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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
エルフの里帰り編

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117/119

117_慰謝料請求待ったなし

第117話です。

エルフに叩き出されて12日目のOL。今日も今日とてオークの里で生きていくために奮闘するが、平和な里に脅威が迫っていて……?

 ビョルンさんに叩き出されて十二日目。寝床で目を覚ますと、調理場からドーラさんの大きな声が聞こえた。


「もー! あんたたち、忙しいっつってんでしょ!」


「ヤダヤダヤダ! あそんで! あそんでーっ!」


 両手に道具を抱えたドーラさんの足元に小さな子供たちがまとわりついて、ドーラさんはたいそう困ったように子供たちを避けていた。たしかに今、彼女が持っている道具は子供にぶつかると危険そうだ。私は慌てて声を掛けた。


「ドーラさん、大丈夫ですか?」


「あぁルナ! ちょうど良かった。こいつらの相手してやってくんない?」


「ルナ! ルナー!」


 私の声に気付くと、ドーラさんは心底『助かった』と安堵の表情を浮かべた。そして子供たちは一目散に私の方に走ってくるので、しゃがみ込んで全力で受け止めた。子供とはいえさすがオーク。全速力の彼らを受け止められる筋力はなくて、私は子供たちと共に地面に転がった。


「イグニ君、ジャールちゃん、今日も元気だねぇ」


 彼らは最初にお花をくれた子供たちだ。ビョルンさんに構って貰えないから、私は時々こうして構ってもらっている。


 ドーラさんは道具を置いて、ウンザリしたように腰に手を当ててため息をついた。 


「ビョルンおじさんってば、まだ部屋から出てきてないんだ?」


「時々外には出ているみたいなんですが、研究で忙しいみたいです」


「あんな風に没頭してるのは初めてみるよ。ったく、昔からユフィ叔母さんのことになると、すーぐ熱くなるんだから」


「仕方ないですよ。ユフィリアさんの体調が第一ですからね」


 ドーラさんは胸の前で拳を合わせて、ポキポキと指を鳴らす。なんか怒ってるっぽい。なんで?


「次出てきたら、あたしがおじさんにガツン! と言ったげるからね!」


 どうやら心配をかけてしまっているみたいだ。本当に、ここのオークの人達は心があたたかい。私は笑顔を見せて、ドーラさんを見上げた。 


「ありがとうございます。でも私は全然平気なんですよ。こうして皆さんに、良くして頂いているんですから」


「ルナ……」


 ドーラさんはぐっと堪えたような表情をして、ぎゅむ! と私を抱きしめてくれた。とても力が強いけれど、全然嫌じゃない。むしろ嬉しい。


「今日はあんたの好きなメシにしよ! 何が食いたい!?」


「えっ!? じゃあ、ストーンホーンのステーキが食べたいです」


 我ながらだいぶ甘ったれなオネダリだと思うけれど、ドーラさんは心底嬉しそうにガハハ! と笑った。


「よっしゃ! いちばん美味い部位をあげるからね!」


「そこまでして頂かなくても! 戦士の皆さんがいちばん美味しい部分をたべないと」


「なぁに言ってんの! いちばん栄養とらなきゃならないやつが、いちばん美味い部位を食うんだよ」 


「じゃあせめて、お手伝いを……」


 しかし私の申し出をドーラさんは即座に却下する。しかしそれは私への拒絶ではなく、思いやりであることはよく分かった。


「いいのいいの! 今日は天気がいいからさ。少し外に出ておいでよ。今日ならきっと綺麗に咲いてるよ」


「お花畑があるんですか?」


「そうさ。北門から出て、少し行ったところにね。あそこなら魔物もいないし、景色もすっごく綺麗なんだ。あんたも息抜きになるよ」


 申し出はありがたいけれど、昨日ビョルンさんに『里の外には出るな』と釘を刺されたばかりだ。私が渋っていると、ドーラさんが不思議そうに顔を覗き込んでくる。


「どうかした?」


「いえ! なんでもありません!」


 私は首を振って、イグニ君とジャールちゃんの前にしゃがみこんだ。あんなわからず屋エルフの言うことなんて、聞くことないもんね。と、内心で舌を出す。  


「行こっか。イグニ君、ジャールちゃん」


「あそびにいこ、ルナ!」


「気をつけて行ってらっしゃい!」


 そうしてドーラさんに見送られて、私はイグニ君とジャールちゃんと共に花畑に向かった。



 青空は高く、色とりどりの鮮やかな花がたくさん咲いていた。空気は澄んでいて、清々しい。そんな中で、イグニ君とジャールちゃんの可愛らしい笑い声が響いていた。 


「ルナ、みてみて!!」


 ジャールちゃんが見せてくれたのは、小さな四葉のクローバー。


「わぁ、素敵! それを見つけた人はラッキーなことがあるんだよ。やったね!」


「じゃあ、ルナにあげる!」


「えっ? でもそれはジャールちゃんが見つけたものだよ?」


 しかし、ジャールちゃんはふるふると首を横に振って、クローバーを私の髪にさしてくれた。


「ルナにあげたいの!」


「そっかぁ。ジャールちゃんは優しいねぇ」


 眩しい太陽。頬を撫でる風は花の香りを運んできて、子供たちの笑い声を聞いていると、ここが魔物の森だということも、ビョルンさんに拒絶されている寂しさも、少しだけ忘れることができた。


