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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
エルフの里帰り編

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116/120

116_絶体絶命! 大鬼 VS OL !

第116話です。

どんな状況でも『やったか……!?』はフラグですよね。油断大敵!絶体絶命!

「ふぅ、なんだったんだこいつ」


 バッシュさんは肩で息をしながら、大鬼を見下ろした。倒れた大鬼(ハイゴブリン)はピクリとも動かない。


「とにかく、族長に報告しよう」


 バッシュさんの言葉にガズさんが頷き、その場を後にしようとした。その時。


「ガアアアアアッ!!」


 死んだふりをしていたのか、あるいは凄まじい執念か。大鬼(ハイゴブリン)が突然、目を血走らせて跳ね起きたのだ。


「なっ……!?」


 油断していた二人は、大鬼(ハイゴブリン)が振り回した腕に弾き飛ばされて木の幹に叩きつけられてしまう。二人ほどの大柄の戦士が、まるで羽虫のように扱われた光景に血の気が引く。


「バッシュさん、ガズさん!」 


 大鬼(ハイゴブリン)はこちらを振り返ると、私へと突進してくる。


「ルナ!! 逃げろ!!」


 バッシュさんの叫びが遠く聞こえる。反射的に顔を上げて、後ずさった。


「とりあえず、背後に回る!」


 私は意を決して、大鬼(ハイゴブリン)の足元に転がり込む。大きな体躯では俊敏な動きはできないはずだから、逆に足元のほうが安全な可能性があるからだ。


「っ、よし!」


 予想通り、大鬼(ハイゴブリン)は足元の私を見失っていた。


 さぁ、ここからどうする?


「バッシュさんとガズさんから離れないと」


 負傷してしまった二人に近づけるのは、リスクが大きい。二人に万が一のことがあれば、母であるジルキさんに申し訳が立たない。


 私は手元にあった大きな石を取って、茂みに放り投げた。ガサッと大きな音がして、大鬼(ハイゴブリン)が顔を向ける。よし、そのまま向こうに行ってくれ。 


 私は足元から抜け出して、距離を取ろうとする。しかし、木の根に足を取られて転んでしまった。肝心な時に、注意力が欠けてしまったのだ!


「げっ……!」


「ルナ!!」 


 大鬼(ハイゴブリン)の巨大な影が私を覆い、血の匂いが鼻をつく。振り上げられた硬い腕が迫り、首を掴まれた。すぐにへし折られなかったのは、レイドさんたちパーティがくれたスカーフのおかげだろう。だけど息苦しくて、徐々に頭がぼうっとしてくる。バッシュさんが私を呼ぶ声が、だんだんと遠くなって、それで……。


 ズダァン! 


 轟音と共に、私を掴んでいた大鬼(ハイゴブリン)の腕が宙に舞った。


「ガ、ア……ッ!?」


 首を絞めていた力が一気に緩み、地面に投げ出される。げほ、と盛大に咳き込みながら泥の上に転がった私の目に映ったのは、ボトリ、と生々しい音を立てて大鬼(ハイゴブリン)の腕が地面に落ちる様だった。


「……クソ。ここでも異常現象か」


 鼓膜に届いたのは、驚くほど平坦で、酷く焦燥を含んだ、聞き慣れた声。土埃の向こうに、ボサボサの頭に寝不足の隈を刻んだ、あの偏屈エルフが立っていた。


「ビョルンおじさんっ!」


「バッシュ、ガズ、無事か」


「っ、あぁ」


 ビョルンさんが柔らかい声でバッシュさんとガズさんを呼ぶ。だけど、こちらには目もくれなかった。  


「グァアアアアッ!!」


 腕を失った大鬼が、狂乱の悲鳴を上げながら、残った左腕でビョルンさんへ殴りかかった。丸太のような腕が、空気を切り裂く。


「下がっていろ」


 ビョルンさんは不機嫌そうに呟くと、剣を無造作に一閃させた。その一撃は大鬼(ハイゴブリン)の残った左腕、そして胴体までもを一瞬にして微塵に切り刻む。大鬼(ハイゴブリン)の巨体は、今度こそ完全に物言わぬ肉塊となって、泥濘の中に崩れ落ちた。


「ビ、ビョルンさん……?」


 十一日ぶりに見る、ビジネスパートナーの姿。助かった安堵と、彼の圧倒的な強さへの恐怖が混ざり合い、身体の震えが止まらない。


 だが、ビョルンさんは剣を鞘に納めると、私を一瞥することすらなく、大鬼(ハイゴブリン)の死骸を見つめていた。


「ビョルンさん、助けてくれてありがとうございま……」


「瘴気の影響がここまで出ているとはな」


 私の感謝の言葉を遮り、彼は大鬼(ハイゴブリン)の死骸に視線を落としたまま、ブツブツと独り言を漏らした。彼の脳内では何かがめまぐるしく動いていることはわかる。しかし、一体何を話しているのかわからない。


「バッシュ、族長に報告しろ。里の警備を強化するように、と」


「わ、わかった」


「狩りの際は、熟練の戦士を一人以上連れていけ。いいな」


 教え諭すような口調で言い放ち、今度こそビョルンさんはこちらを向いた。しかし、いつもの穏やかな色ではなく、激しい苛立ちを感じさせる。 


「里の外には出るな。そう言ったはずだが」


 たしかに、十一日前にそう言われた記憶はある。それでもこの里で生きていくためには、なにもせずにじっと里に引きこもることなんてできないのだ。


「確かに言われました、けど。でも、皆さんの役に立つためには」


「不要だと言っている」


 ピシャリと冷たい声で言い放つビョルンさん。そのつめたさは、ささくれだった心にひどく染みて、私はつい言い返してしまった。


「あなたはこの里の一員かもしれませんけどね。私は違うんです。ちゃんと仕事をしないと、生きていけないんです」


 社畜時代、自分の居場所を守るために、必死に数字を追いかけ続けた。今だって変わらない。この里に身を置く理由を示すために、毎日いろんな人の仕事を手伝って『私の居場所』を作っていた。なにもせずとも、ただそこにいることを許されているビョルンさんとは違う。


 しかし、そんな私の言葉に対して、ビョルンさんは煩わしそうに首を横に振るだけだった。


「とにかく、お前は里から出るな」


 ビョルンさんは冷たくそう言い放つと、くるりと背を向けて森の奥に歩き始めた。私はズキズキと痛む胸を押えて、バッシュさんたちに向き直った。それはもちろん、笑顔で。


「お二人が無事でよかった! 族長様にご報告しませんとね!」


 バッシュさんとガズさんが顔を見合せて、私の近くに寄ってくれる。


「あのさ、ビョルンおじさんってほんとに素直じゃないんだ」


「誤解、しないでほしい」


 バッシュさんとガズさんは、あわあわと弁明するように私の顔を覗き込む。大きな身体で慌てる様子は、なんだか大型犬を思わせた。そんな姿を見せられては、貼り付けた笑顔なんですぐに剥がれてしまう。私は肩の力を抜いて、二人に笑いかけた。今度は心からの笑顔で。


「大丈夫ですよ。あの人が、この里のために頑張ってることはよーく分かってますから」


 しかし二人はまだなにか言いたげに、しかし顔を見合わせるだけでなにも言わなかった。

 私たちは日が傾いた森の中を、足早に掛けていく。ビョルンさんが消えた方向には、目もくれないで。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回も引き続きよろしくお願いいたします

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※次回第117話『慰謝料請求待ったなし』更新は4月1日18時です

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