲痛さを帯びている。

 

「娯楽も、スマホもない世界に呼ばれて私は退屈なの!それなら、好きなことして何が悪いの!? 贅沢して何が悪いっていうのよ!」

 

その告白に、私は胸が詰まる思いだった。ハルは伯爵の慰みものとして私たちの世界から引き剥がされて、これまでとは全く異なる生活を強いられたのだろう。

 

知らない人間、知らない環境、知らない文化。そして愛を求める見知らぬ男。

 

どれだけ苦しかっただろう、孤独だっただろう。

 

「ルナ。あなた、まさかハルに同情したとでもいうの?」

 

「……いいえ」

 

エリザベスさんの訝しげな言葉に、私は静かに首を振った。

 

ハルの感情理解はできる。しかし同情はしない。だって私は彼女によって苦しめられた人たちを目にしたから。

 

「たとえ自分が不遇であったとしても、人を傷つけてもいい理由にはなりません」

 

「そう。それを聞いて安心いたしましたわ」

 

エリザベスさんは私の言葉に微笑んだ。そして彼女は静かに、しかしはっきりとハルに問いかける。

 

「ハル、わたくしはあなたに毒を盛りましたか」

 

「っ、ちがう。自分で、入れたの。それを全部、あんたのせいにした…!横領も、毒殺未遂も、ぜんぶぜんぶ!」

 

春は喉を掻きむしりながら、しわがれた声で言葉を続けた。続けざるを得なかった。

 

「わたくしは罪を犯したのですか」

 

「ちがう、ちがうちがう…!あんたが邪魔だった!あんたがいけないのよ、私の邪魔ばっかりするからぁ!!」

 

ハルはボロボロと涙をこぼして、暴れ散らす。傍にあったグラスをエリザベスさんに向かって投げつけるが、その勢いは弱くどこにも届かない。クレイモアさんがエリザベスさんを守るように前に出た様子に、ハルは顔を引き攣らせた。


それもそのはずだ。今、この場にハルを庇い立てする者は誰もいない。

 

「もう嫌!嫌だったの!全部、ぜんぶ、だいっきらい!」

 

その姿が痛々しくて見ていられない。早く終わってほしい。


今のハルを見ていると胸が痛くて、息苦しい。真実を暴きたいと願ったのは真実だけど、同じ世界の人間としてはこれ以上彼女の悲鳴に晒されるのは耐え難い。


「ハル」


私は彼女の前まで歩み寄り、手を差し伸べた。もうあなたは苦しまなくていい。罪を認めて、償ってほしい。

そんな思いで、手を伸ばした。


「もう、終わりにしよう?」  

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回も引き続きよろしくお願いいたします

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※次回66話『狂気の始まり』の更新は2月20日12時です

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