「じゃあ、お返しに別の幸運のお守りをあげる。きっと良いことあるよ」


 私は花を編んで冠にして、子供たちの頭にそっとかけてあげた。


「きれい!」


 無邪気に喜ぶ子供たちの柔らかな笑顔が眩しい。この子たちの穏やかな日常が、ずっと続けばいいのにな。


 そう願って顔を上げた時、森の静寂を破る金属の音が聞こえた。


「いたぞ。オークのガキどもだ」


 茂みをかき分けて現れたのは、三人の冒険者だった。レイドさんのパーティーみたいな勇ましさや清純さは見られない。汚れた鎧と剣を携えた、血に飢えた冒険者たちに見えた。その目は、オークたちの温かな瞳とは正反対の、獲物を品定めするような冷酷な光が灯っている。踏みつけられたシロツメクサは茎が折れて、土で汚れてしまっていた。


「おい。お前、人間だろ? なんでこんな汚ねぇ化け物のガキと一緒にいるんだ」


 私は子供たちを背中に隠し、震える足を叱咤して立ち上がった。


「何かご用ですか」


「この先にオークの集落があるはずだ。場所を教えろ」


「これは冒険者ギルドの仕事だ。怪我しなくなきゃ、さっさと案内しな」


 冒険者がオークの集落を襲撃しにきたなんて思いたくなかった。あの人たちは、人間に対して危害を加えているわけじゃない。それなのにどうして、襲撃なんてひどいことをするんだろう。


「案内すれば、そのガキどもの命くらいは助けてやる。……あぁ、もちろん素材として高く売れる部分は頂くがな」


 子供たちが私の服をギュッと掴む。同じ人間だと思いたくない発言に、激しい怒りの感情が湧き上がった。


 もし、ビョルンさんが隣にいてくれたら。


 そう願う心を即座に否定する。彼は今、大切な仕事の最中。私のようなただのビジネスパートナーが、助けを求めていいはずがない。


 子供たちを抱きしめて、強く決意を固める。私がこの子達を守らなければ。


 私は素早く周囲を見渡し、大きな巨木の根元にある『空洞』を見つけた。あそこまで行くことができたら……!


「あっ、ストーンホーン!」


「は?」


 冒険者たちの後ろを見て叫ぶ。まんまと引っかかった冒険者たちが後ろを向いたその隙に、私は子供たちを抱えて全速力で森に走り出した。


「っはぁ、はぁ……!」


 私は先程見つけた巨木までがむしゃらに走った。そして巨木の前にしゃがみ込み、子供たちの目を見て言い聞かせた。


「いい? 二人とも、今からかくれんぼしよう。私が『もういいよ』って言うまで、絶対に出てきちゃだめだからね」


「ルナ……?」


「大丈夫! ちょっとだけ、待っててね」


 私は自分の首に巻いていた青いスカーフを解くと、それを二人の手首にきつく結んだ。レイドさんたちがくれたお守りのスカーフ。彼らの加護があれば、きっとこの子達を守ってくれる。リーナさん、シンシアさん。どうかこの子達を守ってください、お願いします。


「これは、最強の魔法がかかったお守りなの。絶対に無くさないでね」


 子供たちをウロの奥へ押し込み、枯れ葉で入り口を隠した。これで時間稼ぎくらいにはなるはずだ。私はわざと子供たちの隠れている場所から離れるように、森の深みへと走り出した。


「逃がすか! 」


 背後から迫る三人分の足音と、鎧が擦れる金属の音。

 茂みに足を取られ、転びそうになりながらも、私は必死に走り続けた。


 どうか、あの子たちに気づきませんように。

 どうか、バッシュさんやドーラさんが、ビョルンさんが、あの子たちを見つけてくれますように。


「……っ!」


 後ろから乱暴に腕を掴まれ、地面に叩きつけられてしまった。捕まった。でも、ここからなら村までかなり距離がある。きっと彼らは村にはたどり着けない。


 ざまぁみろ。


 私は心の中で毒づいて、冒険者たちを睨んだ。逆光の中に歪んだ笑みを浮かべた冒険者の顔に、唾を吐きかけてやりたい。


「生意気な小娘だ。……おい、集落の場所を吐く気がねぇなら、いい見せしめにしてやるよ」


「たどり着いたって、どうせオークに食べられるだけですよ」


 憎まれ口を叩くと、頬に大きな衝撃が走った。スカーフがないせいで、ダメージが直に響く。口の中が鉄臭くてしかたがない。


 あぁ、もう。最悪。この慰謝料は高くつきますよ、ビョルンさん。


 私は次にくる痛みに備えて奥歯を噛み締め、キツく目を閉じた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回も引き続きよろしくお願いいたします

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※次回第118話『二度目の過ち』更新は4月2日18時です

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