115_オークの戦士たち
第115話です。
オークの里に迫る瘴気の原因を探るべく、エルフに叩き出されてしまったOL。今回はオークの戦士との日常生活を送るOLのお話です。
ビョルンさんに放り出されて十一日目。
朝、広場に出るとバッシュさんとガズさんが狩りから帰ってきたようだった。二人でも余すくらいに大きな魔物を担いでいるのを見るに、今日の狩りはとても順調だったようだ。
「バッシュさん、ガズさん、おかえりなさい」
「ルナ、ただいま!」
ガズさんはぺこ、とお辞儀をしてくれた。警戒はすっかり解けたようで、言葉は少ないながらも丁寧に接してくれるのは嬉しい。私は二人の戦利品を受け取りながら、丁寧に並べていく。これらも全て生活の糧とする彼らの知恵から学ぶことはとても多い。
「今日はストーンホーンを狩ってきたんだ。解体、やってみるか?」
「ぜひ!」
バッシュさんは、ビョルンさんに放置されている私をとても気遣ってくれていて、毎日魔物のことをたくさん教えてくれる。今日の獲物は、レイドさんたちと出会った日に食べたあのおいしいお肉、ストーンホーンらしい。
大人のオークでも担ぐのが難しいほど大きくて岩のように硬い身体と、鋭い角を持つ魔物、それがストーンホーンだ。
「ストーンホーンは普段はとても穏やかなんだけど、一度怒ると手が付けられない。特にこの角に注意しなきゃ。並の戦士でも角に貫かれて死んじゃうこともある」
「こんなにご立派な角ですものねぇ」
「重いから気をつけて」
ガズさんは切り落としたばかりのストーンホーンの角を、私の腕に乗せてくれた。大人の男性の腕ほどの太さと重さの角の重みに、生唾を飲む。これが刺さったら即死だろう。
「でも怒ったストーンホーンは視野が狭くなるから、後ろに回り込んだらいい。そうしたら……」
「そうしたら?」
「自分で目を回してしまうんだ。後ろのものを追いかけようとしてグルグル回るだろ? ものすごい勢いで回るから、自分でもコントロールできないんだ」
「なるほど!」
私はバッシュさんから教わったことを手帳に書き留めていく。いつ、魔物に遭遇するかわからないから、知識はあるだけあればいい。
バッシュさんは私の様子を見守りながら、こんな提案をしてくれた。
「また昼から狩りに行くんだけど、一緒に行ってみる?」
思いがけない提案に、私は顔をあげる。
「いいんですか?」
「あぁ、もちろん! ルナなら大歓迎だよ」
狩りに出るのは少し怖いけれど、興味はあった。RPG脳としては魔物との戦闘も見てみたいというのが本音だ。私にも戦闘スキルの才能があればよかったのだが、私のステータスは一般市民A。
「でも私、斧どころか弓矢すらまともに触ったことがないので、お邪魔になっちゃいますよ」
「大丈夫。俺たちがフォローするよ。なぁガズ?」
「……ん」
ガズさんは深く頷き、バッシュさんは牙を見せて、ニコニコと太陽のように明るい笑顔を浮かべた。彼らの笑顔を見ていると、どんな不安も吹き飛んでしまうくらいに眩しい。
「俺も他の奴らより体が小さくて、狩りには向いてないって言われてた。でも知恵さえあれば、大きな獲物だって簡単に捕れるんだ。だからルナもきっと大丈夫」
「俺もそう、思う。ルナは賢いから」
「バッシュさん、ガズさん…!ありがとうございます!」
私は深く頭を下げると、バッシュさんは私の背中を力強く叩いてくれた。
その日の昼、私はバッシュさんとガズさんの狩りに同行させてもらった。集落から少し離れた深い森は、木漏れ日を浴びて深緑に輝いている。少し湿った土と風の匂いがする。
「今から罠を確認するんだ。大丈夫とは思うけど、俺たちから離れないようにな」
バッシュさんは、ニシシと得意げに笑った。
「デカイ獲物が掛かってたらいいな。ビョルンおじさんも肉が好きだし、きっと今日は外に出てくるよ」
しかし、そんな期待とは裏腹に、現場に到着した予想だにしない光景か飛び込んできた。
「逃げられたのか?」
