113_オークの戦士風ガレット
第113話です。
偶然の産物で出来た料理は、オークたちの口に合うのか?そしてエルフは部屋から出てくるのか?
「おいバッシュ! ガズを呼んでこっちにおいで!」
「おう!呼んでくる!」
ガズさん? 初めて聞く名前だな。バッシュさんのお友達だろうか。
バッシュさんはすぐに若い男の戦士を連れて戻ってきた。その戦士は子供から少し大きくなった程度の、まだ戦士になりたてのような男の子だった。彼は私を一瞥すると、ぷいとそっぽを向いてしまった。
「……っす」
「ガズ、挨拶はちゃんとしな!」
ガズ、と呼ばれた若いオークの戦士は面倒くさそうに頭をかく。
「……ガズ。バッシュ兄とドーラ姉の弟」
「初めまして、ガズさん」
非常に警戒されているのはわかる。そりゃ人間の女なんて初めて会うだろうし、今はビョルンさんも近くにいないから警戒されるのも当然だ。
バッシュさんは、私の手元のガレットを見て不思議そうに首を傾げた。
「あれ、さっきの粥はどこ行った?」
「ジルキさんにお許しをいただいて、ちょっとアレンジさせていただいたんです。薄く焼いて伸ばして、中に塩漬け肉と目玉焼きを入れてみました。お熱いうちにどうぞ」
「うっわぁ! すっげぇいい匂いだな、ありがとう!」
ウキウキとした様子のバッシュさんは、大きな牙を見せて、ガレットにかぶりついた。ケチャップが口の周りについているのも構わず、二口で平らげてしまった。
「うっめぇ!!!!」
バッシュさんの声が雷鳴のように轟いた。
「なんだこれ!? 中の肉と卵もうめぇし、この、赤いのなんだ!?」
「太陽の実と薬草のソースです」
「そーす……っていうのか、これ。こんな美味いモンを人間族が作っちまうんだな。俺、母ちゃんのメシしか食ったこと無かったから、知らなかったよ」
バッシュさんのあまりの褒めっぷりに、ガズさんも大きな一口でガレットを頬張る。
「……!!」
彼は目を見張って、私を見た。あまりにも強い眼光で見つめられるので、少し居心地が悪い。若い男の子とはいえ、私よりも遥かに大柄なのでバックリ食われるんじゃないかと思ってしまう。
「え、えぇと……お口に、あいませんでした?」
「……っす」
「え?」
「もう一個、ほしい……っす」
少し頬を赤らめて、掠れた声で絞り出すガズさん。若い男の子が照れながらオカワリを催促するなんて、可愛らしくて微笑ましい!
「はいっ! 焼きたて、すぐに作りますね」
「……っす」
「ガズ、ちゃんとお礼を言わないと。ルナ、これすっげぇうまいよ! 誰もあの粥だとは思わないって!」
バッシュさんや戦士の皆さんの様子に、見守っていたジルキさんも満足そうに笑ってくれた。
「ずっと上手く作ってやれなくてねぇ。あんたがいてくれて助かったよ」
「このお粥はすごく栄養があって、作ってくださる方の真心が籠ったものです。私は故郷で似たようなものをたまたま知っていただけで……」
「それでも、あんたが『なにか力になりたい』って言ってくれたことが嬉しいんだよ。ユフィリアの事もそうだけど、あんたには大きな借りが出来ちまったね」
「そんな! ここに置いてくださるだけで十分ですから!」
私の言葉にジルキさんは、うぅとたじろいでしまった。
「じ、ジルキさん? どうしたんですか、お腹が痛むんですか!?」
「いいや、違うんだよ、ルナ」
ジルキさんは大きなお腹を擦りながら立ち上がると、私の両肩に大きな手を置いた。その手はとても力強く、そして柔らかかった。
「あんたはもう、私らの子さ。そんな寂しいこと言わないでおくれ」
「ジルキさん……!」
アニタさんとは違う母性を感じて、じんわりと胸が熱くなる。本当に、この集落の人達は心の暖かい人ばかりだ。
