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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
エルフの里帰り編

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120/127

120_檻の中の商人。ただし閲覧料は頂戴します

第120話です。

記念すべき120話目ですが、当の主人公は無事なのか……?

 冷たく硬い感触と、鼻を突く獣の臭い。目を覚ました時、視界に入ったのは錆びついた鉄格子と、不潔な藁の敷かれた家畜用の檻だった。暗くて冷たい石の壁と床。一本の松明がユラユラと揺れている。そして遠くから、地鳴りのような観客の声援が壁を伝って響いてくる。

 

「……っ、うぅ…」

 

 ズキリと腹部が疼く。冒険者たちに蹴られた衝撃が、まだ熱を持って残っていた。

 

 あれから何日経った……?


 イグニ君とジャールちゃんは無事に見つけてもらったかな。無事を祈ることしか出来ないのが、歯がゆかった。

 

「お目覚めか、お嬢ちゃん。運が良かったな。一生に一度の晴れ舞台が用意されてるぜ。最期の晴れ舞台ってやつだ」

 

 檻の外で、下卑た笑い声を上げたのは鎧に身を包んだ傭兵だった。私は痛む体を引きずりながら、鉄格子を掴んでを傭兵を睨みつける。その時初めて、自分の首に重い首輪がぶら下がっていることに気がついた。

 

「ここは、どこ……?」

 

「地下闘技場だよ。この街じゃな、商会派に逆らっちゃ生きていけねぇんだ」

 

「商会派……?」

 

 ガチャン、と乱暴に檻を開けて鎖を引いた。すると、グン! と首が外側に持っていかれて、無様に床に倒れ込む。自分の首と手首が鎖に繋がれていることに今更気がついた。

 

「ほら、さっさと歩け!」

 

 私はそのまま引きずり出され、眩い光が差し込むゲートへと押し出された。


「……!」

 

 眩しい魔導松明の光がルナを射抜き、客席からは酒に酔った観客たちの罵声と、地面を揺らすような足拍子が降り注ぐ。

 

 「さあ、本日のメインディッシュだ! オークに魂を売った裏切りの乙女! 彼女に下されるのは、聖なる審判か、それとも魔物の牙か!」

 

 投げつけられた果実が頬に当たり潰れる。私はそれを袖で拭って、客席を睨みつけた。

 

 娯楽に飢えた人間たちの顔。その下品な顔は同じ人間のものとは思いたくないほど気分の悪いものだった。こんな場所に、あの子達を連れてこようとしていたの?

 

 人間から忌み嫌われるオーク族の方が、よっぽど人情に溢れていて温かい。

 

「簡単に死んでやらないわよ、クソ野郎共!」

 

 私は腹の底からそう叫んで、司会者の隣にいる最も偉そうな仮面の男、主催者を睨みつけた。そいつは私の態度に満足したのか、少し口角を上げた。

 

 底知れぬ怒りと恐怖を奥歯で咬み殺す。こうでもしないと今にも腰が抜けてしまいそうだった。

 

「いいぞ! 今回のは活きがいい!」

 

「さっさと殺せ!」

 

 観客たちの罵声が会場を揺らす。ここには私への同情はなく、悪意だけが満ちている。ブラック企業にいた頃だって、疎まれたことはあるけれど殺意を抱かれたことはない。


 しっかりしろ、星宮瑠奈。こんなところで無様に死んでやるものか。


 死ぬならいっそ、一矢報いてから派手に死んでやる。それが武士道ってものだ。日本人の意地を見せてやろう。 


 そんな震える身体を抑えながら思い出したのは、ビョルンさんの後ろ姿だった。

 ……いいや、期待するのはやめておこう。彼は今、大事な仕事な最中なんだから。私は私の力だけで、この場を乗り切るんだ。  

  

 「最初の獲物だ! 放てッ!!」

 

 司会者の声と共に、対面の巨大な鉄門が跳ね上がる。

 闇の中から現れたのは、巨大な猪型の魔物、アンバーボアだった。

 

