102_エルフの里帰り
第102話です。
いよいよエルフの故郷に足を踏み入れるOL
ルーンデールを出発して数日経った昼過ぎ頃。街道を外れ、原生林の奥深くへと足を踏み入れた。
「あの、ビョルンさん、本当にこっちで合ってるんですか? さっきから魔物の鳴き声が近くなってる気がするんですけど」
「黙ってついて来い。はぐれると面倒だ」
相変わらずの毒舌だが、心なしか彼の歩幅はいつもより広い。その尖った耳は周囲の音を拾うように小刻みに動いている。
やがて、巨木に囲まれた開けた場所に出た。そこには丸太を組み上げた無骨で巨大な家々が立ち並び、至る所から肉を焼く香ばしい煙が立ち上っていた。いかにも狩猟民族の集落という佇まいに、私は背筋を伸ばす。
「止まれッ! 何者だ!」
「っ、ひぃ!」
見張り台から、丸太のような腕をした浅黒い肌の巨漢オークの戦士が飛び出してきた。手には巨大な戦斧。私は悲鳴を上げてビョルンさんの背中に隠れた。
オークって、アレでしょ。人を襲う典型的なモンスターでしょ!?危険な場所に踏み入れてしまったんじゃないの!?
しかし、ビョルンさんは逃げるどころか、大きく一歩前に出た。
「相変わらずだな、バッシュ」
「……あ?」
戦士が目を細め、ビョルンさんの顔を凝視する。そして次の瞬間、その大きな目が見開かれた。
「ビョルンおじさん!? 」
「え、おじさん?」
「まったく。そう呼ぶなと言っているだろうに」
呆れ返った、しかし優しい声でビョルンさんは答える。
「ビョルンおじさん!!おかえり!!」
オークの青年は見張り台から飛び降りて、その勢いのまままビョルンさんに抱擁した。さらに驚くべきことに、ビョルンさんはそれを拒むどころか笑みを浮かべて青年を腕に迎えたのだ。
「大きくなったな。さらに族長に似てきた」
「本当!?祖父さんみたいな戦士になれてるかな?」
「あぁ、そうだとも」
初めて見るほどに優しい顔で、ビョルンさんはバッシュと呼ばれた青年の肩を叩いた。そしてバッシュさんは私の方を見て、不思議そうに首を傾げる。
「そっちの人間は、もしかしてビョルンおじさんのガールフレンド?」
「が、ガールフレンドっ!?」
思っても無い言葉に声が裏返る。ビョルンさんも驚いたようで目を見開いて、首を横に振った。
「コホン、失礼しました。私はビョルンさんのビジネスパートナー、ルナと申します」
「この小娘はただの連れだ。誤解をするな」
私たちの様子にバッシュさんはニヤニヤと笑い、ビョルンさんの腹を小突いた。
「お仕事仲間だったんだな!てっきりビョルンおじさんの婚儀をする頃なのかなって思っちまったよ」
「あまり大人を揶揄うな」
「あははっ!ごめんごめん!」
ビョルンさんは困ったように言うが、その声はどこまでも優しく穏やかだ。バッシュさんは私に手を差し伸べ、私は強くその手を握り返した。ゴツゴツして大きな手はとても温かい。
「俺、バッシュ!おじさんの友達なら、俺の友達だ!」
「ありがとうございま、す……!?」
バッシュさんは握手した手を引き寄せ、私を強く抱き締めると軽々と持ち上げてしまった。胃が圧迫されたが、全力で親愛の意を示して貰えるのは素直に嬉しい。その力強い腕で、背骨をへし折られないかだけが心配だが。
「早くみんなのところに行こう!皆、おじさんに会いたがってるよ。もちろんルナのことも歓迎してくれる!」
私を降ろすと、バッシュさんは分厚い鉄の門を開けてくれた。ギィ…と重い音を立てて開かれた先は、賑やかな集落だった。
「わぁ……!!」
まず目に入るのは、広場に沿うように並んだ無骨で巨大なログハウスと革製のテント。
ログハウスは百年単位の巨木をそのまま切り出したかのような極太の丸太が、複雑に、そして頑丈に組み上げられている。荒々しい造りだけれど、どこか機能的な美しさがあった。広場のテントは露店らしく、魔物の素材で作られた道具が並んでいる。広場にはオーク達の威勢の良い声や、鍛治場で鉄を打つ音が絶えず聞こえていた。
圧倒的なスケールと賑わいに、私は興奮を隠せずビョルンさんを見上げた。
「オークの村って、こんなに賑やかなんですね!」
「ここはオーク族の中でも特に発展している集落だ。人も物も多く集まる上に、魔物も豊富に取れる」
「なるほど」
バッシュさんは広場の中央まで歩いていくと、大きく息を吸い込んだ。そして。
「おーい、皆!ビョルンおじさんが帰ってきたぞ!」
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次回も引き続きよろしくお願いいたします
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※次回第103話『放浪息子の帰還』更新は3月18日18時です