ジルキさんやバッシュさんたちの明るい声を聞いていると、いつの間にかビョルンさんへの苛立ちが霧散していることに気がついた。
「仕方ない。ビョルンさんにも持って行ってあげようかな」
私はまた調理場に戻って、ビョルンさんの為にガレットを焼き始めた。
「ビョルンさん、ちょっと入りますよ」
魔導書に頭がめり込むんじゃないかという勢いのビョルンさんの背中に声を掛ける。……が、当然のごとく無視。
「ご飯置いておきますから、ちゃんと食べてくださいね」
「わかっている」
抑揚のない返事に、ムッとしてこれみが良しに自分の分を食べる。まずふんわりと香るのはこんがりと火の通った蕎麦風味。それに続くのは肉の塩味、卵のクリーミーさとケチャップの酸味が絶妙にマッチしていた。あぁ、エールが欲しい。
「んー、おいっしい! 卵の焼き加減もちょうどいい。でもさすがジルキさん、このお粥の風味が最っ高!」
わざとらしい態度に、ビョルンさんの手が止まる。そして深くため息をついて、やっとこちらを見た。
「今度はなんだ」
「オークのお粥を改良してガレットにしたんです。片手で食べられますよ」
「……」
それどころじゃない、とでも言いたげな顔をしている。しかし当然ながら、頭を使えばお腹がすくのだ。焼きたてのガレットの香りを鼻先に突きつけられれば、なおさらだろう。
ぐぅう。
ビョルンさんのお腹から、獣の唸り声みたいな音がした。そんな音聞こえてませんけど? という涼しい顔をして見せるが、そりゃ無茶だよあんた。
「食べた方がいいですよ。腹が減っては仕事が出来ぬ!」
「……フン」
ビョルンさんは心底不満そうな様子で、ガレットを受け取る。集中力を削がれたことにご立腹なのだろうが、どんなに怖い顔をしたって効かない。だって私から見たあなたは、ただの腹ぺこエルフなんだから。
「……いただきます」
こんな時でも、律儀に挨拶をする姿には好感が持てる。そうじゃなきゃ、小鳥に餌を運ぶ親鳥のようにせっせと食事を運ぶことはしない。
ビョルンさんは大きな一口で、ガレットの半分を食べてしまった。もぐもぐと味わうように咀嚼して、二口目は肉を多めに齧る。
「どうですか?」
「……肉があるのは、いい」
そう言いつつも、考え事は終わっていないのだろう。目線は遠く、どこか心ここに在らずの空返事だ。
「調べもの、どれくらいで終わります?」
「不明だ」
「一日追加する事に、金貨一枚貰えます?」
「好きにしろ」
絶対これちゃんと内容聞いてないな。だが言質は取った。明日から財布から金貨一枚貰ってやろう。
部屋の中はかなり散らかっていて、埃っぽさも感じる。こんなところにずっと居たら、頭にきのこでも生えるんじゃないだろうか。
せめて地面に散らばった魔導書だけでも片付けてあげようと手を伸ばすとグッと首根っこを掴まれて、足が浮く。そして次の瞬間。
「は?」
ポイ! と、部屋の外に叩き出されていた。
「いいと言うまで戻ってくるな」
「は?」
「ごちそうさま」
ビョルンさんはガレットの最後と一口をごくんと飲み込むと、扉を勢いよく閉めた。しかも鍵まで掛けられた。え、私、追い出された!?
「えっ!? ちょっ、はぁああああ!?」
この部屋に鍵掛けられちゃったら、私、今夜どこで寝たらいいんですか!?
「信じらんない! 絶対金貨ふんだくってやるからな、このバカエルフーッ!!」
私の叫び声が部屋の外に轟いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回も引き続きよろしくお願いいたします
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※次回第114話『微妙な空気』更新は3月29日18時です




