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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
エルフの里帰り編

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108/124

108_傷ついた華

第108話です。

今回はエルフにとって大切な女性『ユフィリア』に会うお話です。大切、と一言に言っても色んな意味がありますよね。

宴の翌朝。オークの村特有の、力強い朝陽が丸太の隙間から差し込む。

 

「いつまで寝ている。もう陽は高いぞ」

 

「ふぇっ!? ……あぁ、お、おはようございます……」

 

毛皮から顔を出すと、そこには既に身支度を完璧に整えたビョルンさんが立っていた。ビョルンさんの方が早起きだなんて、珍しいこともあるものだ。

 

一睡もできなかった私とは対照的に、彼は相変わらず涼しい顔をしている。このエルフ、やっぱり心臓に毛が生えてる。

 

「なんだその目は。さっさとしろ。ユフィリアが待っている」

 

「あ、はい。すぐ行きます」

 

昨夜のことを思い出して顔が熱くなるのを誤魔化しながら、私は彼について族長の屋敷へと向かった。


「あ、あの、ビョルンさん。本当について行っていいんですか? ユフィリアさん、寝込んでるんですよね?」

 

「族長の娘に、客人を紹介するのは礼儀だ」

 

ぶっきらぼうな返事。けれど、その足取りは昨日の宴の時よりもずっと慎重で、どこか焦っているようにも見えた。

 

やっぱり、ユフィリアさんは彼にとってすごく大切な人なんだ。

 

我々の間柄を指す『ビジネスパートナー』という言葉が急に味気ないものに思えて、私はギュッと自分の服の裾を握った。……いや、だからなんで、こんなに複雑な感情になっているのか。

 

これは、あれだ。仕事仲間のプライベートを見てしまったことへの罪悪感といたたまれなさによるものだ。誰だって仕事仲間の、休日のプライベートの素顔を見てしまったら動揺する。それと同じなのだ。

 

「着いたぞ。族長の屋敷だ」

 

案内されたのは集落の最奥の少し小高い丘の上にある、宮殿のような木造建築の屋敷だった。入口には魔物の頭蓋骨が飾られ、柱には繊細な装飾が施されている。

 

そして通されたのは最奥の、一際装飾の豊かで美しい部屋だった。

 

厚手のカーテンで光を遮られた部屋の寝台に、彼女はいた。

 

「ユフィリア」

 

ビョルンさんが、これまでに聞いたこともないような低い、祈るような声でその名を呼んだ。寝台に横たわっていたのは、一人のオークの女性だった。

 

オーク族にしては小柄だが、その肌は浅黒く、健康的な逞しさを感じさせる。……けれど、今はその肌も土色に曇り、激しい熱に浮かされているのか、苦しそうに呼吸を繰り返していた。

 

ビョルンさんが、迷うことなく彼女の傍らに膝をつく。

そして、細く白い指先で、彼女の額に張り付いた髪をそっと払った。その顕になった顔に、私は息を呑んだ。

 

オークを『醜悪な魔物』と定義する人間が見れば、腰を抜かすだろう。ユフィリアさんの力強い鼻筋、長く豊かな睫毛。そして、病に侵されてなお失われない、凛とした気高さ。紛うことなき美女と呼ぶのにふさわしい女性、それがビョルンさんの大切な人、ユフィリアさんなのだ。

 

「ユフィ」

 

ビョルンさんが壊れ物に触れるように彼女の手を取る、ユフィリアさんがうっすらと目を開けた。

 

「……あ……ビョルン、兄さん?」

 

「あぁ。戻ったぞ、ユフィ」

 

その瞳には隠しきれない慈愛が満ちている。ユフィリアさんは、力なく、けれど嬉しそうに口角を上げた。そして彼女はビョルンさんの無精髭に手を添えて、目を細める。

 

「ふふ……相変わらず、ね。兄さん。あのね、聞いてほしいことが、たくさんあるの」

 

「喋るな、今は体力を温存しろ」

 

二人の間に流れる、部外者が入り込めないような濃密な時間。私は、部屋の隅で石像のように固まっていた。けど、これ以上邪魔しちゃいけない気がして、その場からそっと離れようとした。

 

そんな私の気配に気づいたのか、ユフィリアさんが視線をこちらに向けた。

 

「そっちの……可愛い子は?」

 

ビョルンさんは私の方を一瞥して、しかしすぐにユフィリアさんに視線を戻した。

 

「名はルナ。今は共に旅をしている」

 

「そう。ふふっ、兄さんが、女の子を……?みんな、驚いたでしょう」

 

「バッシュの奴が、嫁候補だと騒いで面倒だった」

 

「あらあら。きっと嬉しいのよ」

 

ユフィリアさんは、頭を撫でるビョルンさんの手のひらに満足そうに瞳を閉じると、そのまま深い眠りに落ちていった。

 

ビョルンさんは立ち上がり、私の方を振り返る。その顔はいつも以上に険しくて、私はつい声をかけてしまう。

 

「ユフィリアさんの、容態は………」

 

「想像以上に悪い。今の手持ちでは、手の打ちようがない」

 

「え……!?」

 

ビョルンさんがはっきりとそう言い切ったことに、驚きを隠せない。

 

「ビョルンさんのポーションじゃ、ダメなんですか?」

 

ビョルンさんは悲痛な表情で首を横に振った。彼の苦しさが伝わってくるようで、私も息が詰まる。

 

「ただの一時しのぎだ。根本的な問題解決にはならない」

 

「根本的な解決って?」

 

「今から方法を探す」

 

端的にそういうと、彼は踵を返して出口に向かった。

 

「俺はガロールに話をつけてくる。お前は外で待て」

 

それだけ言い残すとまるで風のように素早く、その場から立ち去ってしまった。まるでこちらの返事は必要ないとでも言うように。

 

いや、まぁ、いいんですけど。

 

だけど今後の予定とか、ポルタ・サレまでの道のりとか、負債の返済プランとか色々都合があるのに、それをまるっきり無視するのは如何なものなのか。

 

「でも、家族のピンチに口を挟むのも野暮だよなぁ」

    

私がビョルンさんやユフィリアさんのために、なにかできることは無いのだろうか。胸元を握りしめて、私はビョルンさんの後に続いて屋敷の外に出た。 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回も引き続きよろしくお願いいたします

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※次回第109話『卵は完全栄養食』更新は3月24日18時です

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