109_卵は完全栄養食
第109話です。
ポーション屋の仕事は、誰かを癒し元気にすること。いちおうこれも、ポーション屋の仕事ということで
「……このままじゃ、あの子の体力が持たないよ」
屋敷の外に出ると、そこには昨夜の賑やかさが嘘のような、沈痛な面持ちのジルキさんとドーラさんがいた。二人は厨房の入り口で、手付かずのスープ皿を抱えて途方に暮れている。
「ジルキさん、ドーラさん。どうしたんですか?」
「あ、ルナ……。実はね、ユフィリア叔母さんがこの間からほとんど食べてくれないんだ」
「あんなに食いしん坊だった子が、お粥すら喉を通らないなんてねぇ」
ジルキさんが大きな溜息をつく。妊婦である彼女の顔にも、隠しきれない疲労の色が滲んでいた。何かできることはないか、と思っていたけれど……これは私が役に立てるチャンスなのではないか?
私は拳を握り、鼻息荒く一歩前に出た。
「あの! 私に協力させてください! 病人でも食べやすくて、栄養たっぷりなもの、作れます!」
「あんたが? 料理得意なのかい」
「はい! 厨房、お借りしてもいいですか?」
私の気迫に押されたのか、二人は顔を見合わせて『それじゃあ、お願いしようかね』と道を開けてくれた。
さあ、何を作るか。
オーク族の食事は基本的に「ワイルドな肉料理」だ。弱った胃には重すぎるし、噛むのも体力が要るだろう。ならば柔らかく煮たものがいいかな?
厨房の棚を隅々まで鑑定グラスで覗き、栄養豊富なものがないか探す。
「あ……!」
それはカゴに入れられた、大きな卵だった。鑑定グラスに表示された説明文を読んで、私は拳を叩く。
『コカトリスの卵:滋養強壮効果(大)』
「これだ! ジルキさん、この卵をいくつか使ってもいいですか?」
「あぁ、コカトリスの卵かい。好きなだけ使いな」
「ありがとうございます!」
小麦粉(オーク族が使っている粗挽きのもの)、樹蜜、そしてコカトリスの卵。材料はとてもシンプルだが、これを美味しく料理するのが私の仕事だ。
「作るのは『たまご蒸しパン』です!」
「むし、ぱん?虫をいれるのかい」
「いえいえ、『蒸した』パンってことですよ。私の故郷では蒸し料理が精進料理としてとても人気だったんです」
不思議そうな顔をする二人に微笑みかけて、私は調理を開始した。
まずはコカトリスの巨大な卵を割り(殻が岩のように硬かったけれど、ドーラさんが拳で割ってくれた)、たっぷりの樹蜜を加えて、泡立て器の代わりの枝でひたすら混ぜる。
「ルナ、それ何してるんだい?」
「空気を混ぜ込んでるんです! これがふわふわの秘訣ですよ!」
二人も興味津々で手伝ってくれた。ジルキさんが粉をふるい、ドーラさんが繊細に混ぜる。
型なんてないから、大きな葉っぱを器にして、それを大きな鍋に並べて、土台の下に水を敷く。
そして、待つこと数分。蒸気が上がると同時に、厨房いっぱいにあまくて幸せな香りがふんわりと広がった。
「……っ! なんだい、これ! 甘くて、すっごくいい香りだね」
蓋を取ると、そこには黄色く膨らんだ、ほかほかの蒸しパンが出来上がっていた。コカトリスの卵の濃厚な黄色が、太陽を浴びて宝石のように輝いている。
「ドーラさん、ユフィリアさんのお口に合うか味見をしていただけませんか?」
「うんっ! 食べてみるよ!」
ドーラさんはそっと蒸しパンを手に取り、そして恐る恐る齧る。パンは彼女の牙が必要ないくらいに柔らかく、ほろりと崩れる。その食感にドーラさんは驚いたように目を見開いた。
「あ……あまい。こんなにふわふわして、柔らかいもの…食べたことないや」
ドーラさんはそう言うと、二口、三口と止まることなく齧り付いて、あっという間に平らげてしまった。
「お口にあいましたか?」
「うん……うん! これ、すっごいよ! 噛む必要がないくらい柔らかくて、甘くっておいしい! これならユフィ叔母さんも喜んでくれるよ!」
ドーラさんの様子にジルキさんは満足そうに微笑んで、私の背中を叩いてくれる。
「ありがとうよ、ルナ。さっそく昼飯の時間にユフィに持っていってやっとくれ」
「わかりました!お任せ下さい!」
私は出来上がったばかりの蒸しパンを籠に詰めて、ユフィリアさんのいる屋敷へと駆け出していった。
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※次回第110話『ユフィリアの昔話』更新は3月25日18時です




