101_焚き火を囲んで
第101話です。
焚き火を囲む穏やかな時間。OLとエルフは何を語るのか?
そうして歩いて、またすれ違う旅人にポーションや薬草を売って迎えた夕暮れ時。私たちは街道沿いの岩場で小さな焚き火を囲んだ。
「さぁビョルンさん、今日の収支報告ですよ!」
焚き火で温めたスープをビョルンさんに差し出して、私は堂々と胸を張る。
「ポーションの売上が銀貨二十枚です!お疲れ様でした!拍手!」
パチパチと拍手する私を冷えた目で見るビョルンさん。スープの中に入れた腸詰肉をパキ!と齧って、少し気が抜けたように耳を垂らす。最初の頃は『調理なんて非効率』と宣っていたが、今では喜んで口にしている。すごく分かりにくいけど。
「たかが一日の売上だ」
「何言ってるんですか。自分が売った商品が、誰かの役に立ってお金になる。やっぱり仕事にはやりがいが必要ですね」
パチパチとはぜる火を見つめながら、私は手帳に今日の売上と傾向を書き込む。
「やっぱり旅の方々は疲労回復薬をお求めになる傾向がありますね。冒険者の方々は体力回復、傷の回復系を求める。ダンジョンが近くなると、ステータス向上系を求める傾向が……」
ビョルンさんは私の隣で、居心地が悪そうに金髪をいじりながらも、私が摘んだ癒痕草を魔法で丁寧に乾燥させてくれていた。言葉こそぶっきらぼうだが、行動は実直だからありがたい。
足はパンパンで、泥だらけ。でも空は広くて、風は自由。こんな開放感、日本ならば絶対に味わえなかった。
「ふふふ。明日も、たくさん売れるといいなぁ」
私はスープで膨れた腹を撫でて、ゴロンと地面に転がった。頭上には満点の星空が広がっていて、ずっと見つめていると吸い込まれてしまいそう。
「そういえば、ポルタ・サレの中心地にはあとどれぐらいで着きそうですか?」
「このまま進めばあと一日で着くが、その前に寄りたいところがある」
私がビョルンさんの方を見ると、彼は焚き火に薪をくべながら静かに言った。その声は少し優しくて、望郷の切なさを帯びている。
「前に言っていた『取引先』ですか?」
「そうだ。その場所で数日、これまで仕入れた薬草の売り込みや今後のための仕込みを行う」
私は地図を取り出して、現在地を見た。しかしこの辺りの街道沿いにそれらしき集落はなくて、首をかしげてしまう。そんな私を見て、ビョルンさんは静かにに言った。
「地図には記されていない秘境の里だ。それでも俺の故郷のような場所には違いない」
「ビョルンさんの故郷……エルフの里ってことですか?」
「いいや」
ビョルンに似た偏屈家のエルフがたくさん住んでいる里を想像していただけに、意外な返答に面食らってしまった。人間の集落にいたのだろうか。
「生まれはとうの昔に捨てた」
その言葉には、計り知れない過去が潜んでいるのだろう。重い言葉に私が身を固くすると、ビョルンさんは大きく息を吐いて首を振った。
「べつに、生まれに拘る気はない。故郷はひとつでいい」
「故郷と仰るということは、長い時間を過ごしたとかそういう場所なんですか?」
「まぁ、それなりの時間は過ごした」
人と異なる時間を生きるビョルンさんにとって、その時間は決して短くないことはわかる。つまり、彼はそんな大切なところに私を連れていってくれるというわけだ。
「粗相はするなよ。その里の住人は気性が荒いんでな」
静かに言い聞かせるようにビョルンさんは言う。しかしその言葉には僅かなからかいの色が乗っている。私があまりにも身構えすぎていたために、場を和ませてくれたのだろう。
「もちろんです。お行儀よくします」
私は居住まいを正して、まっすぐビョルンさんの目を見て言った。
「あ、でも。昔のビョルンさんのこと、聞いても怒らないでくださいね」
「そんなことに興味があるのか」
「ビジネスパートナーの弱みを握ってやろうかと思いまして」
揶揄うように笑うと、ビョルンさんは呆れたように肩を竦めた。心底くだらないと思っている時の顔だ。
「余計なことはしなくていい。せいぜい次の商品のことでも考えていろ」
「じゃあ次は、ビョルンさんをあっと驚かせるようなものを作ってやりますよ。覚悟していてください」
私は期待に胸を弾ませながら答えて、また地面に横になった。心地よい疲れに身を任せ、満天の星空の下でまどろみ始めたのた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回も引き続きよろしくお願いいたします
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※次回第102話『エルフの里帰り』更新は3月17日18時です




