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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
04_VS 魅了の魔女 ハル編

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63_お貴族流害虫駆除

「随分と賑やかなご様子でしたけれど。お邪魔してしまったかしら?」


 声の主は、ひとりの淑女だった。彼女の豊かな金の糸は緩やかなウェーブを描き、髪飾りすら不要なほど、編み込まれた金の糸が彼女の気品を物語っていた。


 漆黒のドレスはシャンデリアの光を吸い込み、まるで彼女自身から光を発しているような錯覚を抱かせる。そして極めつけは長いまつ毛に縁取られた、決意に満ちたサファイアの瞳がどんな宝石よりも強く輝いていた。


「エリザベスさん!」


 思わず私が彼女の名前を呼んだことで、周囲が大きくどよめく。男たちは敵意をむき出し、女たちは驚きの顔を扇で隠している。そして最も動揺しているのは、元夫であるルーンデール伯爵だ。


「エリザベス・フィッツィガルディ!? これはどういうことだ、説明しろ!」


 顔を真っ赤にして声を荒らげる伯爵に対して、エリザベスさんは豊かな羽飾りのついた扇で口元を隠して静かに見つめ返した。


「随分なご挨拶ですわね、旦那様。一度は婚姻を結んでいた間柄ですのに」


「黙れ!!」


 伯爵の怒号がビリビリと空気を揺らす。しかしエリザベスさんは動じない。


「わたくしも、バジル商会長から招待状を頂きましたの」


 エリザベスさんはさも当然というように、首を傾げて一枚の招待状を取り出して見せた。そこには確かにバジル商会の紋章が刻まれていて、本物であることが見て取れる。伯爵は狼狽え、しかし負けじと言い返す。


「そもそも……! 貴様は修道院へ追放したはずだ。出られるはずもない!」


「ご心配なく。執政クレイモアより外出の許可を頂いておりますから」


「クレイモアだと!?」


 カツン、と革靴の音が響き、一人の役人がホールに入場する。


「領主様に、ご挨拶申し上げます」


 その声の主は誰もが知っている、最も誠実で忠臣として名を馳せた『執政クレイモア』だった。彼は今、領主であるルーンデール伯爵の傍らではなく追放されたはずのエリザベスに連れ添うように立っている。


 彼は恭しく一礼して、エリザベスの手を取り、主君である伯爵に向き直り、堂々と宣った。


「本日をもって、自分はエリザベス様の従者としてお仕えすることにいたしました」


「な……!? 貴様、その魔女に魅入られたというのか!」


「魔女に魅入られたのはあなたです!」


 クレイモアさんの叫びがホールに木霊した。彼もきっと今の状況に思うところがあるのだろう。その叫びは悲痛さすら帯びていて、痛々しい。


「エリザベス様は、このルーンデールを魔の手から救うために立ち上がった偉大なお方だ。何人たりとも触れることは許さない、たとえこの地の主であったとしても!」


 クレイモアさんは叫びとともに剣を抜き、近衛兵たちは彼女とエリザベスさんに無数の剣を向けた。しかしエリザベスさんは臆することなく、ルーンデール伯爵とハルを静かに見つめていた。 


「あ、んたは……っ!」


 エリザベスさんの顔を見たハルは、顔を般若のように歪ませた。先ほどまでの笑顔はどこへやら、声は怒りで震えている。しかし流石は猫被りのプロ、何事もなかったかのようにいつもの人形のような笑みで、上品に扇子を持ち直した。


「久しぶりじゃない、エリザベス。ここがどこだかわかってる? 毎日神様に祈りすぎて、ついに頭がおかしくなったんじゃないの?」


 扇子を握り締め、吐き捨てるように言い放つハル。


「ここは私の、私のためのパーティなの。邪魔しないでくれる?」


 対するエリザベスさんは、優雅に、そして余裕たっぷりに扇を広げて口元を隠した。その瞳には、怒りではなく哀れみの色が滲んでいる。


「お元気なご様子で安心いたしましたわ。玄関ホールまで、その溌剌としたお声が響いてきましてよ。今の貴女は伯爵夫人なのですから、少しは淑女の慎みを学ばれたらいかが? 」


 扇の下からふっと息の漏れる声が聞こえる。


「あら、ごめんあそばせ。貴女に作法を説くのは、石に歌を教えるより難しいことでしたわね」


「は……?」


 ビキ、とハルの額に青筋が立つが、エリザベスさんは意に介さない。彼女はクレイモアさんにエスコートされながら、コツコツと高らかにヒールを鳴らして、ハルと伯爵の元に歩き出す。彼女を避けるように参加者たちは後退り、中には頭を垂れる淑女もいた。


 それほどにエリザベスさんの纏うオーラは気品にあふれており、凡人にとって相当なプレッシャーとなるのだ。


「それに、その装い。まるで求愛の時期を勘違いした雄鶏のようで素敵ですわね。重さでその細い首が折れてしまわないか、心配で夜も眠れそうにありませんけれど」


 ホールを歩くエリザベスさんから放たれる言葉は、氷柱のように冷たく鋭い。だけど、先程まで散々振り回された私からすれば、エリザベスさんの皮肉はとても気分がいい。もっと言ってやってください、とばかりに内心ではガッツポーズをしていた。


 ハルはフンと鼻を鳴らして、自分の胸元に輝く最高級の宝石を掴みながら叫ぶ。


「あんたは旦那様からこんなに立派な宝石を貰ったことなかったんだっけ? 十年も連れ添ってたっていうのに、かっわいそう!」


 ハルが伯爵の腕に縋り付くようにして勝ち誇った笑顔を見せる。その言葉はエリザベスさんにとって傷を抉るナイフのように鋭いものだった。


 しかし、エリザベスさんは微動だにせず、ふっと鼻で笑った。


「わたくしには不要なんですもの。金や銀で着飾ったところで、育ちの悪さというのは隠せないものですわよ」


「この……っ!!」


 ハルが激昂して一歩踏み出す。だが、その前にクレイモアさんが冷徹な壁となって立ちはだかった。エリザベスさんは彼女を制するように手で止め、ツカツカと歩いて来て私の目の前で立ち止まった。


「ハル、貴女とのお話を続けていたい気持ちはありますが、わたくしも暇ではありませんの。本題に移りましょう。ルナ、例のものを」


『例のもの』とはつまり、クレイモアさんとアニタさんが仕上げた『領主とハルの税金の使い込みによる虚偽申告』の証拠品だ。クラッチバックから羊皮氏を取り出して、エリザベスさんのその白い手のひらに乗せる。


「お集まりの紳士淑女の皆様。よくお聞きなさい。これから始まるのは、ただの糾弾ではありませんわ」


 受け取った羊皮紙を、エリザベスさんは優雅な仕草でパッと広げた。


「虐げられたルーンデールの民、そして無実の罪を着せられたわたくしから領主夫妻への断罪劇ですわ」


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石に歌を、とかの言い回し好きです
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