第一話〜悪魔の鞭
時間がかかっております。許しくださいませ。書かせていただきました。よろしくお読みになっていただけましたら幸いです。
カムランも、シュラビも、疲れ果てていた。とくにカムランは、妻シュラビのことを案じた。
カムランは、彼の背中にくっつくような形で尾いてくるシュラビに向かって呟くように言った。
「いくらなんでも、もう駄目だ。これは過酷過ぎる。さっきからもう、2時間は
水も飲んでないぞ。な。だから少し休ませて貰おう」
が、夫婦が湿めっぽい地面に腰を下ろそうとした次の瞬間である。
当局による制裁は無慈悲であった。
カムランもシュラビも、何が起きたのか把握するのに時間が掛かった。
しゅるしゅると音を立てながら巻き戻されてゆく蛇の身体状の黒紐が、黄色く光っているのを見た。
「電磁鞭だ」
悔しそうにそう叫んだのは夫の方であった。カムランは、すぐに隣で身体を丸めながら震えているシュラビに目を遣った。蛇紐は、すでに河の中へと消えていた。
「大丈夫か?くそっ!情けも容赦もない。奴らめ!一体何のためにこんなことを」
彼は声を荒げた。そして、妻の衣服に焦げたような跡があるのを見逃さなかった。
酷いことを。病人を電磁鞭で打つのか!──。
カムランは怒っている様子だった。見れば彼の服とて真っ黒に焦げているのだが。
「痛いだろう痛いだろう。大丈夫。僕が必ず君をゴールまで守っていくからね」
シュラビの背中を擦った。
ところが、こんな大声がその声を消し去ってしまうのである。
『こらあーサボってんじゃねーぞ。また鞭をお見舞いしろってことかよ。ほら!さっさと歩きやがれ』
AIで生成したような無機質な声だった。続いていかにも 重たげな足音が近づいてきた。ぎゅっぎゅっと地面の泥濘を踏み締めている音が不気味に響く。
「おのれ!悪魔どもめ」
カムランは恨み節をぶつけたが、何の効果もなかった。
「あなた。逃げて。わたしは置いていってもらって構わないわ」
シュラビの目尻からは哀しみとも悔しさとも取れる涙が流れていた。
彼はシュラビの華奢な肩を抱いた。
「そんなことするもんか!君だけは置いて行かないよ!一人きりにするものか!僕が必ず守るから!」
しかし、水中から現れたそれは、もう彼らの目の前まで迫っており、その異様な姿を曝け出しているのだった。
それは人のかたちと思われる形を成していた。いやしかし、その形状は金属で構成されているようだった。
──人型AIロボットだ。
咄嗟にカムランはシュラビの手を引いて後ろの方向に走り出した。足元の泥濘は彼らの速度を無慈悲にも奪ったが、とにかく走った。
ロボットとて、このぬかるんだ地面では、それほど高速には歩けないようだった。
「しっかり掴まっとれよ」
一回シュラビの方を振り返った。ロボットとの距離は意外にも近いようだった。
──くそっ
その時、であった。
背後からシュルシュルばちばちというあの嫌な音が追ってくるのに気づいた。
──電磁鞭か!
ふたりは一瞬で悟った。今度、あの電撃を食らわされたらもう身体は保たないのかもしれない。
シュラビはそう悟り、カムランの手を振りほどいた。
な!なにを?
カムランは絶叫した。彼女との距離が慣れて行くのを見た。彼は急停止しようとしたが、足元のぬかるみに靴が引っかかった。彼はその場に頭から倒れ込んだ。
「いやっ」
そんな声を聞いたような気がした。
彼は絶望し、してぎゅっと目を閉じた。
その時である。
お読みになっていただけまして 誠にありがとうございました。次なる展開は乞うご期待。よろしくお願い申し上げます。




