表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
エルフの里帰り編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

122/123

122_三つ首ワンちゃんミニベロス

第122話です。

ようやく再会できたOLとエルフ。そして、とうとうこのシリーズにマスコットキャラクターが登場!?

 それからの記憶は曖昧だ。疲れ果てた私はその場にばったりと倒れたところまでは覚えてる。


「うひひ……やめて、くすぐったいってば……」


 顔中に広がる、湿り気を帯びた温かい感触。それも、一箇所じゃない。右頬、左頬、そしておでこを同時に力強く舐め回される感覚に、私はたまらず目を覚ました。


「……あ、おはよう。……って、ええええええっ!?」


 飛び起きようとして、体が重石に沈められたように動かない。視線を下に落とすと、そこには昨日、闘技場で私を組み伏せた「地獄の番犬」……の、ミニチュア版が鎮座していた。


「クゥン!」


「ワンッ!」


「ハフッ!」


 三つの頭がそれぞれ異なる声を上げ、尻尾をちぎれんばかりに振っている。サイズは中型犬ほど。昨日の山のような巨体はどこへやら、今はもふもふの毛並みが眩しい、なんとも愛くるしい三つ頭の子犬が私の腹の上で寛いでいた。


「目覚めたか」


 部屋の隅、窓際の椅子に腰掛けていた人物が魔導書から視線を上げた。小麦のような金髪を朝日になびかせ、相変わらず整いすぎた顔で、居心地悪そうにしているビョルンさんがそこにいた。


「ビョルンさん、これ……! この子たち、どうしちゃったんですか!?」


「あの巨体で街を歩かせるわけにもいくまい。魔法で一時的にその姿に固定した」


「そんなことできるんだ」


「足輪には触るな。それで大きさを制御している」


「なるほど。この魔法道具のおかげなんですね」


 私が魔法道具を付けられたケルベロスの足を撫でながら呟くと、ビョルンさんはふい、と視線を逸らした。


「お前が不用心にも鎖を外したからだ」


「でも、あの状況を切り抜けるにはああするしかなくて」


「魔物を縮ませるなど、相当の腕を持つ魔術師でなければ不可能だぞ」


「そうなんですか?」


「そうだ」


 なんだか会話のズレというか、いつものように噛み合わないように感じる。ううん、なんでだ?


 見るとビョルンさんが何かを言いたげにチラチラと私を見て、耳を揺らしている。


「えーと、ありがとう……ございます?」


「……ふん」


 ようやく満足したのか、鼻を鳴らして椅子の上にふんぞり返った。まさかとは思うけど、私に褒められるのを待っていたとか? あの仏頂面の偏屈家が?


 いやいやまさか、そんなわけ。私は頭の中の仮定を即座に否定した。 


「ところで、ここは何処ですか?」 


「ポルタ・サレの端にある、古い宿屋だ。闘技場の騒ぎが落ち着くまで身を隠す必要があった」


 窓の外を見ると、潮の香りが微かに混じった風が吹き込んできました。昨夜の狂乱が嘘のような、静かな朝だ。

 でも、私の腹の上では『クゥン!』と三つの頭が我先にと喉を鳴らし、甘えてくる。三つも頭があるから撫でる手が忙しい。


「ふふ、可愛い。あ、そうだ、ビョルンさん! この子たちの維持費も慰謝料に上乗せしておきますからね」


「好きにしろ」


 ビョルンさんはぶっきらぼうにそう言うと、再び魔導書に目を落とした。その横顔を眺めながら、私は三頭の子犬の頭を順番に撫でてあげる。


「あ、そうだ。名前つけなきゃ」


「わふ?」


 小さくなったケルベロスの身体の色は灰色で、頭のてっぺんの毛並みが左の子は黒、右は白、真ん中は黒と白のブチ柄になっている。とすると、つけられる名前は一つだけ。 


「左のあなたは『クロ』、右のあなたは『シロ』、真ん中のあなたは『ブチ』ね!」


 自信満々に言い放つと、ビョルンさんは呆れたように大きなため息をついた。


「なんですか。私のネーミングセンスに文句でもありますか?」


「……別に」


 彼はなにか言いたげにしていたが、満足そうなケルベロスの様子を見て言葉を引っ込めた。


「これからよろしくね」


 私は小さなケルベロス……もとい、ミニベロスを抱きしめる。するとミニベロスはそれぞれじゃれつくように私の手や顔を舐めて、甘えてきた。


「この子達のエサ代はかかっちゃうけど、心強い番犬ですよね」


「さぁな。その辺の犬よりは賢いとは思うが、魔獣にしては腑抜けたツラだ」


「なんてこと言うんですか、こんなにかわいいのに」


 冷たい台詞に私が食ってかかると、ビョルンさんは肩を竦めて困った顔をした。なんだか再会してから、ビョルンさんの様子がおかしい。


「ビョルンさん、もしかして調子が悪いんですか?」


 ……と、そこで思い出した。ビョルンさんはオークの集落を離れて、私を助けに来てくれたことに。


「あ……その、すみません。私のせいで、調べ物を中断させてしまって」


 私は視線を落として、謝罪を述べた。いや、十日以上放っておかれたことに対して怒っていたけれど、私が冒険者に捕まってしまったことは私の過失であるわけで。


「構わない」


 ビョルンさんの声は優しかった。言葉にはしないけれど、ビョルンさんがとても安心していることが伝わって、なんだかくすぐったい。


「だが、無茶をしすぎだ」


 今度は少し声が低くなった。怒っているのではなく、親が子供に言い聞かせるような口調。角が取れたような言葉に、私は何も言い返せない。ビョルンさんから、こんなにもまっすぐな感情をぶつけられたのは初めてだったから。


 ぐううぅう。


「飯にするか」


 答えられないでいると、代わりに返事をするようにお腹が鳴った。そういえば、捕まってからまともなご飯を食べていないことを思い出す。顔から火が出るくらい熱くてそっぽを向くと、ビョルンさんが喉の奥で笑った気配がした。


「食堂で適当に見繕ってくる。駄犬と大人しくしていろ」


 ぶっきらぼうに言うと、魔導書を置いて立ち上がる。そして、ポン、と私の頭に手を置いてから部屋を出ていった。


 もう一度言う。ポン、と私の頭に手を置いてから部屋を出ていった。


「は?」


 私の呟きは、ドアの閉まる音にかき消された。しかしその頭の上にほのかに残る、大きな手のひらの温度はなかなか消えなかった。 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回も引き続きよろしくお願いいたします

画面下より☆の評価、感想、レビュー、リアクションなど、ポチっとお気軽にいただけると嬉しいです!いつもしてくださる方、本当にありがとうございます。励みになります。

※次回第123話『日本人が欲するもの』更新は4月7日18時です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