 琥珀色の体毛を逆立て、岩のような牙を剥き出しにして咆哮する姿は、まさに憤怒の塊。

 

『アンバーボアの特徴は、突進力と高い防御力だな。弱点は意外と小回りが利かないことと、嗅覚が良い代わりに目が良くないことなんだ』

 

 鑑定グラスはあの憎き冒険者に奪われてしまった。だけど、バッシュさんや戦士の方々から授かった教えは生きている。

 

『だから、嗅覚を麻痺させてやるとパニックなる。そうしたら勝手に木を敵だと勘違いして突っ込んでいくんだ』

 

 私は地面に落ちていた果実を拾い上げた。

 冒険者なら剣で、魔術師なら魔法で立ち向かうだろう。だが、私にはそれができない。

 

『知恵さえあれば、大きな獲物だって簡単に捕れるんだ。ルナなら大丈夫』

 

 バッシュさんはそう言ってくれた。彼の信頼に応えたい、だから私は立ち止まっていられないのだ。


 「ほら、おいで! 」


 観客たちがざわめく。司会者は手すりから身を乗り出して

 

「あの女、正気か!?」

 

 と叫んだ。アンバーボアはまんまと私の挑発に乗せられ、重い体を揺らして突進してきた。私は野球ボールのように果実を握り、その大きな鼻目掛けて投げつけた。

 

「フゴッ!?」

 

 鼻にあまい果実の匂いがこびり付いたアンバーボアは、方向を見失い、グルグルと回り始めた。

 

 「ほら、こっち! こっちにおいで!」

 

 私は壁に向かって全力疾走して、アンバーボアに向かって叫ぶ。そして声に釣られたアンバーボアはこちらに猛進してきた。これぞ猪突猛進。だが今はその愚直さが愛おしい!

 

 ガァァアン!!!

 

 アンバーボアは壁に激突して、自らの勢いで脳震盪を起こし、牙を壁にめり込ませたまま気絶した。

 

「っしゃあ!」

 

 計画通り!

 

 「ま、まさか……あの女が、魔物を攻略しただと!?」

 

 司会者の声が、信じられないというような響きを帯びる。

 

「簡単に死なないって言ったでしょ!」

 

 私は主催者と観客たちに向かって、不敵に笑ってやった。 

 

「いいぞ。ならば次だ!」

 

 休む間もなく、次の鉄門が開いた。現れたのは、岩のような皮膚と鋭いツノを持つ牛型の魔物、ストーンホーン。

 

 硬い角で突進する姿は、まさに生きた戦車だ。里で見た穏やかな姿とは違い、その瞳は薬物で血走り、角は鋭く研ぎ澄まされていた。

 

「後ろに回り込めば、あの子は自分で目を回す……!」

 

 その代わり、あの角で貫かれれば戦士でも簡単に死ぬ。

 バッシュさんの言葉を思い出して恐怖で震える足を叩き、猛進する巨獣の懐へ飛び込んだ。紙一重で角をかわし、背後へと執拗に回り込むステップ。

 

「ほら回って、お願い!」

 

 私の叫びに応じるように、ストーンホーンは自分自身の影を追うようにグルグルと旋回する。

 

「何をしている!さっさと殺せ!」

 

 司会者の怒声が響き渡るが、私はそんなこと構っている場合じゃない!

 

「うるさい!気が散る!」

 

 私は反射的に叫びながら、それでもストーンホーンの後ろに張り付いた。


 ドォオオン! 


 ストーンホーンは自らの巨体の遠心力に耐えきれず、激しい土煙と共に沈んだ。それはつまり、私の勝利を意味していた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回も引き続きよろしくお願いいたします

画面下より☆の評価、感想、レビュー、リアクションなど、ポチっとお気軽にいただけると嬉しいです!いつもしてくださる方、本当にありがとうございます。励みになります。

※次回第121話『感動の再会なんて似合わない』の更新は4月5日18時です

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