バッシュさんが苦々しく声を漏らす。そこには、大人の太ももほどもある頑丈な蔦の縄が、無残に引きちぎられて地面に転がっていた。
「おかしいな。ストーンホーンにこの縄を食いちぎる力はないはずだ。……ガズ、周囲を確認しろ」
「……ん」
ガズさんが地面に膝をつき、激しく荒らされた土の跡を指でなぞる。そこには点々と、森の奥へと続く血痕が残っていた。手負いの獲物を放置すれば、逆上して集落の近くまで戻ってくる可能性がある。早急な対処が必要だろう。
数分後、血痕を辿っていたバッシュさんが急に足を止めた。
「待て。……おかしい、足跡が増えてる」
そこは、ストーンホーンが激しく暴れたような蹄の跡が残る泥濘地だった。バッシュさんは眉間に皺を寄せ、複数の足跡が入り乱れる地面を凝視している。
「ストーンホーンの足跡に混じって、別の奴がいる。だが、この足の形……フォレストウルフにしては、歩幅が広すぎるな」
「フォレストベアの可能性は」
ガズさんの問いかけに、バッシュさんは首を横に振る。
「いや、それにしては大きすぎるな。一体なんなんだ?」
百戦錬磨のオーク戦士ですら首を傾げる、見たこともない異質な足跡。私は胸騒ぎを覚え、懐から鑑定グラスを取り出した。レンズ越しに、その泥の窪みをじっと覗き込む。
『大鬼の足跡:主にダンジョンに生息する魔物。ゴブリンよりも知能は高いが、意思疎通は不可能。極めて飢餓状態』
「ダンジョンにいるはずの魔物が、どうして森に……」
私が言葉を紡ぎ終わるよりも早く、前方の茂みが爆発したような音を立てて弾けた。
「ガァアアアッ!!」
現れたのは、どす黒い皮膚に覆われた二メートル半を超える巨体。手には、先ほど罠から引きちぎられたのであろう縄を巻き付けたままの、血濡れたストーンホーンの角を棍棒代わりに握りしめていた。
「なんだこいつ!?」
バッシュさんが斧を構えるが、大鬼の鋭い眼光はすでに、一番小柄で弱そうな獲物、つまり私を捉えていた。
「ルナ、後ろに!!」
ガズさんが叫びながら私の前に飛び出す。大鬼の棍棒を斧で受けながし、私を抱えて距離を撮ってくれた。
「気をつけてください。あいつは飢餓状態です!」
「チッ、なんでこんな所に」
やっぱり大鬼はこの森にはいないはずの魔物なんだ。どこからか迷い込んだのだろうか。もしかして、ビョルンさんが言っていた瘴気となにか関係があるのかもしれない。
ガズさんは私を木陰に下ろして、大鬼に向き直った。
「理由はなんでもいい。ガズ、やるぞ!」
「わかってる」
ガズさんの短い返気とともに、二人のオーク戦士が大鬼と睨み合う。私はもう一度、大鬼を鑑定グラスで見た。
『大鬼:B級モンスター。ゴブリンよりも攻撃力が高い。ダンジョン内の暗闇に生息する為、視力が弱い。背後からの攻撃が有効』
「バッシュさん、ガズさん! 大鬼は視力が弱くて、背後からの攻撃に弱い魔物だそうです!」
「わかった!」
バッシュさんが正面から大斧を叩きつけ、大鬼の注意を引く。その隙にガズさんが風のような速さで背後に回り込み、斧を大鬼の背中へと突き立てた。
「グァッ!?」
大鬼の巨体が揺らぐ。二人の連携は完璧だった。バッシュさんの斧がさらに大鬼の脇腹を深く切り裂き、どす黒い血が泥濘にぶちまけられる。
「やった……!」
私は木陰で拳を握りしめ。大鬼は力なく膝をつき、そのまま動かなくなる。バッシュさんが荒い息を吐きながら、斧を下ろした。
「もう出てもいいぞ、ルナ」
「お二人ともすごいです! お疲れ様でした!」
私は木陰から飛び出して、バッシュさんとガズさんに駆け寄った。大鬼の眼光が、まだ鋭く光っていることに気づかないまま。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回も引き続きよろしくお願いいたします
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※次回第116話『絶体絶命!大鬼 VS 社畜』更新は3月31日18時です




