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プロローグ

 それは、4月下旬のある夜の事だった。大阪市に住む三浦令太みうられいたは、ある夢を見た。だが、今思うと、それは本当に夢だったんだろうかと思える。


「うーん・・・」


 何かに気付き、パジャマ姿の令太は目を覚ました。すると、ベッドの周りを白いお化けがぐるぐる回っている。何だろう。令太は、お化けは怖いものだと思っていた。姿を消したり、驚かしたり、人にとりついたりもする。悪さばかりすると思っていた。


「イヒヒヒヒ・・・」


 令太は怖くて、布団にくるまってしまった。怖くて怖くてしょうがない。早く消えてほしいよ。


「怖いよぉ・・・」


 その時、令太は浮遊感を覚えた。何だろう。こんな感覚、初めてだ。何が起こっているんだろう。令太は目を開けた。布団にくるまっていたのに、どうして布団から出てしまったんだろう。周りのお化けはいつの間にかいなくなっていた。どこに行ったんだろうか? 一安心して、令太は部屋の鏡に向かおうとした。


 と、令太は何かに気が付いた。足音が全く聞こえないのだ。どういう事だろう。自分の身に、何が起こったんだろう。令太は部屋の鏡を使って、自分の姿を確認した。自分の姿を見て、令太は驚いた。鏡の向こうには、お化けがいる。しかも、顔が令太そっくりだ。


「えっ!? 僕、お化けになっとる!」


 まさか、自分がお化けになってしまったのかな? でも、どうして? 令太は状況が理解できない。アワアワしている。体と魂が分離したのかと思い、布団をめくったが、そこに令太はいない。体そのものがお化けになったようだ。


「令太・・・」


 突然、誰かの優しい声がした。誰だろう。全くわからないな。令太は振り向いた。そこには若い男女がいる。令太はその男女に見覚えがあった。物心つく前に亡くなった母の直子なおこと父の正之まさゆきだ。だが、よく見ると顔が両親だが、体全体がお化けだ。まさか、お化けになって両親がやって来たのか?


「だ、誰ですか?」

「お父さんとお母さんです」


 やはり、お化けになった両親だ。どうしてここにやって来たんだろう。全くわからないな。


「なんでここに?」

「あなたに『お化けになる力』を与えましょう」


 お化けになる力? どんな力だろう。令太は首をかしげた。


「お、お化けになる力?」

「そうです・・・。その力を持つと、いろんな事ができるようになります。姿を消す、物を動かす、壁をすり抜ける、動物にとりつく、姿を消した他のお化けが見える、あらゆる物に化ける、そして、寝ている人の夢を操る。自分の意志で、元に戻れます。姿を消す時は、さらに怖がりましょう。物を動かす、ぶつかる時は、力をくわえましょう。動物にとりつく時は、念じながら体当たりをしましょう。化ける時は、化ける物をイメージしましょう。そして、夢を操る時は、寝ている人のそばで念じて、夢を想像しましょう。でも、決して悪い事に使わないでくださいね」


 そして、両親はどこかに消えていった。令太は辺りを見渡した。だが、そこに両親はいない。




 令太は目を覚ました。あの夢は、いったい何だったんだろう。両親が、どうしてお化けになって現れたんだろう。


「夢か・・・」


 令太は起き上がった。そこには、普通の自分の部屋がある。お化けはそこにはいない。次に、令太は鏡の前に立った。鏡の向こうにはいつもの自分がいる。あれはやっぱり夢だったようだ。


「いったい何やったんやろ」


 令太は今は亡き両親の写真の前に立った。それが毎日の日課だ。こうして天国の両親と会っている。


「父さん、母さん、おはよう」


 写真の両親は、笑っている。その写真は、亡くなる半年前の物だという。それを知ったのは、物心つく頃だった。


「父さん、母さん・・・」


 それにしても、あの夢に出てきたお化けは、本当に両親なんだろうか? 令太は首をかしげた。


「令ちゃーん、もう7時よー」


 下の階で、叔父の妻、馬場鶴子ばばつるこの声がする。これもいつもの光景だ。


「はーい!」


 その声を聞いて、令太は部屋を出て、下の階に向かった。その時令太は知らなかった。自分がある力を持ったという事を。

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