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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
エルフの里帰り編

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111/125

111_すれ違う指先

第111話です。

今回はエルフ視点のお話です。エルフは長い年月を過ごしていますが、大切な人の危機となると余裕を失ってしまうくらいにはまだ未熟なのです。

「……クソ」

 

ユフィリアが苦しんでいる病は、ただの熱病ではない。『瘴気』と呼ばれる毒による汚染の兆候。高潔な魔力を持つエルフでさえ、一度深く侵されれば魂まで腐り落ちる。

 

「ガロール」

 

屋敷の庭に座る族長、ガロールの背に向かって声を掛ける。

 

「ユフィリアに会ったか」


「あぁ」

 

「容態は」

 

ガロールの瞳には深い不安が滲んでいた。愛する娘が日々弱っていくのを見るのは父としてこれ以上辛いことはないだろう。俺は握りしめた掌に血が滲むのも構わずに、静かに事実を告げた


「芳しくない。早急な対処が必要だ」


「そうか」

 

ガロールは大きく息を吸い、そして苦しげに顔を歪めて吐息を吐く。

 

「お前ならば、対処できるか」

 

静かに、しかし有無を言わせぬその問いに、俺は胸を張って応えた。この人の期待を裏切ることなど、あってはならないのだから。

 

「時間は要する。だが、必ずユフィリアとこの里を救ってみせる。この命に変えてでも」

 

俺の答えにガロールは満足そうに目を細め、立ち上がると俺の肩にその大きな手を乗せた。

 

「使えるものは全て使え。手段は問わん」

 

「承知した」


ガロールはこちらを見て、慈しむような声を出す。 

 

「お前も俺の家族だ。くれぐれも……身体を厭えよ」

 

「分かっている」

 

そして彼は俺の目を見つめ、そして深々と頭を下げた。これは族長としてではなく、父の頼みだ。

 

「ユフィリアのことを、頼む」

 

「あぁ」

 

俺はその願いに深く頷き、『父』の胸を力強く拳で叩いた。俺は彼の期待に応えなければならない。それがこの命を拾ってくれた恩人に対してできる、最大の孝行なのだから。


ガロールと別れたあと、俺は必要なものを持って集落の外に出た。昨日ルナと通った街道に続くルートとは違い、原生林の奥深くへと続く獣道を慎重に歩く。

 

オーク族の集落は深い原生林の中にある。豊かに茂った草木により魔物が数多く生息し、その魔物の排泄物からはまた良質な植物が育っている。 

 

しかし今はその自然は見る影もない。かつては鮮やかな緑を湛えていた原生林の足元が、今はどす黒い闇に呑み込まれようとしている。風に乗って運ばれてくるのは、死にゆく草木の断末魔のような、腐敗の匂いだ。

 

「汚染が進んでいる……」

 

魔力に敏感な指先が、空気に触れるだけでピリピリと痛んだ。

 

「発生源は何処だ」

 

一般的には地盤に染み込んだ魔物の死骸が魔力に触れて変異した場合、『瘴気』が生み出されると言われている。なので冒険者や狩人たちは魔物を狩る際には後処理を慎重に行う。


 特に食用にする際は『浄化魔法』や『聖水』などで血抜きと共に魔力を抜いて、口にしても害が出ないように加工する。非食用の場合は魔術師の『浄化魔法』や祈祷師の『祈り』によって死骸が魔力によって変異しないように処置をする。

 

「魔物の大量死。あるいは、長年の積み重ねによる地盤の汚染か……?」

   

原因はともかく、この状況には一刻の猶予もない。

計算式を組み立て、浄化魔法の触媒の調合、地脈の強制的な濾過。やらねばならない事は数多くあるが、いかんせん時間が足りない。今からでも着手しなければ手遅れになりかねない。そう、手遅れになれば、ユフィリアは……。

 

「絶対に失うものか」

 

忙しなく回り始めた脳内に集中力を全てつぎ込んだため、自分の呟きすら聞こえなかった。


気がつけばオークの集落に戻ってきていたらしい。手の中には調合に必要な材料が揃っている。脳内で手順を組み立てながら歩いていると、高い声が響いた。

 

「あ、ビョルンさん! おかえりなさい!」

 

小娘がどんな顔をして自分を追いかけてきたのか、今のビョルンには見る余裕も、興味もなかった。

 

「今日のお昼ご飯、ユフィリアさんに蒸しパンを出してみたんです。ユフィリアさん、とても気に入ってくださって」

 

「そうか」

 

短く返事を返すと、一瞥することなく歩き始めた。目指すのは自室だ。次に必要なのは自室に積まれた魔導書から、必要な計算式を組み立てること。

 

「外に行ってたんですよね? どうでしたか?」

 

「里の外に瘴気が蔓延し始めている」

 

「瘴気?」

 

あぁ、そうだった。この小娘は異世界から来た素人、魔術や魔物に関しての知識はまだ浅い。手短でも説明をしてやらなければ、下手に動いて危険に首を突っ込む可能性がある。

 

「人間やオークにとって毒となる、汚染された魔力のことだ。ユフィリアの体調悪化はその毒に起因する。このままでは命に関わる」

 

「えぇ!? じゃあ、早く何とかしないと! 私にできること、なにかありますか? 」

 

「ない」

 

小娘の言葉を即座に断ち切った。こいつは自分の正義のためなら、どんな状況でも飛び出してしまう危なっかしさがある。ここで制しておかなければ、何をしでかすか分からない。今はユフィリアや里の命運がかかった非常事態、子守りを引き受けている場合ではないのだ。

 

「お前にできることなど何もない。素人が浅知恵で首を突っ込むな」

 

「でも……ユフィリアさん、あんなに苦しそうでしたし、一人よりも二人の方が効率があがりますよ」

 

「不要だと言っている」

 

今度こそ、ハッキリと言った。遠回しな拒絶では、この小娘には通じない。そのお節介な性格が、今では非常に煩わしく感じた。病に伏せったユフィリアの姿が脳裏に焼き付いて、焦燥感をかきたてる。


そしてあろうことか、ユフィリアの姿がこの目の前の小娘の姿に重なったのだ。出会ったばかりの我々はすれ違い、この小娘はエリザベスに盛られた毒に倒れた。あの時の小さな身体の重みと頼りなさが、今でも腕の中に残っている。

 

 その感触のせいで、自身が冷静さを欠いていることにすら気づかなかった。


「お前はただの人間だ。瘴気に当てられれば真っ先に死ぬ。わかったら、大人しく里の中にいろ。里の外に出るな」

 

彼女の顔が心配から、一気に困惑に変わっていく。しかし今は直視せず、敢えて素知らぬフリをした。後で機嫌を取ればいい。

 

「わかり、ました。邪魔、したみたいで……すみません」

 

消え入るような声。

 

「ビョルンさんも、気を付けてくださいね」

 

パタパタと走り去っていく気配を感じながらも、その背を追わなかった。今の俺にとって、最重要事項は事態の収束だ。小娘の心の傷を癒やす余裕など、一欠片も残っていなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回も引き続きよろしくお願いいたします

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※次回第112話『偶然の産物も悪くない』の更新は3月27日18時です

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